最後の優しさ





優柔不断の君が
決めたことやから。
ボクは笑って
手を振った。

せやかて
それが、君の幸せやと
思ったから



ボク等の過ごした時間は
青空に溶けて消えた。



ボクには恋人が居った。
六番隊第五席のなまえちゃん。
とても愛らしく笑う子で
なまえちゃんが笑ってくれれば、ボクはそれだけで良かった。





『好きな人が……
出来たの』





少し垂れた瞳に
涙を一杯溜めて。

ボクは、君にそないな顔をさせたい訳やない。

ボクの好きな、あの笑顔が見たいから。





「―…分かった……」





そう言って
何時もの笑顔の仮面を
貼付けた。





「幸せになり…?」





涙、零さんといて。
どうせ最後なら、ボクの大好きななまえちゃんの笑顔が見たい。





『ごめんね』





ごめん、て。
何?
許さへん言うたら、君はボクの元に戻ってくるの?

違うやろ?
せやけど、これ以上君を傷付けた無いから。
涙なんか、見た無いから。





「良えんよ。
唯……













最後に、笑ってくれへん…?」



少し、驚いた様な君。
目を見開いて、ボクを見つめる。





「なまえちゃんの笑顔、好きやってん…」





なまえちゃんは、罰の悪そうな表情を見せた後、躊躇いがちに微笑んで見せた。





「―…おおきに。
……なァ、なまえちゃん。
…幸せやった?」





今更、あんな事を言ったのはボクが臆病やったから。
誰よりも好きやった君。
君との思い出すらも否定されへん様に。

この気持ちに
嘘は無かったと。

刻み付けたくて…





『―…ッ…うん…ッ
あたし…ギンと一緒に居た事………………忘れないから…』





涙を零すまい、と。
唇を噛み締めるその姿。

なまえちゃんの、最後の優しさ。





「……別に、忘れても良えんよ…

唯、幸せにならへんと
許さへんから」





そしてボクは
笑って手を振った。


さよならを告げた君に
新たな道を歩む君に
ボクの恋人だった君に

違う男の元に向かう君に


………もう二度と
会えない背中に向かって
ボクは手を振った



なまえちゃんの仕種も
なまえちゃんのキスも
なまえちゃんの声も



全部、今日で終わり。



君が好きだから。
誰よりも、愛しとるから。


なまえちゃんが幸せになれるのやったら、ボクは…


君を、引き止めたりはせェへん。


さよならを言うた君に
ボクは、笑って手を振った。


もう二度と会えないと
分かっていても
涙は流さへんかった。


君を悲しませへん様に。


もう隣に君は居てへん
夢やったら、と願ったとしても

もう、この腕に抱くことすら出来ひんけど。



手を振るボク。
背を向けた君の影。


夕日がやけに眩しかった。




最後の優しさ
--------------------
それは、君が一度も振り返らなかったこと。


(市丸さんの優しさ)

11.07.05.10:45



 

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -