お餅が焼けました。






ボクはいつだって、どこにおったって君でいっぱいやのに。

君はいつだって忙しそうで。

コロコロ変わる表情を、

くるくる回る動きを、

他の男にも見せるから。

ボクの心の中では、旨そうな餅が焼けてんねんで。













好きの背ェ比べしたら、絶対ボクん方が大きいに決まってる―…


「…市丸隊長、手が止まっていますよ」


唇を尖らせ、その上に筆を乗せてバランスを取るボクに、ため息混じりに放たれた言葉。


「―…嫌やなァ、イヅル。良ォ見てみ?動いとるよ」


ボクは器用に口先を動かしながら、両手をぶらぶらさせて見せた。


「はァ…僕が求めているのはそうじゃないと、分かっていらっしゃるでしょう」


心底呆れた顔をして、視線を落とすイヅル。


「嫌やなァ、そない辛気臭い顔しよったら、三番隊が暗なるやん」
「僕がこういう表情するって、分かってて仰ってるでしょう」


全く。ともう一度ため息をつくと、イヅルは諦めたかのように書類に筆を走らせ始めた。
ボクはギシッと椅子を軋ませ、背もたれに体重をかけた。


あァ、今君は何してはんねやろ。




『―ッくしゅんっ』
「お?どうした名前。風邪か?」
『いえ、ノースリーブ先輩。噂話されてる系のくしゃみです』


ズビッと鼻をすすり、書類に向き直る。


「おま…最近酷いぞ」


そんな私の向かいで作業をするのは、ノースリーブ先輩こと檜佐木修平副隊長様。


『そうですか?タンクトップ先輩の方が良いですか?』
「どうしてそうなる?」


眉間に皺を寄せる檜佐木副隊長。
そんな先輩にケラケラ笑って、冗談ッス〜と言えば、副隊長もやや呆れた笑顔で知ってる、と呟く。


「お前の噂してるとしたら、思い当たるのは一人だな」
『え、嫌ッスね。もっと大勢いるでしょー』
「勘違い、乙」


適当にあっさり流された私の冗談は、筆を走らせる音の響く執務室内に溶けて消えた。
私自身、思い当たるのはたった一人。
逆に彼じゃなかったら皆目わからん。


( どうせまた吉良副隊長を困らせてるんだろうなぁ〜 )


げっそりと辛気臭い顔をした吉良副隊長の様子が手に取るようにわかる。
手持ち無沙汰で筆で遊ぶ、彼の姿も同様に脳裏を過る。


『…書類配達行ってきます』
「お、結局気になるのか」


ちょっと茶化したように言う副隊長に、唇を尖らせて


『悪いですか?』


と開き直れば、いってら。と笑われた。


「サボりを容認してやるんだ、帰りに土産買ってこい」


副隊長のその言葉には、敢えて返事をしなかった。

彼に会いたいわけじゃない。だから、サボるわけでもない。
彼の所為で周りに迷惑がかかるのが、嫌なだけ。それだけ。

まだ配達するほどの量でもない、少量の書類の束を引っつかんで私は執務室を出た。
厄介なのは、あいつがちゃんと隊舎にいるかどうか。
吉良副隊長に見つかるのが嫌で、霊圧消して動き回るからこっちとしても探しようがない。

今のところまだ霊圧は隊舎にあるけど。
私が三番隊舎にたどり着くまで、彼が動かないという保証は一切ない。


『間に合うといいんだけど』


―――――ちなみに。
私の持っている書類に、三番隊宛は一つもない。






「―…イヅル、お茶」
「はい、ただいま」


暫く大人しゅう書類と向き合ってみたけれども、微妙に折れ線のついた書類を見ると紙飛行機作りたなる衝動に駆られる。
あァ、これはもう末期症状や。なんてちょっと自分でも楽しく思えてしまい、こらあかんと苦笑する。


――抜け出す時間やな。


悪い癖がボクの肩に手を置いて、そっと耳打ちしてくる。


「せやね」


給湯室で作業するイヅルを横目に、ボクはそっと気配を殺して。
悪い癖と目を合わせてニヤリ。

背後の大きな窓を開けると、冬の空気が乾いた匂いがした。


「……ん?何や、名前ちゃん。隊舎に居らへんのか」


名前ちゃんの霊圧を探ると、それは九番隊にはなく。
この時間やと、書類配達にしては早いし…。


「もしかして、ボクに会いに?」


都合の良え妄想をして、口角が上がる。
まァ、勿論それは唯の妄想でしかないねやけど。

ボクは当てもなく、三番隊隊舎の屋根に乗って晴天の元歩き出した。
ボクが歩を進めるたび、冬の風が頬を撫で、羽織を翻していく。


―良え天気やね。


ボクの悪い癖が楽しそうに呟くから、ボクはそうやね、なんて笑って、いつもみたいに霊圧を消した。
羽織が翻るたび、その藍白色は晴天の中に溶けて消えた。



三番隊を抜け出して、一つ、二つ。

五番隊舎の屋根の上に来たときやった。



( ―…名前ちゃんの霊圧! )


敏感に感じ取ったそれは、確かに名前ちゃんのもの。
ボクはそっと屋根から下を覗き込んだ。


『―…失礼いたします、九番隊から書類です』


執務室の扉を開け、中へと消えていくのは間違いなく名前ちゃんの後ろ姿やった。


( 何や、結局書類配達か… )


ボクの淡い妄想が、音もなく静かに崩れていった。
せやけど、思いも寄らずに名前ちゃんを見つけられたことは収穫やった。

九番隊には生真面目なノースリーブ副隊長サンが居てはるから、名前ちゃんと少しでも無駄話しようものなら名前ちゃんが怒られてまう。
隊舎外で話す分には、副隊長サンにも怒られへんですむし、長い時間名前ちゃんを拘束できる。


―…名前ちゃんも真面目やし、あんまし喋れへんとは思うけど。


それでも、二言、三言。
言葉を交わせることができれば、それで。

それだけでボクは嬉しゅうて…



『―失礼致しました』

( ! 名前ちゃん )


会釈をして執務室から出てきた名前ちゃん。
あァ、漸く君と話せる。
君の笑顔が見られる。



「名前ちゃ―」
「何や市丸、こないなとこで何してんねん」


名前ちゃんを呼び止めようとしたボクの言葉は、頭が痛なるほど聞き飽きた声に遮られた。


「何ですの、平子サン。邪魔せんといてくれます?」
「相変わらず可愛くないのォ」
「別に可愛い思うてもらわへんで結構ですわ。それよりボク、急ぎますんで」


徐々に離れていく名前ちゃんの気配に、少し焦る。


「何や、そない急いでどないしたん」
「何でも良えですやろ。ほな」


そう言って追いかけようとしたときやった。
名前ちゃんの気配が一瞬で遠のいた。


「―あァ!瞬歩使うなんて…」
「瞬歩?」


あと少しのところで邪魔をされ、おまけに名前ちゃんは瞬歩で他の隊に向かった。

それもこれも、


「ッ全部、平子サンの所為やで!」


ボクは捨て台詞のようにそう吐いて、すぐさま瞬歩を使った。


「何や、難儀なやっちゃのォ」




―名前ちゃんの霊圧は、何故か流魂街の商店街にあった。


( 何や、おつかいでも頼まれたんかな )


流魂街に着き、名前ちゃんの霊圧を辿りながら商店街を歩いていると。
色とりどりな着物に混じって、漆黒の死覇装が見えた。

あァ、ようやっと見つけた。

どうやら肉屋に用があったらしい。
名前ちゃんの驚く顔が見たくて、ボクは肉屋の近くまで行くとそっと身を潜めた。


「苗字ちゃん、今日も来てくれたんだね」
『えぇ、ここのお肉美味しいから好きなんです』


名前ちゃんが笑いかけるのは、肉屋の若い男。
確か、肉屋の店長の息子だったはず。


「苗字ちゃんが来るって分かってたら、良いお肉仕入れておいたのに」
『いえいえ、置いてあるお肉で十分ですよ』


何やあの男。
ボクの名前ちゃんにデレデレ鼻の下伸ばして。

名前ちゃんも、そないな奴ににこにこ笑わへんでも良えのに。


「で、今日は何をお求めだい?」
『えっと、夕飯用のお肉と、あとウインナー』
「そしたら…今日は鶏肉が良いの入ってるよ。ウインナーは焼いていくんだろう?」
『はい、焼いてください。あとは…じゃあその鶏肉買おうかな。仕事帰りに取りに来ても良いですか?』
「毎度あり〜。ウインナー焼いてくるから待っててね。鶏肉は苗字ちゃんの為に良いやつをとっておくよ」


軽口を叩く男に、愛想よく笑う名前ちゃん。

そない愛想笑いさえも…
ほんまは見せたない。

ボクの独占欲がぐるぐる渦を巻いて、火種を作った。


「はい、お待たせ」
『わァ、良い匂い〜。ありがとございます!』
「じゃァ、帰りにまた寄ってね。待ってるよ」
『はい、よろしくお願いしますね』


ボクやない男と、目の前で交わされる約束。
あァ、もう。

ボクの中で嫉妬に火がついて、その上では旨そうな餅が焼けそうやった。


「名前ちゃ―」
「あれ?市丸隊長じゃないッスか」


またもや、ボクの声をかき消す声。
この地声の大きさは、


「何や、阿散井クンやないの」


振り向けば、鮮やかな赤。


「どうしたんスか?こんな所で。またサボりッスかぁ?」
「またって、えらい失礼やなァ…。こう見えて忙しいねんで、ボク」
「またまたァ、吉良が探してましたよ。書類溜まってるそうじゃないスか」


そう言ってケタケタと豪快に笑う。
あー、もう。なして君の相手せなあかんの。

ちらり、名前ちゃんがおった場所を見遣れば、そこに彼女の姿はなく。
慌てて霊圧を追うと、その霊圧はもう九番隊詰所に戻っていた。


「市丸隊長?誰か探してるんスか?」
「―…厭やなァ、ボクが探すとしたら一人しかいてへんやろ」
「あァ、苗字ッスか?そういえば九番隊に配る書類が…」


"九番隊に配る書類"


そう聞いた瞬間、今までうっとおしいだけやった赤い彼が神様に見えた。


「ッ…それ、ボクに任してくれへん?」
「は?悪いッスよ」
「厭やね、水臭い。ボクと君との仲やないの。イヅルに上手いこと言っといてや」


そう言うと、阿散井クンからひったくるように書類を受け取って瞬歩で逃げた。
正式に名前ちゃんと会う口実ができた。
こない簡易書類を、隊長のボクが配達することは怒られそうやけど。
それでも、仕事や。


ボクは、強く強く地面を蹴った。
視界の端に流れていく景色の速度も早くなる。

ボクの胸の鼓動も、加速していく。


あァ、ボクはいつやって
どこにおったって。

君がスキや。




九番隊の執務室に、名前ちゃんの霊圧があった。
ボクは襖の前でひと呼吸おいてから、いつもの声色を作る。


「六番隊から書類やで」


スッ、と音にならない音をたてて襖を開ける。
襖の向こうには、九番隊らしい真面目な隊士たちが机に向かっておって。

その幾つもの机の更に向こうに、愛おしい君が見えた。
あァ、ようやっと…
後ろ姿やない君が見れた。


『―…え゛』


執務室が少しだけ明るくなった。
その明るさに、ふと顔を上げた名前ちゃんは、ボクを見つけた。

喉の奥で潰した声が漏れて、怪訝そうに眉をひそめる。


君を正面から見れただけで、こないにも嬉しい。




執務室の襖が開かれ、窓から入る日差しだけの薄暗い執務室に場違いな明かりが差し込む。
手元の影が濃くなって、ふと、無意識に執務室の入口を見遣れば。

そこに居たのは、結局見つからなかった人。

思わず、喉の奥で押しつぶしたような声が出る。

書類配達にかこつけて、探しに行ったのに。
ノースリーブ副隊長にからかわれてまで、探しに行ったのに。



―…会いに行ったのに。



その霊圧はもう三番隊にはなくて、風みたいに見えなくて、掴めなくて、追いかけられなくて。

帰り道に遠回りして、ちらっと寄った三番隊に、やっぱりその姿はなくて。
より一層憂鬱そうに、貴方とは真逆の金色の髪を垂れ下げて、執務に取り掛かる吉良副隊長しかいなくて。


なのになんで、そこにいるのよ。


「名前ちゃん、書類。持ってきたで」


そういう彼は右手に持った紙をひらひらさせた。

―…なんだ、書類か…。

不思議なガッカリ感が背中にのしかかったけど、気のせいだと言い聞かせて払い除けた。
私を指名したわけだし、私が取りに行かなきゃか。

まァ、うちの隊士たちは市丸隊長を苦手とする人が多いから、どっちにしろ私が行かなくちゃいけないんだけど。


席を立った自分に何故か言い訳をするようにそう言って、彼の元へ一歩踏み出したときだった。


「おー、名前。ウインナーありがとな」


私の背後から話しかけてきたのはノースリーブ副隊長。


『え?あァ、どういたしまして』
「あのウインナー旨いな。何処のだ―…って、市丸隊長?」


私の視線の先にいる人物を見つけ、私よりも先に彼に近づく。


「どうしたんですか?」
「―あァ、ちょっと書類を届けに」
「あ、わざわざありがとうございます。お預かりします」


彼に手を差し出すノースリーブ副隊長。
…それは私がやる筈だったのに。


「…おおきに」


彼はその手にある書類を、副隊長に渡した。

一瞬だけ、躊躇いが見えたのは…私の自惚れかもしれない。

副隊長が受け取ったし、もう私が立っている意味はない。
私はゆっくりと椅子をひいた。


「名前ちゃん、」


そんな私の横顔に、すがり付くような甘い声。
その声に反応して、もう一度入口を振り返った。

―…けど、振り返った私の視界に広がったのは、彼ではなく。


「名前、こっちの書類、今日中に頼む」


肌色の面積が広い、副隊長の姿。

私を呼んだのは、気のせい…?
入口には、もう。

彼の姿はなくて―…


「ちょっと名前ちゃん借りるで」


でも、聴き慣れた甘い声はすぐ後ろから聞こえた。




―…なして、君に届かへんねやろう。

君に会いたい
君と話したい

そない想いが強くなればなるほど。
ボクの君を呼ぶ声は霧散していく。


ボクから書類を受け取ったのは、君ではなく。
骨ばった男らしい手やった。


君を呼ぶたび、隔たれてきた声。
もう一度、

今度こそ、君に届いて欲しい。


そんな縋るような思いで、もうボクを見てへん君を呼んだ。


「名前ちゃん、」


その名前の後に、何か言葉を繋げようと思ったけど。
彼女の姿は、九番副隊長サンの後ろ姿に重なって見えなくなった。


すぐそこに君が居てるのに、声さえも届かないこのもどかしさ。

それやったら、霧散しィひん距離で。
君を連れ去ってしまえば良え。


ほんの数メートルの距離を、瞬歩で移動した。
コンマ1秒もかからへん内に、ボクの腕の届く距離に君を捉えた。


「ちょっと名前ちゃん借りるで」


そう告げて、ボクは漸っと君に触れた。
君に触れるのは、そない久しぶりでもない筈やのに。
今日一日恋しかった君の温もりは、触れたところから一瞬でボクの体に広がった。

名前ちゃんがボクに囚われたと気付いた頃には、もう修練場の裏の大きな木の下に居た。


『―ッちょっと、ギン!何考えてるの』


ボクの腕の中にすっぽりと収まっとった君が、ハッと我に返って抜き出そうともがく。
せやけどその動きにも声にも、怒気を帯びてへん。
本気で怒ってへん、君の上辺だけの怒り。

形だけでも怒ったら、君の中の罪悪感は存在を潜める。


「今日な、」


ボクが話し始めると、君は動くことをやめてボクの腕の中で大人しくなった。


「一日名前ちゃんのこと追いかけてん」
『―ッえ?!』


君は思い切り振り返り、驚愕の色を見せる。


「君に声かけよう思うと、毎回毎回邪魔が入ってな」


はぁ、と少し大きめにため息を漏らす。


「ずっと、手の届く距離に居ったのに、声さえも届かへんかった。その曖昧な距離が、いつもより名前ちゃんを遠くに感じさせてん」
―せやから、寂しかった


そう言い切って、腕の中の名前ちゃんを、これでもかというくらいきつく抱きしめた。
一日恋しかった温もり、香り。
一日分感じようと、名前ちゃんの肩に顔を埋めた。

届かなかった温もりは、ゼロセンチの距離に。


「それに。肉屋の男に愛想振りまく姿も嫌やった」
『それまで見てたの!?』


肩に埋めたせいで少しくぐもったボクの声に、今度は少し怒気を含んだ声で返された。


「ボク以外にも笑いかける名前ちゃん見たら、ボクん中で餅が焼けてん」
『…お餅は美味しく焼けましたか?』


ため息混じりにそう言って、名前ちゃんはまた姿勢を元に戻した。


「そらァもう、食べ頃くらいには」


相も変わらず、名前ちゃんの肩にもたれたままのボクは、小さく呟いた。


『そう。じゃあ少しは私の気持ちもわかってくれたかしら』


さっきよりも幾分小さくなった君の声。


「…それって、どういう意味?」


名前ちゃんの方から顔を上げて、項越しに名前ちゃんを見つめる。

そない言い方したら、まるで…
名前ちゃんもヤキモチ妬いてる…って、都合の良えように聞こえてまう。


『…そのまんまの意味よ。悔しいから言わなかっただけで』


そう言う名前ちゃんは、耳まで赤くした。


『ッ言っておくけどねぇ、私だって何回か…執務中に抜け出して様子見に行ったことあるんだから』


なぜか不本意そうに、怒り気味に言い切る。
ボクの音もなく崩れた妄想が、現実に溶け込んできた。


『…見に行くたび、女性隊士に囲まれて…。笑顔振りまいてるのはギンだって一緒じゃない』


項越しの君の頬が、少し膨らんだ。


「…ボクのこの笑顔は、仮面や・て知ってるやろ」
『頭でわかってはいても、実際に見ると気持ちは追いつかなかったのよ』


名前ちゃんは小さく地面にため息を落とした。


『ヤキモチって、想像以上に厄介ね』
こんなにも一瞬で、躯も心も蝕んでいく


君はとても寂しそうにそう呟いたのやけど。
君のその表情とは裏腹に、ボクの心は小躍りしそうなくらい舞い上がっとった。


『…ねぇ、なんか嬉しそうじゃない?』


怪訝そうに振り返る名前ちゃん。
ボクは振り返った名前ちゃんの唇を、そのまま奪った。


『な…ッ!』


一気に赤面する名前ちゃんが可愛くて。
ボクはもう、嬉しゅうて。


「名前ちゃんのお餅、ボクに頂戴。お餅焼くの、心ン中まで焼かれて苦しくて辛いけど…それでも…名前ちゃんが妬いてくれて嬉しゅう思ってまう」
そないボクは、酷い男やろか


眉尻を下げて、君に問いかける。


『…酷い人よ。こんなに苦しいのに…それが嬉しいなんて』


名前ちゃんは得意の不本意そうに唇を尖らせた。
せやけど、その表情もすぐに和らいで、ボクの好きな笑顔を見せた。


『でも…、私も嬉しかったから、お相子ね』


仕事中の、しっかり者の名前ちゃんとはまた違う。
少し幼くて、あどけない笑顔。


あァ、その顔がスキや。
愛想笑いとは違う、ボクにしか見せへん顔。


ボクも負けじと、笑った。
仮面やない、心からの笑顔。

二人の笑顔が、冬の午後に溶けていった。

就業中やというのも忘れて。


冬の、寒くも暖かな日差しを感じながら、笑った。

笑顔の合間に目が合って、名前ちゃんが少しはにかんだから。
それを合図に、ボクは再び名前ちゃんの唇にボクのを重ねた。


少し乾いた、冷たい唇。

ボクの中で燻ったままの火種を、静かに鎮火してくれた。








ボクの中でその火種はまたすぐに燃えて、
お餅が焼けました。
--------------------
それを鎮火できるのは、君がくれる"特別"だけ。


( はる様リクエスト )

16.01.30.00:26


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