優しい人間までの過程





「…おい」
『はい?』
「…何、してんだ?」
『えー?』
「………
ッいい加減にしろ、てめえ!」
『あははッ 怖くなーい』


怒鳴りながら振り向けば、そんな事なんとも思わない様に笑うのが、十番隊第五席のなまえ。


「隊首室に来る度、頭撫でるの止めろ!!」
『えー。
だって、日番谷隊長の髪の毛以外と柔らかくて気持ち良いんですもん』


にこにこと柔らかな笑顔は、こいつの魅力だとは思うが…
…と、いうか寧ろ卑怯だ。
俺が何も言い返せなくなる。


「ッもう良いから執務室に戻ってろ!」
『はーい』


なまえは、そう返事をして出て行く間際にまた俺の髪を触る。
怒鳴ろうと振り向けば、其処にはもうなまえの姿は無かった。


…どうにも、調子が狂う。


俺はなまえに触れられた髪をくしゃっと掌で掻き上げた。
…なまえの温もりが、触れられた感触が、まだ残る銀色の髪。


ずっと嫌いだった、忌々しいこの髪色。
周りにどう思われようが構わない。
そう思って肩肘張って生きては来たが…
正直、寂しかった。

そんな俺の閉ざした心を一気に開いたのがなまえだった。



ふと後ろに立つ霊圧に気付き、振り向いた先になまえが居た。


「おま―…」


十番隊隊士か

そう聞こうとした俺の言葉は、なまえの行動によって遮られた。
…なまえの細い指が、俺の髪を撫でたから。


「ッてめ…!」
『すっごい柔らかいですねぇ』
「ッ…!?」




そう言ったなまえの笑顔の方が、ずっと柔らかかった。
俺とは対照的に、日だまりみたいな温かさを持っている奴だった。




『あ、あたし十番隊第五席のなまえと申します。
宜しくお願いしますね、小さな隊長さん』
「…ッ小さなは余計だ」


目尻が少しくしゃっとするその笑顔に、俺の心は溶けだした。


『自分で思っているよりも、貴方はずっと温かい人ですよ』
「…ッ…」


 銀色の髪にも、ちゃんと温もりがありましたから


以来、なまえは俺の髪を触る。
まるで俺の体ごと溶かすかの様に。

あの何気ない一言で、俺は随分と救われた。

背の低い俺にとって、頭を撫でられるなんて屈辱以外何物でも無いが…
なまえの温かな手で撫でられると、不思議と自分がとても温かい人間だと思えて来る。


「…何、してんだ…
松 本


こめかみに青筋を立てながら言えば、


「あらやだ、隊長。
気付いてたしたんですか?」


なんてわざとらしく言う松本。


「当たり前だろ!
これで気付かなかったら、俺は隊長を辞めてる!」
「えー。なまえには何時も触らせてるんで、気付いていないのかと思いましたあ」


口許に妖しげな笑みを浮かべてそう言う松本は、勘が良いからもう気付いているのだろう。
俺のこの想いに。


でも、この想いをなまえよりも先に他の誰かに言うつもりは無いから。


「さっさと仕事しろ!」


そう言って松本に書類を突き付けた。
面倒臭そうに唇を尖らせる松本を無理矢理机に座らせた。


なァ、なまえ。
お前に触れれば、俺は優しくなれるのだろうか







優しい人間までの過程
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触れた部分から温もりが流れ込む。


(俺のこの、氷みたいな心でも…)

11.08.06.18:33


 

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