100%ビター





私が一体、どんな気持ちで貴方を見つめているか、なんて。
貴方は知らないだろうし、知る由もない。


「みょうじ三席、この書類頼めるかい?」
『吉良副隊長…』


憂いを帯びた口元、弱々しげな笑顔。
頼りなさそうに見えるけれど、意志の強い瞳。
酷く整った顔立ちは、前髪で半分隠れているけれど、風で靡いたときとか、ふとした時にその表情が見えると胸が高鳴る。
一瞬にして周りの音が消え去るの。

私は吉良副隊長の持っていた書類をしっかりと受け取ると、承ります、と一言呟いてすぐさま視線を逸らした。
吉良副隊長は頼むよとだけ言って、自席に着いた。
筆を走らせる音と、開けた窓から聞こえる鳥のさえずり、時折執務室を吹き抜ける風の音。
私たちの空間はたったそれだけで構成されていた。

私の鼓動の音がやたらと大きくて、気付かれないように下唇を噛みしめながら必死に筆を走らせる。


「みょうじ三席が真面目で助かるよ」
『ぇ…』


吉良副隊長の優しくも低い声が鼓膜を揺らした。
書類から顔を上げれば、自席に座り、書類と向き合ったままの吉良副隊長。
何も反応しなのは、失礼かと思って戸惑っていると、不意に吉良副隊長が顔を上げた。


「うちの隊長が隊長だからね」


吉良副隊長は、またサボって空席になっている市丸隊長の席を見て、そこから私へと視線をずらした。
クス、と唇の端から漏れる吐息。
目尻が下がり、薄い唇が弧を描く。
優しい笑顔に、私の体温が急上昇するのが嫌でも分かる。
私は慌てて視線を逸らした。


「みょうじ三席が手伝ってくれるから、僕は凄く助かっているんだ」
『…恐縮です』


心臓が喉にあるみたいに苦しい。
私はその一言を絞り出すのがやっとだった。


「時に聞きたいんだけど」
『はい』


私は副隊長に視線を戻さないまま、相槌を打つ。


「みょうじ三席は僕の事が嫌いなのかな」
『え…』


予想もしていなかった質問に、思わず視線を副隊長に戻す。


「ふふ…やっとこっちを見たね」


少し意地悪な笑顔に、私は耳まで赤くなるのを感じた。


「その反応、君は僕のことを嫌いじゃないと取って良いのかな?」
『あ、えと…その…』


お腹が痛い…
正確に言えば、心臓があまりにも大きく鼓動するものだから、息苦しいだけなんだけど。
緊張しすぎて、じっとしていられない感じ。

私はどう返して良いか分からずにまた視線を逸らした。


「…この場面で視線を逸らされると、胃が痛くなるね…」


胃のあたりを押さえながら、何時もよりも弱々しい頬笑みを浮かべる吉良副隊長。
私はさっきの質問がぐるぐると脳内を駆け巡るものだから、吉良副隊長を直視出来ずにいた。


―カタン…


吉良副隊長が動いた気配と音。
きっと給湯室にでも行ったのだろう、と思い、私はほっと溜息を吐いた。


「そんなに僕が好きなのかい?」
『!?』


ハッと顔を上げれば、不敵に笑う吉良副隊長の姿がすぐ目の前にあった。
副隊長の細く長い指が私の髪の毛を一束絡める。


「気付いていないとでも思っていたのかな」


残念ながら、僕はそんなに鈍くない。
そう囁いた声があまりにも甘いものだったから、全身麻痺したみたいに動かなくなった。

吉良副隊長は指に絡めた私の髪に唇を押しあてると、妖艶に笑った。


「僕の気持ちにも、気付いてほしいな」


耳元で吐息混じりに聞こえた声に、一瞬全身の血の流れが止まった気がした。
次の瞬間、止まっていた血が一気に逆流して、もう何も考えられなくなった。
全身茹でダコのようになっている私を見て、至極楽しそうに笑う副隊長。
知らなかった一面に、また少し胸が高鳴った。





100%ビター
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(前髪でこんな一面隠してらしたんですね)(君が僕を見ないから気付かなかっただけだよ)


(意地悪なイヅルが好き過ぎる)

12.08.24.12:56



 

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