形だけのい [ 29 / 33 ]





『―…でね、その日番谷先輩格好良いんだぁ』


なまえは毎日の様にボクの部屋にやってきては頬を赤く染める。
回転式の椅子の背もたれに体重をかけながら話を聞くボクの目の前には、無防備にもベッドの上でボクのクッションを抱きしめながら語る妹。

「仲睦まじい兄弟」という光景かもしれない。

……ボクの心を除けば。



『今日も先輩、面で一本取ってたの』


格好良いでしょ?と、まるで自分のことを語るかのように話すなまえ。

なまえの学校は、剣道部が強いことで有名な高校。
"日番谷センパイ"っちゅうのは、剣道部の部長やった人で、大学でも優秀な成績を残しているらしい。

で、学校はテストが終わった暇を持て余した大学生をOBとして迎え入れ、部活の指導をさせているらしい。


……恋敵の情報なんか、知りたくもないねやけど。
なまえが毎日毎日、飽きもせんと同じことばかし話すから。


……それに、わざわざなまえに言われへんでも知っとるしな……
せやかて、そのセンパイは…


『さっすが、お兄ちゃんの後輩って感じ!』


満面の笑顔を向けられ、ボクは唯、さよか。と呟くことしか出来ひんかった。

ボクが高校三年生で剣道部の部長をやっとった時、日番谷はんは高校一年生。
ボクが良う構っとった後輩の一人やった。


「…ほんで?
今日はそのセンパイと話せたん?」


嫉妬を隠し、精一杯お兄ちゃんぶってみる。
しかし、ボクの目の前のなまえはクッションで顔を半分隠し、目を伏せている。


「はぁ……なして話しかけられへんの?
話すきっかけはいくらでもある筈やで?
ボクの妹や言えば良えねやし、名前も覚えて貰えるやん」
『そ、そんな簡単なことじゃないもんっ』


真っ赤になって言う君は酷く可愛くて、酷く残酷や。

君をそないな風にしてるのは、ボクやなくて他の男。


ああ、なして。

君とボクは結ばれへんねやろ。


この血が君との距離を作るなら。
君への道を阻むなら。


体中の血を抜いてしもても良え。


それで君が手に入るなら―……





『―…ちゃん…お兄ちゃん?』
「…どないした?」
『もー。ちゃんと話聞いてた?』


急にぼーっとしちゃってさ。と怒るなまえに、ごめんと笑いかける。

君と二人きりのこの空間には、ボクやない男の名前が木霊して。

君と二人きりのこの空間に、「兄弟」としての会話しか流れなくて。


……ボクの心だけが異空間にあるみたいで。
少しだけ、寂しくなった。


「…なまえ、そろそろ寝ないと明日、日番谷はんのこと見れへんで?」
『う…;
そうやって、なんでお兄ちゃんはあたしが寝坊するみたいな言い方するのよ』
「せやかて、本当のことやろ?」


さっさと寝るように促せば、イーッと歯を剥き出して部屋を出ていく。
拗ねた君の表情が愛しくて。
この部屋の君の甘い香りだけが恋しくて。


ボクの脳内で、君が穢れてしまう。
その事を怖れていたけれど。


もう、我慢出来ひん。


ボクはそっと、自分のモノに手を伸ばす。

ジャージの中でずっと熱くなっていたモノ。
猛るソレを、なまえに気付かれへん様にするのは困難やったけど。

そっと壁にもたれる。
この壁一枚挟んだ向こう側に、君が居てる。

この甘い香りの充満した部屋。
キャミソールの上にパイル地のパーカーを羽織っただけの薄着の君。
白い肌に水滴のついたままの、風呂上りの君は無防備にも程がある。
濡れた髪、雫の伝う首筋。
紅潮した頬、桜色の胸元……


「…っ…ハァ…」


脳内に映るなまえは妖艶で。

パーカーのチャックを下す
露わになっていく白い肌。


脱がされていくなまえ。
ボクの手によって穢されていく君。


「ッ…なまえ…」


声にすれば、脳の芯が痺れたように甘い。


なまえの肌に唇を押し当てて。
舌先で君を味わい、君の紅い唇を貪って。


逃げるなまえの舌を絡め取り、吸い上げて。
呼吸すらも奪うようなキスをしたい。


形の良い耳をなぞり、汗の伝う首筋に舌を這わせ、甘い汗を舐めて。
へその窪みを舌先で擽れば、ビクビクと跳ねる細い腰。
蜜の溢れる蕾を暴き、舌をねじ込み、なまえの啼き声に酔い痴れる。


指で硬く閉じた蕾を擦り、花弁を開いて。
君の聖域を荒らす。


啼いて、啼いて。


ボクの与える快感に、涙を流して。

なまえを、ボクで一杯にして。



蜜の溢れるソコに、ボクのそそり勃つソレを突き立てて……


脳内でなまえが穢れれば穢れる程。
ボクのモノは熱く、硬さも質量も増していく。

鼓動が早まる。

快感、興奮






…背徳感……







ああ、君が汚れた。
















「…ッ出る…っ」



ドクドクと脈打つソレから、放出される白濁とした液。
君の顔に、紅い唇に、胸元に、白い尻に、へその窪みに。



…君の中に。



この想いを吐き出してしまいたい。


「……なまえ…」


何時だったか。
なまえに、自慢のお兄ちゃんだと言われた。

ご免な、なまえ。

ボクは「自慢のお兄ちゃん」になんかなれそうにもない。




華麗に舞う蝶(キミ)を美しいと思った。
華麗に舞う蝶(キミ)の翅をもぎとってしまいたいと思った。


そう、もういっそ。

何処にも行くことのできない様に……




今宵、君は穢れる。
ボクの脳内で、ボクの手によって


穢されたことは、闇を照らす月すらもしらない。




ボクの心の闇は


何が照らしてくれる?




唯、切ないと泣けば。


夜は見て見ぬフリをしてくれる。



せやから今日も
夜はボクに優しい。



蝶を手に入れたいと願った。
蝶に恋をした蜘蛛は。



毎日糸を吐いて、巣を作るけれど。
そこに掛かるのは空振りの愛ばかりで。

もしも、無邪気に笑う君がこの巣に掛かったなら。

ボクは






君を逃がす、と言えるだろうか
君を食べる、と言えるだろうか




無邪気に笑い

華麗に舞う蝶(キミ)が好きだ、と。


唯それだけが事実で、

何よりも確実に言えることはそれだけで。


そんな蝶(キミ)を見て居たい

そんな蝶(キミ)を穢したい

そんな蝶(キミ)を逃がしたい

そんな蝶(キミ)を、いっそ……







ボクの心は、

どの答えを求めているのか。


全てが本当で

全てが嘘で



ボクは唯、迷子になっていて。



脳内で妖艶に啼く君に

ボクは罪悪感を抱くことしか出来ひんくて。




何も知らない、と笑う月に礼も言わんと、嘆くばかりのボクを夜が包むから。



今日も、この気持ちに目隠しをして
今宵、蝶(キミ)を穢した。





「好きや…なまえ…」



誰よりも、誰よりも。





君を想うよ


苦しいほど
切ないほど。


朽ちてしまえば
この恋を永遠に出来るのだろうか。


叶わない、と分かっていても
追い求めるボクは、唯の莫迦なのか。





…火照る体、早まる鼓動。
君を穢した、と責める様に細胞が叫ぶ。



ボクはティッシュで汚れを取り除き、ゴミ箱へと丸めたティッシュを放った。
こないにも簡単に、想いも捨てられたなら。



「阿呆やなぁ…」


そないな事、出来る筈もないのに
考えてしまうほど、ボクは君を愛してしまっているらしい。

電気を消せば、ベッドの上に伸びる影はボク一人の物だけで。
君の影が隣にあったらな、なんて考えてしもた自分に、思わず笑った。




今日も月は何も知らないフリをしてボクを照らす。
ボクはカーテンを閉めて、月の光を追い出す。

闇を取り入れて、見て見ぬフリをする夜の中で瞼を閉じた。


そして願うんや。






"全てが夢でありますように。"







それが一番、無駄な事だと知っていても。






形だけの




( だけど願わずには居られなくて )




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