星空のしたで





星空の下で








君が見たいと言った
だから、ボクは君の手を引く。


『ねぇ、ギン』
「ん、何?」


小さな声に反応を示せば、優しく微笑むボクの恋人の名前ちゃん。
何時からやろう、こないにも君を愛しく思うようになったのは。
なぁ、思い出せへんくらい、名前ちゃんの事、ずっと前から好きやってん。

せやから、君がこうしてボクの隣で微笑んどる姿が、今でも夢やないか、って思う。
そう言うたら、多分名前ちゃんは笑うんやろなぁ。
ボクの大好きな、その笑顔で。

気持ちが重なって二年。
同じ空間で過ごす様になって、三年。
もう五年もの年月を、君の隣で過ごしてきたんやと思うと、正直不思議な気持ちになるけれど。
君がボクにだけ微笑んだり、唇を重ねる度、溢れ出す"好き"は夢やない事をボクに教えてくれる。


『星、見えないねぇ』


一緒に住むようになってから、夜はこうして二人でベランダで過ごす。
アパートのベランダは狭いけれど、其処に二つ椅子を並べて。
冬は二人で同じ毛布にくるまってココアを飲んで、夏は風鈴の音と蚊取り線香の香りが二人を包む。


「…そうやね…」


名前ちゃんは少し寂しそうに空を見上げる。
ボクも同じ様に見上げれば、其処は排気ガスで霞んだ夜空。
星は、辛うじて見えるか見えないかくらい。


「都会やしなぁ…これが精一杯なんとちゃう?」
『ギンの実家は田舎だったよね?
星…見えた?』


名前ちゃんの質問に、実家の空を思い出してみる。
まぁ、確かに星は綺麗やった気ィもするけど…
あの頃はこうして、星を見るなんて機会なかったからなぁ…


「此処よりは、見えてた気ィするわ」


そう答えれば、そっか、と淋しそうに俯いた。


『あのね、プラネタリウムとかの作り物の星なら沢山見た事あるの。
でも…本物の満天の空って…どんな感じなんだろうね』


それだけ呟くと、寝よっか、と立ち上がる名前ちゃん。
そない、寂しそうな顔せんといて。
ボクは、君にそない顔させへん様に傍に居るのに。
君の笑顔だけが見たいから。
ボクは、君の笑顔を守りたいから。
傍に居るボクは、君に何が出来るのやろ……


( …ああ、良え事思い付いた )


先に寝室に向かった里緒ちゃんを追いかけ、ベッドメイキングをする名前ちゃんに、問い掛けた。


「里緒ちゃん、今夏休みやろ?」
『何、今更?』


さっきまでとは違って、何時も通り明るく笑う君。


「出掛けよか」
『…何処に?』


ベッドに飛び乗った君に、ボクは少し意地悪に微笑んだ。


「内緒」


名前ちゃんは不思議そうな顔で小首を傾げた。

大丈夫。
名前の願いは、ボクが叶えたる。





次の日の早朝、ボク等は家を出た。
バスと新幹線を乗り継いで、二時間程経った頃。
痺れを切らした様に名前ちゃんが問い掛けて来た。


『ねぇ、ギン。
本当に何処に行くつもり?』
「着くまでのお楽しみや」


その質問をあっさり返せば、頬を少し膨らませて、窓の外を見遣る。
その顔も、好きやなぁ。
ちょっと怒ってるような、でも少し楽しみにしてる、みたいな。


『なぁに見てるのよ』


イーッとわざと歯を見せるその顔も、照れ隠しやて知ってるけど。
言うとまた怒るから、ご免て笑った。


『昨日、遅くまで寝てなかったみたいだけど、何してたの?』
「んー?
そない遅くまで起きてへんよ」
『またまた。
目の下のクマ、誤魔化せると思った?』


やっぱ名前ちゃんには敵えへんわ。
でも、それが妙に嬉しかったりする自分も居って。
むずがゆいこの想いを隠す様に、視線だけ逸らした。


『普段、そんなに無理するなんて滅多に無いのに。
レポートも課題も、何時も要領よく終わらせてるじゃない』


それはな、今日は特別やから。
なんて、勿論言えへんから


「せやねぇ。
ほなちょこっと寝かせてや」


って、笑って誤魔化した。


『そうやって、また笑顔作るー。
まぁ、良いけどね』


あらら、仮面もバレてんねや。
ボクは腕を組んで、少し俯いて。
意識を沈ませた。

昨日寝不足やったのは事実で、ボクはすぐに眠りに落ちた。







『うわあーッ』
「…ふぁ…」


やっと目的の駅に辿り着き、名前ちゃんに起こされて駅に下り立った。


『すっごい、都会とは全然違うね!』
「せやろ?」


うーん、と伸びをする名前ちゃんの後ろで欠伸を噛み殺す。
名前ちゃんが気ィ遣て静かにしてくれとったから、良ォ寝れた。


「―…って、ちょちょちょ、名前ちゃん!
何処行こうとしてんねや」
『え?』


勝手に歩き出す里緒ちゃんを、慌てて呼び止めた。


「知らへんとこ、勝手に歩いたら迷子ンなるで?」
『あははッ
大丈夫だって。ギンが居るし』


無責任やなぁ…と軽く溜息を吐いて名前ちゃんの掌を握った。


「これで、迷子にはならへんやろ」


そう言って微笑めば、名前ちゃんも嬉しそうに微笑み返した。
ボクの手は冷たいけど、名前ちゃんの手は温かいから。
この温度を、"幸せ"言うんかな…


『…で、何処行くの?』


と、訪ねて来た名前ちゃんに、ボクはパンフレットを取り出した。


「此処や」


取り出したパンフレットは、以前、テレビでやっていた牧場。
それを見て、名前ちゃんが目を輝かせていたから。


『こ、ここここ…』
「何や、鶏の真似?」
『ち、違う!此処、前にテレビで…!!』


興奮のあまり、巧く喋れてへん名前ちゃんを落ち着かせようと軽く頭を撫でた。


「行きたそうにしとったやろ?
ソフトクリームのシーンなんて、ほんまに涎垂らしそうやったもんなぁ」


と笑えば、目をうるうるさせながらボクに抱き付いた。


『んもー、ギン大好き!!』


そう言ってすぐ離れると、ボクの手を引っ張って、早く行こ、と笑う。
その姿を見て、心が温かくなる。
ああ、やっぱりボクにはこの子しか居てへんねや…


「―…せやけど、名前ちゃん。
そっちやないで」
『Σえ゙』


方向音痴なトコも、勿論愛しい。
全てが、愛しい。


その後、念願の牧場のソフトクリームを食べる名前ちゃんを写真に収め、羊の毛刈りショーを見て子どもみたいに目ェ輝かせる姿も撮って、派手に転んだ瞬間もバッチリ収めた頃、空は赤みを帯び始めた。


「ほな、今日のメインに行こか」
『え?これがメインじゃないの?』


不思議そうにボクの後を追いかけて来る名前ちゃんの手を取って、ボク等はまた歩き始めた。




目的地に辿り着く頃にはもうすっかり日は沈み、辺りは闇に包まれた。


『うわぁ、街灯無いとこんなに暗いんだね…』


ちょっと怖い、と呟く名前ちゃんの手を強く握り締めて


「暗い方が、仰山見えるで」
『や、やだやだ!!』


と言えば、幽霊だと勘違いして半泣きの名前ちゃん。
そうやって、すぐ勘違いするんやから。

ボクは苦笑しながら、空を指差した。


「こっちの話」


名前ちゃんが恐る恐る見上げた其処には―…


『ぅ……わぁ……』


満天の夜空。星や、月。
その全てで空が埋め尽くされている。

その何とも言えへん幻想的な景色に、名前ちゃんは口を開けたまま見入っていた。
ボク以外にそない目を向けられると、若干嫉妬もしてまうけど。
名前ちゃんの黒い瞳に、その夜空の星が一杯詰まって、まるで名前ちゃんの瞳が夜空みたいな。
こっちの方が、断然綺麗や。


( これで許したるわ )



と、心の中で呟いて柔らかく微笑む。


「初めての星空、お気に召して頂けましたか、お姫様」



両手で口を隠す様に見上げる名前ちゃんの瞳には、涙という星も溜まっていて。
泣きそうなのを我慢してボクを見上げる名前ちゃんの額に、思わずキスを落とす。


『ッ…ギン…』


有難う

と小さく囁く君に、ボクは静かに微笑んだ。


「どういたしまして」


君に、見せてあげたかってん
君の、その笑顔が見とォて
唯君が、好きだから


『…あたし、ね。今凄く幸せ』


涙目でそう囁く名前ちゃんの瞳は、星空よりもずっと綺麗で。


「―…名前ちゃんは、昔から星が好きやったもんなァ。
ボク等が出逢ったのも、こうして星を眺めている時やったの、覚えてはる?」
『…勿論。
その日流星群で、近くの丘にまで登ったの』








「今日は曇ってるなァ…
これやったら星、見えへんかm―…ッうわ!」


上を向いて歩いていると、何かに躓いて転んだ。
慌てて起き上って、足元を確認すると


「―…人!?」


其処に寝転んだまま動かない、女の子。


( え、死体!?
…いやいや、それは無い…え、なして起きひんの!?)


自分が転ぶ程の衝撃やったから、起きる思てんけど…
その子は微動だにせェへん。

生死の確認だけでも、と恐る恐る近付けば。


(( 息…しとる… )


口許に手をやれば、僅かに当たる彼女の息。
流星群見に来て、そのまま寝てしもた考えるのが妥当やろう。


…それにしても、可愛え子ォやな。


丘に寝転ぶ女の子は、肌が綺麗で夜の闇に良ォ映える。
綺麗な唇は、その白い肌とは対照的に血色が良え。


ボクは彼女の隣に腰かけて、夜空を見上げた。
案の定、星は見えへんかったけど。
それでも大きな収穫があった。


『―…誰…?』


薄らと開けた瞳。
長い睫毛から覗いた漆黒の瞳。
寝起きだからか、潤むその瞳は


「……星や…」
『え…?』
「君の瞳(め)、星みたいやね」


我ながら、言い終わった後でクサい思たけど。
言うてしもたもんは仕方無い。

でも、彼女はボクを笑う訳でも、気味悪がる訳でもなく


『貴方は月みたい』


と微笑んだから。
ボクはそれだけで、君に恋をした。

曇った空の下に見つけたのは、紛れも無くボクだけの一番星。





「ほんま、最初は人形か死体か思たわァ」
『それ、失礼』


あの日の様に名前ちゃんは寝転がり、その隣にボクが腰を下ろす。


「いや、でも。
ほんまあの時の名前ちゃんは綺麗やった」
『へぇ…今は?』



少し挑戦的にボクを見上げる名前ちゃん。
阿呆やなァ…綺麗に決まっとるやないの。


「…ボクを誘うには充分過ぎる程」
『え…ちょ、ギン!?』


寝転ぶ名前ちゃんの上から、覆い被さる様に包み込む。
この温もりも、この瞳も。
全部ボクの。

空にも、月にも
あげられへん。

この女(ヒト)だけは
誰にも譲れへん、大切な…

ボクの恋人やから。






『んん―…ッ』


覆い被さったまま、ボクは名前ちゃんの唇を塞いだ。
急に酸素を絶たれ、苦しそうにボクの腕を掴む。
頬を紅潮させて、目をきつく瞑って。

その表情を見て、ふと顔の筋肉が緩んだ。


「そない固まっとったら、何も出来ひんやないの」
『ッだ、だって此処…外…』
「せやったら、何?ボクが止めるとでも思た?」


意地悪に微笑んで見せれば、驚いた顔でボクを見つめる。


「大丈夫やて。
此処地元やないし、見られてももう会う事も無いしなァ」
『そ、そういう問題じゃ…』
「い・や。
止められへんもん」
『―ッあ』


何か反論される前に、名前ちゃんの首筋に顔を埋めた。
少し強めに吸って、紅い華を付けた。


「ボクのお星さん」
『…ッバカ』
「照れた顔も可愛えよ」



耳まで赤くする名前ちゃんを余所に、首筋に華を咲かせていく。
時々少し強く吸い上げれば、名前ちゃんの腕を掴む力が僅かに強くなる。


『ふ、ぁ…ッギン!?』
「何?」
『何って、あの…本当に、此処で?』
「止められるの?此処まで来て?」


自分でも意地悪な問い掛けだとは思うけど。
ボクはもう、我慢出来ひんもん。

ボクは名前ちゃんの返答を聞く前に太腿に手を伸ばした。


『うぁ…ッくすぐった…ッ』


内腿を撫でたり、そのまま膝裏まで滑らせたり。
名前ちゃんの脚を堪能しながら、ゆっくりと上着も脱がせていく。
脚に気を取られている名前ちゃんは気付いてへんけど。

ボクの舌が、胸の飾りにまで辿り着いた時。


『ッあ』


ビクッと躯を震わせ、やっと気が付いた。


『や、ギン…恥ずかし…ッ』


そう言う名前ちゃんを無視して、ボクは胸の飾りを弄ぶ。
唇で挟んだり、舌先で転がすように弄ったり、時々吸い上げたり。
ボクが与える快感一つ一つに、素直に反応を示す。


『ハァ…ッあ、あぁ』
「大分良え声出てきたやない。
そない気持ち良えの?」
『ッそんな…ッや』


名前ちゃんの言葉を遮る様に、指を秘部へと伸ばす。
蜜口は濡れ、ボクの指を簡単に飲み込む。


「あらら、もう入ってしもた」
『や、もッ…ギン!
ああ、ああぁッ』


わざと良えトコを擦りながら、名前ちゃんの快感の波間を狭める。
もう一本指を増やしても、それを容易に受け入れる。

二本の指を咥え、気持ち良さそうに啼くその姿。
星は、ボクが汚す。


「もっと、穢れて…ボクの前で乱れて」
『やぁ!あ、何…ッああ』


胸の飾りを舌で転がしながら、指の動きを速める。


『だめぇ、も…イッちゃ…ぅう』
「良えよ、イッて」


君はボクのやと、月に見せつける必要が有るしなァ


『やあぁああぁッ』


ボクの指を締め付けて、名前ちゃんは果てた。
荒く息を吐く名前ちゃんの脚を割り、その空間に身体を入れる。

ベルトを外せば、ピクッと名前ちゃんの躯が反応する。


『ハァ…も、此処で…?』
「まだ言うてるの?
諦めや。止める気なんてあらへんもん」


カチャカチャとベルトを外し、自身のソレを取り出せば再び耳まで赤くする名前ちゃん。

月よ、其処で悔しがれば良い。
周りにある星には手を伸ばせても、ボクの星だけには、手ェ出せへんことを。
一番大切なお星さんは、ボクが貰う。

ボクは月に背を向けたまま、ゆっくりと自身を挿入していく。


『ッ…あ、おっき…ィ』
「…あかんて、そないな事…ッ言うたら。
加減、出来ひんような…る」


腰を推し進め、全て収まると、名前ちゃんはきつく瞳を閉じていた。


「名前ちゃん、目ェ開けて」
『…?』


ゆっくりと開けられた瞼。
長い睫毛の奥に隠れた、本物の星。

ボクだけを映す、漆黒の輝き。


「愛しとるよ」


そう微笑むと、


『あたしも、だよ』


と、両手をボクに伸ばす。
それに応える様に身を少し沈ませれば、名前ちゃんの細い腕がボクの首に巻き付く。


『ずっと、ずっと。大好き』

( …ッあかん、可愛え… )

『ッえ、あ!
ああ、激し…ッはあぁあん』


耳元で囁くように放たれた言葉に、歯止めが完全に利かへんようなったボクは、力任せに腰を打ち付けた。


―ズチュッ…グチュッ


「ほら、名前ちゃん。
聞こえる?名前ちゃんの音」
『あ、や…だぁ…!
恥ずかしい…ッああ』


夜空に響く、卑猥な音。
それすらも、星空の下というだけでロマンチックなものに変わる。


「好きや…愛しとる…
名前…名前ちゃん…ッ」

『っあ、ああ!
やぁ…も、らめぇえ!』


果てたばかりの名前ちゃんの中の収縮は激しく、ボクの限界も近かった。
少し上体を上げて、親指で里緒ちゃんの小さな蕾を摘んだ。


『ひ、ぁ!?』


ビクビクッと小さく震える名前ちゃん。
その震えに合わせて、ナカの収縮もキツなる。


「ッハァ…そない、締め付けんといて…ッ」

『あ、も…無理ィ…!』

「…く…ッほな、一緒にイこか…」


腰を打ちつければ、パンパンと肉と肉がぶつかり合う音と、結合部から漏れる体液の混じり合う音がボク等の鼓膜を揺らす。



「ッも、あかん…」

『ッやあ、も!…ギン…ッ』


ボクは名前ちゃんの手を握り、指を絡めた。


「好きや…」


そう呟いて
最奥を突いた。

ドクッと、欲望が放たれる。


『ッああぁ…ン…!!』


躯を痙攣させ、背中を反らせて名前ちゃんも果てた。



この星(コ)はボクの...






『ぁ…中…出しちゃ…たの?』


情事が終わると、不安げな表情でボクを見上げた。
ボクは名前ちゃんにティッシュを渡し、身支度だけ整えた。

名前ちゃんは少し恥ずかしそうに内股を伝う白濁とした液を拭い、洋服を着た。


ボクは着替えとる名前ちゃんの視線を盗んで、鞄からある物を取りだした。
それを静かにポケットに入れた。

ポケットに忍ばせたのは、僅かな緊張と在り来たりな言葉。


『…ギン?』
「あ、な、何?」
『………何、隠したのォ?』


ニヤリ、と口角を上げる名前ちゃん。
ほんま、何でもお見通しなんやね。


「…ッ…あんな、名前ちゃん」
『ん?』


ボクの正面に座り、きょとんとした瞳でボクを見つめる。


「…あかん、こないな時に限って、巧い事言えへん」


その言葉に、更に意味が分からないと小首を傾げる。

格好、付けようとするから失敗すんねや。
うん、そうそう。
何時も通り、何時も通り。


「ボ、ボクなぁ…」
『うん』


な、なんて切りだそう。
うわ、どないしよう。


"コレ"、バレると思てへんかったし。
あかん、あかん!
完全にテンパッてしもてるやないの。


その時やった。


『あ、流れ星!』


名前ちゃんが嬉しそうに夜空を指差した。


「…あ、ほんまや」


じぃ、と空を見つめていると、スッと星が流れた。


『綺麗だねぇ』


うっとりと空を見つめる君は、あの時と変わらない瞳。
何をボクは口籠っとったのやろう。

言いたい事は、確かに一杯ある。
せやけど、ほんまに伝えたい事はたった一言。


「名前ちゃん…
名前ちゃんと初めて出逢うた日、ほんまにこの子や思てん」


ボクが話を始めると、空から視線をボクに映した。


「あの空を流れる星みたいに、ほんまに一瞬の出来事やってんけど…
直感やった。勿論、それは今でも」
『?うん…』


ボクはゆっくりとポケットの中に手を入れ、ソレを取り出した。


「でもな、名前ちゃんを愛しい思う気持ちはどんどん大きくなってくばかりで…
どないして表せば良えのか、もう分からへんから。
言葉じゃ…愛してるだけじゃ、足りひんから…」


手にした小さな箱を、名前ちゃんに差し出した。


「ボクの大き過ぎる愛、形にしたんや」
『ッギン…』


両手で口許を覆う名前ちゃんは、またその瞳を雫で一杯にした。


「頑張って働いてんで?
せやから、ボクのお嫁さんになって下さい」


青い箱を開けて中身を名前ちゃんに見せれば、ポロポロと大粒の涙を零す。
頬を転がり落ちる涙は、星言うよりも、ダイヤに近い。

そない大きなダイヤはあげられへんけど、ボクの愛はこれでも足りひんくらいやから。


「返事は貰えへんの?」


と、少し困った様に問い掛ければ、名前ちゃんの腕がボクに巻き付いた。


『ッはい…』


子どもみたいに泣きじゃくる君は、あの満天の星空みたいに無垢で、輝いていた。


「これで、苗字名前やのォて、市丸名前やね」


そう微笑みながらボクは箱から指輪を取り出して、名前ちゃんの誓いの指に嵌めた。
都会の星は、見えへんけど。
これで少しは、君の寂しげな表情を減らす事は出来るやろか。

この満天の星よりも、輝きは無いかもしれへんけど。
都会に咲く一輪の花のように。

少しでも、名前ちゃんの笑顔を照らせるのであれば。
ボクはそれで良え。



せやから、名前ちゃんはボクの傍で笑うてて。
ボクの、ボクだけのお星さん。


君だけを愛す、と。
この満天の星空の下で誓うから。






星空のしたで
--------------------
星の指輪を、君の左手の薬指に。


(愛を形にしたら、星になった)

11.08.17.00:43

[ 闇樹里緒様700打記念リク ]


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