不器用な舌打ち2





好きって苦しい。
痛い位に心臓が跳ねやがる。
お前を想うと胸が苦しい。


でも、くだらねェ事で
すぐカッとなっちまって。

これからもきっと
俺はそうだと思うけど…

そう言った俺に
お前は唯笑った。

畜生。

それだけで
俺はこんなにも幸せになっちまうモンだから。

俺はお前の事が
本当に好きなんだと思う。


「あ、お前今アイツの事見ただろ!」

「おい、お前ッ
何処見て…」

「おい、なまえッ」


……最近、グリ様が可笑しい。
何が可笑しいって…
色々?

そう、色々。

色々有って
まァ、色々間違えて。

何か良く分からないけれど、今こうしてグリ様の隣に居る事が心地良かったり。
そんなあたしはグリ様の従属官。
破面みょうじ、なまえ。
十刃のグリムジョー様の従属官。

元々はウルキオラ様の従属官だったのに。
何か良く分からないけれど、グリ様の従属官になって。
そして何故か人生まで共に歩む、恋人という物になってしまって。

それが嫌じゃない自分が不思議に思う今日この頃。

そんなあたし達、何故か現世に来ています。
何故って…
グリ様が…………

「おい、甘いモンが食いてェ」
『…食べれば良いじゃない』
「虚圏にそんなモン、有ると思うのかよッ」


ああ、成程。
言われてみれば。
大体、この世界には水も無い。
…のに、何故かお茶とか珈琲とか…
謎過ぎる。
って、ギン様も言っていたし。

この前も破面大百科で、藍染様が飲んでいた紅茶に疑問が出たけれど、結局謎のままだし。
此処、虚圏には謎が多過ぎる。
でも、いくらなんでも尸魂界みたいに果物が生っている訳でもないし、瀞霊廷みたいにお店が有る訳も無く。
そんな虚圏に甘い物なんて、ある筈も無い。

って事で。


「現世行かねェ?」
『ゲンセ?
大丈夫デスカ?
頭打チマシタ?』
「うぜェな、おい。
馬鹿にすんじゃねェ」


と、現世に行きたいと始まったグリ様。
仕方なく藍染様の元に赴くあたし。

藍染様、お許しくれるかしら…

はあぁぁぁあ…

藍染様の居らっしゃる部屋の前で、深呼吸という名の溜息を吐く。
いざ!
と、手を軽く握ってノックしようとすると


「なまえかい?
入っておいで」


と、柔らかく穏やかな声が届いた。


『はい』


声が震えない様に、喉に力を込める。
うん、どうやるのかは知らないけれど。
取り敢えず、意識はそんな感じで。


「どうしたんだい?
君が私の所に来るなんて」


目が笑ってませんわよ、藍染様。


『グリさ…グリムジョー様が、現世に行きたいと仰るので…
その許可を頂きに参った次第です』
「グリムジョーが現世に?
面白い事を言う」


…ですよね。
何しに行くんだっていう話ですよ。
ええ、甘い物を食べに。
それだけの理由で。

ああ、怖い怖い。
藍染様の顔が見れないじゃないか。

まァ、膝まづいて床を見つめているんだから、藍染様の顔を見る必要なんて無いけれど。

「嫌やな、藍染隊長。
察してさげて下さい」
「ギンか…」


そんな所にギン様がやってきた(らしい)。
察するって…何を?
ちょっと、余計な事言わないでよ!
ああ、怖い怖い怖―…


「そうか…
許可しよう」




……What?

バッと顔を上げて、藍染様を見つめる。
その横には不敵に笑うギン様。
はい、意味が分からない。


「現世に危害を加える訳じゃ無いのなら、私が君達を止める理由は無い」
『は…しかし…』
「良え言うてるんやし、何か問題でも有るの?
楽しんでくれば良えやん」


ギン様も藍染様も、薄ら笑いを浮かべていて…
気持ちが読めないったら、ありゃしない。


『は…有難う御座います』


あたしはもう一度頭を下げ、目を閉じた。
何だか良く分からないけれど、お許しを貰えたのだから、まァ良いか。


「気を付けて行ってくるんだよ。
君等に何か有ったら…ね…」
『…ッはい』


グンと霊圧をあげ、言葉を濁す。
あたし達破面を、本当の家族の様に大切に思ってくれている藍染様。
その想いは嬉しいのだけれど…
正直、霊圧の膨大さや裏が見えない所が怖くて仕方ない。

あたしは立ち上がり、もう一度礼をして部屋を出た。
重苦しい霊圧から助けられて、ホッと息をつく。

全く。これからはグリ様に直接行って貰おう。
そう堅く誓った。





という事が有ったからさ。
で、何故か義骸等の手配を浦原サンが引き受けてくれて。
良く分からないまま、あたしはグリ様の隣を歩いている。




ったく。どいつもこいつもよ。
大体なまえもなまえだ。
何で…ったく。


『グリ様、何怒ってるの?』
「あ゛?
別に怒ってなんかねェよッ」
『嘘ばっかり』
「チッ」


どうもなまえが相手だと、遣り辛ェ。
俺の事見透かしてるみてェで、何言っても勝てねェ。







グリ様が怒ってる。
何に対してだか分からないけれど。
ていうか、解った試しがないんだけど。
何で怒ってるんだろう。
もう。

…にしても。
現世は見た事の無い物ばかりで…
目が引かれる。
あ、あれ可愛いな。
あれは何に使うんだろう。
あの人の眼鏡、格好良い…


「他の男見んじゃねェ」
『ひゃッ』


突然視界が真っ暗になって、グリ様の低い声が上から降って来る。


『べ、別に見て…無いしッ///』


眼鏡は見てたけど。
あ、これ言い訳か。
でも、その人自体見てた訳じゃないし…


「嘘付け。
てめェ、今口尖らせただろ」
『それが何よ』
「てめェが嘘吐く時の癖」
『う、嘘じゃないもんッ』


くそ。
そんな所までバレバレとは…
あたし、そんな癖有ったのか。
これは思わぬ収穫だ…

…お、金髪おかっぱだ。
珍し…


「おい」
『だ、だから見てないって!』
「あ゛?
何の話だよ」
『へ?』


今は完璧見てたんですけど…
まァ、気付いてないなら良いか…

と、ホッとしたあたしの口から出た声は、何とも間抜けな声で。
グリ様はあたしの間抜けな声に、眉間に皺を寄せた。
「何だ、てめェ。
どっか打ったのか?」


まァ、酷い。
仮にも彼女に言う台詞?それ。


「まァ良い。
着いたぜ」
『着いた…?』


グリ様が顎でしゃくって示す場所。
其処には何とも可愛らしいお店が…
うん、こういうの好き。
ええ、好み。
バリ好み。
森の奥の小さな家…みたいな。
クマさんとかウサギさんとか、出て来ちゃいそうな…
成程、これが森ガールとか言う奴の住処か。

え、違う?

しかし、こんな所にグリ様が入る訳―…


「何だよ、置いてくぞ」


入ってたあぁ…

木で出来た扉を開いて、あたしを睨みつける。
ちょ、まじッスか。
……本人が良いなら、良いんですけど…


『待ってよ』


あたしは小屋に消えて行くグリ様の後を追った。



「……何か…落ち着かない」
『あ゙?』
『グリ様、目立ってる』
「ほぉか?」


もぐもぐと、チョコレートパフェたるものを頬張るグリ様。
こんな明らか不良な身形の男が、こんな可愛らしいお店でチョコパフェをもきゅもきゅしてるモンだから、目立ってしょうがない。
でも、目立っている理由は、それだけじゃない気が…
くそぅ。
あの辺の女、グリ様見て頬染めやがって。
あたしの事見て、明らかに嫌な顔しやがって。
見んな。
あたしのグリ様を。

…おっと。
嫉妬、格好悪いぞ。


「お前全然喰ってねェじゃねェか。
うら、喰え」
『ちょ…太るッ』
「あ゙?
今更気にすんな」
『失礼過ぎるッ』


あたしのバニラアイス殿にブラウニーやら何やらを乗せて来る。
あたしはそれを律儀にちょこまか返していく。


「チッ…
返してんじゃねェよ。
うらうら」
『むぐッ』


やたら細長いスプーンに一口分掬うと、あたしの口に無理矢理入れて来やがる。
バニラアイス殿とは全然違う甘みが口一杯に広がる。

もうあたしは君の虜だ、チョコパ君。

「美味ェだろ?」
『…まぁまぁ』
「チッ
素直じゃねェ」


当たり前だけど、あたしが咥えたスプーンでパフェを食べるグリ様。
うう…何だか恥ずかしいんですけど…


そんな赤面パフェタイムは、滞りなく終了し、あたし達は店の外に出た。


うーん…やっぱりグリ様、見られてる。

横目でチラリとグリ様を見上げる。
確かに格好良い。
まァ、明らか不良かチンピラか、ヤの字の付く人なんだけど。
でも、違う"格好良さ"を持っている。
これはグリ様にしか出せない雰囲気で…
ああ、畜生。
見惚れちゃうジャマイカ。


「―…い、おいッ」
『ッ?!』


グイッと腕を引っ張られ、ハッと気が付くと目の前を車がクラクションを鳴らしながら通過した。
信号は赤になっていて、あたしは危うく信号無視をする所だった。
心臓が今頃ドキドキ鳴り始める。

…危なかったぁぁ…


「テメェ!
ちゃんと信号見ろ、阿呆!」
『う…ご免…』
「はぁ…気が気じゃねェ…」


真剣に溜息を吐くグリ様。
心配…してくれたんだよね?

やだ、ちょっと嬉しい…。

…嬉しいんだけど…
周りの女子の目線がウザイのなんの。
見るな、見るな。
ああ、嫉妬格好悪い。


「なまえ、お前ちょっと此処で待ってろ」
『何で?』


信号を渡り終えた所で、グリ様が何かを見つけたらしく、そっちの方を見つめながら言い渡される。
何を見つけたの?
何で待ってるの?
一緒に行っちゃダメなの?
色んな疑問を込めて、『何で?』の一言。
グリ様は、良いから。とだけ言って走っていってしまった。

走る姿すらも様になっていて、ちょっと格好良い。

……何時からあたしは、こんなにグリ様が好きになっちゃったんだろう?
何だか悔しい。

あたしは言われた通り、ガードレールに寄りかかりながらグリ様の帰りを待つ事にした。

今更だけど、あたし今日の格好露出度高くない?
普段着てる死覇装は、そんなに露出高くないから気にしてなかったけど。
そう言えば今度死覇装のデザイン考えてって藍染様に言われてたんだ。
帰ったら考えよう。
ああして、此処をこうして。

…今考えてんじゃん。

まァ良いか。暇だし。

「ねェ、今暇?」


うん、暇。
え?何?

ふと見上げると、其処にはちょっと近過ぎない?
っていう位置に知らない男の顔。

誰だ、お前。


「こんな所じゃ何だし。
一緒にお茶しない?」


おお、この台詞知ってる。
"なんぱ"ってヤツだ。
現世のドラマで見たッ
大概脇役の奴が、主人公に声掛けるんだよね。


「ねェ、俺奢るし」


そうそう、こうやって言って無駄なら実力行使。

ほら、あたしの腕を引っ張って…
って、


『や、止めてよ…ッ』


ぐいぐい引っ張られる。
グリ様と違って、優しさの欠片も無い。
唯痛いだけ。

グリ様に触れられると、其処だけ熱を持ったみたいに熱くなるのに。

コイツに触れられると、痛い。
気持ち悪い。

『離してよ…
も…しつこいッ』
「良いじゃん、俺の奢りだってば」
『そういう問題じゃ―…』


こういう時に、彼氏(or 好きな人)が助けに―…


「俺のだよッ」


―…え?


ふわっと薫る、この匂い…

見上げた先には、端正な顔立ち。
その顔には明らかに"怒り"しか無いけれど。


『グ…グリ様…』
「…ッ
すみませんでした…ッ」


グリ様の威嚇に負けて、そそくさと、黒光りする例の虫の如く逃げて行く男。


「ったく!
テメェは!」


ええー
あたしぃ?


「何ほんの数分で絡まれてんだよッ
もう少しケーカイしろ、ケーカイ」
『警戒が感じで言えて無いよ?』
「煩ェ!!」


おっと。
相当ご立腹。
そんなに怒らなくても…


「無防備過ぎンだよッ
どうして何時もそうなんだよッ
テメェは!
本当は付いて行きてェのか?
あ゙?!」
『―…ッッ』


目頭が熱くなる。


『そ…そんな言い方しなくても良いじゃん…
あたし…だって、怖く…ッ』


ダメだ。
言葉が詰まった。
その代わりに出て来るのは、温かい雫。
グリ様の苦手なモノ。

泣くな。

…ダメだ。
そう思えば思う程、涙が…
くそぅ…
義骸なのに、こういう所凝ってるんだから。
浦原サン…


「チッ…泣くなよ…
悪かった…」


グリ様が罰の悪そうな顔で、そっぽ向いたまま謝る。
何だ、それ。
謝る気有るのか。

…って言いたいけど。

言葉の中に妙な優しさが見えたから、それで許してやろう。

涙も止まり、落ち着きを取り戻したあたし。
鼻を啜りながら、グリ様を見上げる。


『そういえば…
何してたの?』


あたしの質問に、グリ様はぷいっとね。
ああ、そう。
言いたくないのね。


「おら、行くぞ」


スタスタと早歩き。
ああもう。
背高いし、脚も当然長いグリ様。
あたしとのコンパス考えてよ。

慌てて走って追いかければ、急に立ち止まるグリ様。
どうやら信号が赤だったらしい。




人 間 、 急 に は 
止 ま れ ま せ ん 。

(これ、教訓)



あたしはそのままグリ様に激突。
でかいグリ様は微動だにせず、あたしが反動で後ろに弾かれる。
そんなあたしの腰に腕を回し、ナイスキャッチするグリ様。


「チッ
何やってんだよ、お前は」


そんな言い方しなくても良いじゃん。
前見えなかったんだもん。
グリ様が急に止まるからでしょ。

色んな言い訳が浮かんでは消えて行く。

腰に回された手が戻っていく瞬間、あたしの右手に触れたから。

熱を持ち始める右手。
此処でグリ様の左手を握る事が出来ないのが、何とももどかしい。
指先に心臓が有るみたいに、トクン…と脈打つ。

ああ、何だか顔まで熱くなってきた。


「なまえ」
『?』


名前を呼ばれ、上を向く。


「そういう顔、外ですんな」


とだけ言い放つ。
あたしの顔見てない癖に。
大体、そんな顔ってどういう顔よ。


『グリ様、意味不明ー
ちょべりばー』
「…良いか、なまえ。
これは俺でも分かる。
今時"ちょべりば"は使わない」


げんなりとした表情を見せるグリ様。
ほほぅ。
そいつぁ初耳でさぁ。

ていうか、ちょべりばってどう?
超・ベリーバッド。
何故日英ミックス?
まァ、考えた奴は凄いとは思うけど。
直訳しても、超・超最悪って事でしょ?
どんだけ最悪なんだ。
…じゃあ、分かった。


『ベリー超最悪?』
「日本語と英語逆にしてもダメだ」
『……超・超バッド』
「……もう、分かったから」


んー…
と小首を捻るあたし。
そんなあたしを無視して、さっさと歩いていくグリ様。
信号変わってたんだね。

今度はぶつからない様に、適度なスピードで追いかける。
何だかんだ、あたしが隣に並ぶと歩幅合わせてくれるんだ。
そういう小さい優しさ、知ってるよ。
実は気付いてるんだな。
あたしに車道側歩かせない所とか。
人混みは避けてくれる所とか。
本当に不器用なんだから。

でも、愛されてる感じするし。
いっか。

うん。

ちょべりハピw
あ、何かリズムが合わない。
…ダメだ。
良いのが思い浮かばない。


『グリ様?』
「あ゙?」
『好き』


初めて、あたしから言った…
気がする。
何回か言ったかな?
いや、どうだろ。

グリ様はまるでお地蔵様の様に固まる。

フリーズ中?

お、再起動中になった。

起動。

おお、顔が真っ赤。


「テメェはッ
往来でそういう事言うんじゃねェ!!」


あらら、意外と照れ屋さん。
耳まで真っ赤にしちゃって。
可愛らしい。


『良いじゃん、減るもんじゃないし』
「減るだろ、俺の寿命が!」
『何で?』
「心臓が早く動くからだッ!!
……ハッ」


グリ様の言葉を聞いて、あたしの口端が上がったのは言うまでも無い。
それって、ドキドキしちゃうw
って事ですよね?

本人も行った後に気付いたみたいだし。
何も言わずに、此処は見守りましょう。
ええ、ニヤニヤ顔で。


「テメェ!
そんな顔で俺を見るんじゃねェ!!」
『はいはい』


怒ってる怒ってる。
分かり易い奴だ。

色々有った現世から戻って来たあたし達。
グリ様の宮でのんびりしていると、グリ様が珍しくお茶を要求してくる。

お茶を用意しに、部屋を出る。
すると其処に妖しい微笑みを湛えたギン様のお姿。
なんでこの人はこうも出て来るタイミングが良いのだろうか。
それともあれか。
作品の中に一回でも出無いと、気が済まない性質か。


「どないやった?
現世デート」


……で・ぃ・と?
何だ、それ。
誰がした、そんなもん。


「嫌やなァ、グリムジョーと一緒に行ったんやろ?」


全く、この人は。
相変わらずあたしの思考を、いとも簡単に読み取る。


「君が分かり易いだけだよって」
『…何処まで読むんですか、人の心』
「底の底までやw」


絶対楽しんでる、この人。


「で、楽しかったん?」
『デートなんてしてません』


フンッと鼻を鳴らす。
ギン様は表情を崩さず、


「なまえちゃんのデートって、どういうのを言うの?」


との事。
デートねェ…
どういうのって。
まァ、現世の漫画やらテレビやらで見た範囲で良いなら、言えますよ?


『男女が二人きりで出掛ける事?』
「大正解。
それやったら、なして君等はデートや無いの?」


うーん…確かに、デートの定義には当てはまっていますな。
ふむ…


『あたしは従属官として、グリ様の願いを叶えるために現世に赴いただけです』


そう、それ。
自分で言っといて何だけど、正にそれ。
彼女として、というよりも従属官として。
それだ、それ。


「ふぅん…グリムジョーも救われへん子ォやね」


意味深な言葉を残し、ギン様は去って行った。
それだけの為に、此処に居らしたんですか。
暇人ですね。

しかしこのタイミング良さ…
やっぱり…計ってるのかな?

末恐ろしいな、あの人。


『…おっと。
こんな事してないで、お茶お茶』


あたしは慌ててお茶を用意した。


お茶を用意して、グリ様の元に戻る。
遅い、と怒られたけど。
お茶じゃ無くてあたしがでしょ?
って言い返したら、真っ赤になって舌打ち。
可愛い奴だ。


『ねェ、グリ様。
現世に行ったの…あれって…
デート?』
「ゴフッ」
『だ、大丈夫?!』


あたしの質問に、珈琲を拭き出すグリ様。
気管に入ったらしく、激しく咽る。
背中を摩りながら、タオルを渡した。

何、それ。
動揺?
動揺ってどうよう?
ぶぇっくしょん!!
…あれ、何か気温下がった?


「ゴホゴホッ
な、何だァ?
いきなり」


やっと一息つけたらしく、少し咽せながら喋る。


『だって、さっきギン様に
現世デートどうだった?って聞かれたから…』


咽たからか、理由は良く分からないけれど、顔を紅くするグリ様。
あらあら。可愛らしい。


「ばッ…だ、誰がデートだ!
デート何かしてねェッ」


おお、これはツンデレってやつですか。
でも、なんか…
否定されると傷つく様な…


『じゃあ、グリ様のデートの定義って何?』
「あ゙?」


あたしの質問に、眉間に皺を寄せる。
考えてる、考えてる。


「男女二人っきりで…
どっか行く…とかじゃ無ェのか?」
『じゃあ、定義に当て嵌まってるじゃん』
「……」


お、黙った。
舌打ちしない。
ちょっと悩んでるんだな。

暫らくしてから、言い返す言葉が見つからなかったのか、舌打ちをする。
お、都合悪くなったんだ。
分かり易。


『大体、何であんな可愛らしい店なの?』
「……ッ//」


…赤くなった。
…この反応は新鮮だ。
何だ、何なんだ、それは。


「お前が…」
『あたしが?』


やっとの事で口を開いたけれど、グリ様の視線はあたしから外れていて。
無理矢理視界の中に入ろうとしてみるけど…
右手でそれを制される。
そのまま、あたしの顔を覆う様に目隠し。
手も大きいから、目元も完全に隠れて、視界は暗闇。


「お前が…ああいうの、好きだから…」


…あたしの為?
え、あたしの趣味に合わせて?


『突然現世に行きたいって、言ったのも…
あたしの為?』


顔は見えないけれど、多分グリ様は真っ赤になってるだろう。
ああ、見たい。
真っ赤になったグリ様が見たい。
手、退けてくれないかな…

そんなあたしの思考を遮る様に、グリ様の低い声が鼓膜を揺らす。
視界が塞がれているからだろうか。
声や音がやたらハッキリと聞こえる。


「お前…前に…その…
本当の日差しが見たいって…言ってたから」
『本当の…日差し…?』





「何かあったか?」


窓の外に向かって、珍しく溜息を吐くあたしに、グリ様がこれまた珍しく気にかける。
あたしは首を横に振り、窓の外に視線を戻した。

あたしは虚圏で生まれ、天蓋の向こうの夜空と、この天蓋の陽しか知らない。
空は広いを聞くけれど、あたしは偽りの太陽と果てしない夜空しか知らない。


『本当の日差しって…
温かいのかな』


そう、ぽそっと呟いた。



別に見たいとハッキリ言った訳でも無い。
でも、グリ様はそんな独り言に近い言葉すらも拾って、こうして叶えてくれた。

思えば、グリ様の従属官になった時だって。
あたしの事が好きで、あたしの笑顔が見たくて、従属官にした。
でも、それを素直に伝える術を持っていないから、ウルキオラの所有物を奪うだけだ、という口実を使った。

本当に、不器用なんだから。
でも、そういう所が好き。









本当、調子狂う。

ダメだ、コイツと居ると。
俺が俺じゃ無くなる。
怒鳴ってばっかだ。
こんな事言いたい訳じゃないのに。

大体、コイツもコイツで。
義骸だが何だか知らねェけど、露出度高ェんだよッ
ひらひらしたスカート、短くねェか?
いや、まァ似合って無い訳じゃねェけど。
背中だってバックリ開いてるし。
可愛いから、似合ってるから良いってモンじゃねェんだよ。

なまえは自分の顔を分かってねェ。
鏡見て来いって言ったら、鏡の前でガックリ肩落としてるし。
少しほっぺに肉が付いて来たからな。
それを気にしてんのか。
気にして欲しいのは、其処じゃねェんだが。

目だってでけェし。
スタイルも悪かねェ。
長い髪だって触り心地が良い。

現世は嫌いだ。
男がアイツをイカガワシイ目で見るからよ。
本人気付いてねェし。

そんなだから、男に絡まれるんだよ。
少し俺が傍に居なくなっただけで、何で男に絡まれてんだ。
ホイホイホイホイ…
ゴキブリホイホイならぬ、チャラ男ホイホイか。
お、上手い。
じゃねェ。

アイツは無防備過ぎんだ。
なのに、結局俺が泣かせちまうし。

小さい事でいちいち拗ねるし。
唇を少しだけ突き出して、俯いて。
そういう顔、すんじゃねェよ。
ちょっと可愛いとか思っちまうじゃねェか。

突然突進してきたと思ったら、跳ね返るし。
何がしてェんだ、コイツは。
急に顔赤くしやがって。

そういうキスする直前の顔、道端ですんな。
襲うぞ、コラ。

戻って来て、お茶頼んで、部屋に一人になった俺。
ポケットから、少し包装がよれちまった箱を取り出す。
なまえが男に絡まれている間に、急いで買ったヤツ。
あーあ。
結局、コレ。
渡すタイミング逃したな。

なまえが戻って来て、焦って箱を隠す。
遅ェって言ったら、あたしがでしょ?
って聞かれて。
違いねェ・と思ったら言葉に詰まって。
出て来たのは舌打ちだけ。
そんな俺を見て、微笑むなまえ。
何もかもお見通しって事かよ。

はああぁぁ…
ったく。
デートの事だって。
クソ、市丸の野郎。
計ってんな。

ぜってェぶっ殺す。
結局白状させられる、俺も俺。

…チッ
格好悪ィ。

こんな状況で、どうしろって言うんだよ。
最高に最悪で、最高に格好悪ィ俺。
ポケットの中に手を突っ込みながら、この状況を打破する為の言葉を探る。
指先に触れるのは、小さな箱と緊張だけ。

上手い言葉が見つからねェ。
でも、まァ
それが俺なのかもな。

そう思うと、少し楽になった。
格好付け様としなくても、俺らしく。
俺なりに。

それで良いじゃねェか。


「なァ…なまえ―…」










え、マヂですかィ。
これは何かの夢?

あたしの目の前には、これでもかっていう位顔を紅くしたグリ様と、包装がすこしよれた小さな箱。
そして、痛い位、あたしの胸を貫いた言葉。
それはもう、凶器の如く。
ズバンッとね。
心臓を一突き。
致命傷。

不意打ちじゃ、避けれる物も避けれない。

胸に突き刺さった言葉、それはグリ様が一生懸命考えた言葉。
紡ぎ出した言葉は、真っ白なノートにあたし達だけの物語を綴る。

少し強引なグリ様の言葉。
それがグリ様らしいけれど。


『ほ…本当に?』
「煩ェ。
何度も言わせるな」


ほっぺを摘んでみるけれど、確かに痛い。
摘み易くなった頬が、憎い位だ。


「俺が冗談で言う様なタイプに見えンのかよ」


仰る通り。


「納得すんな。
むかつく野郎だ」
『野郎じゃなくて、女です』
「……むかつくウーマンめ」
『ぶはッ』


ウーマンて。
英語にすれば良いってモンじゃないでしょ。
そう言いたいけれど、笑いが込み上げてそれどころじゃない。


「チッ
雰囲気壊しやがって」
『雰囲気とか、最初から無いでしょう?』


大体、あたし達二人にムード求める方が可笑しいの。
あたし達が主役なら、何処ぞのジョニーの様に、ホラー映画ですらコメディになりますよ。

…最高のラブコメに。


『グリ様…』
「あ゙?」
『有難う』


また舌打ちする。
もう、本当。
その癖、どうにかしたいものね。
…でも、嫌いじゃないんだけどね。

不器用で、強引で。
そんなグリ様が、世界で一番好きだけど。
そういう事言ったら、また怒鳴るだろうから。
心の内に秘めておく。








「なァ…なまえ」
『なぁに?』


カップを片付け、床に零れた珈琲を拭くなまえ。
俺はポケットから小さな箱を取り出した。


「多分…俺、これからずっとお前の事愛せるから」
『え?』


何、急に。とでも言いたげな表情。
俺はなまえに箱を投げる様に渡す。


『何、これ』


少し包装がよれた箱を不思議そうに見つめる。
言わなきゃ分かんねェのかよ。
と、言いそうになるのを喉のこの辺で止める。
そう、この辺。
分かるだろ、この辺。


「煩ェ。
誓ってやるっつってんだ」
『な、何を』
「だからッ
俺の永遠、お前に誓うって言ってんだ!」


結局怒鳴る俺。
自己嫌悪。

なまえも分かれよ。
鈍感。
全部言わせんな。

言っちまったけど。

椅子に座ってる、自分の脚を机代わりにして、肘を付いて頬を支える。
なまえを直視出来なくて、そっぽ向いてるけど。
なまえの痛い位の視線が刺さる。


『グリ様の永遠を、あたしに?』


そうだって言ってンだろ、バカが。


「俺がテメェに永遠をやるっつってんだ。
テメェも俺に永遠を誓え!」


我ながら、何て横暴。
悔しいくらい、横暴。
お前を前にすると、つい、言葉が濁る。
結局無理矢理言葉を吐き出すと、それが怒声に変わる。
こんな俺だけど、お前は嫌な顔一つしないで。
傍に……居てくれたから。

きっと…いや、多分。
俺にはお前しかダメだと思う。

-なまえ-
お前は見かけによらず、意外と我が儘だし。
小さい事ですぐ拗ねる。
ヤキモチ妬きで、嫉妬深いのも知ってる。
素直じゃない所も、全部。

その全部をひっくるめて、お前が好きだ。

下らねェ事で、カッとなって。
すぐ怒鳴る俺だけど。

多分、誰よりもお前の事好きだから。

何をしてても、俺の頭の大半を占めるのはお前で。
これはきっと、治る事の無い、不治の病で。
治らなくても良いか・とか思う俺は、既に末期で。

其処で気付いたんだ。
俺の隣に、俺の傍にはお前が居れば良い。
それだけで幸せだって言う事。

でも、それを言葉で伝えるのが難しいから。
こうして文字にして、文章で綴ってる訳だけど。
俺の想いは届いてるだろうか。

何があっても、俺はお前の笑顔を護るから。
なんて臭い言葉、書いてて背筋がゾクゾクする。
せめて、お前が泣く事世界を無くしたいから。
その為に俺が出来る事を考えてみたけど。
俺の足りない頭じゃ、何も良い方法が浮かばない。
お前の傍に居るって事くらいしか、分からねェ。
それでも、お前がそれで
笑ってくれているなら、それで良いと思う。

お前は俺の傍でだけ
笑ってりゃ良いんだよ。

俺はお前の為だったら
命だって賭けれるから。

柄にもなく、こんな事書いてるけど、これを見てどうせお前は笑うんだ。
それで、真っ赤になった俺をからかうんだ。

そんな日常が心地良いと感じるんだ。
お前だって、同じだろ?

-grimmjow-




『グリ様…これ…』
「……ッ//」
『そんなにあたしの事愛し―…』
「煩ェ!
それ以上喋るな!」


…真っ赤になった俺をからかうんだ。










『ふふっ
グリ様、真っ赤』
「煩ェッ//」


でも、こんな日常が、心地良いんでしょう?
だったら、もう少しからかわせてよ。

人差し指で、頬を突こうとする。
しかし、その指先は目的地に辿り着く前に、グリ様の大きな手によって遮られた。


「懲りねェ野郎だな、おい」


そう言ってそのままあたしを引き寄せる。
バランスを崩したあたしは、そのままグリ様の胸にもたれた。


「俺に永遠を誓え。
言っておくが、お前に拒否権はねェ」


なんて横暴。なんて不器用。
こんな時ですら、素直に言葉を並べられ無いグリ様。
でも、そんな貴方に永遠を誓うのも悪くない。


『誓います』


微笑んだあたしに、少し荒々しいキスが降って来た。



不器用な舌打ち
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横暴君主に誓った愛


(グリムジョーが手紙って、想像もできませんね)

11.05.16.08:57


 

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