序章 [ 3 / 33 ]
何時やったか、唯其処は暗くて。
ボクの髪や頬に、朱い血がこびり付いて。
あいつがそれを見て微笑った。
「…良いね
噂以上の腕だ」
そう言ったアイツの顔は、表面は穏やかやったくせに、氷みたいに冷たかった。
ボクはあの時、人を殺した。
"誰か"にとって大切な人を、ボクは"誰か"から奪った。
それはあまりにもあっけなく、唐突に。
ボクの前に横たわるこの人にとって、大切な"誰か"は、確実にボクの事を恨むとして。
それを糧に生きるとして。
ボクはその人に何をしてあげれば良えんやろう・て。
考えたけど答えは見つからへんかった。
序章
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そう、ボクには力がなかった。
(市丸さんの初長編物語です)
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