あの日の誓い





あの日の


「名前ちゃーん」


振り返れば、護廷十三隊の中で最も冷酷だと言われている隊長。
そして、あたしの上司。

更に、有り得ない事に…


『何ですか、市丸隊長』
「名前ちゃん冷たい〜
ボク、名前ちゃんの彼氏やのに…」


そう言ってわざとらしく肩を竦める。
…ええ、彼は冷酷非道な隊長で、上司で、そして恋人。

でも、何だか最近。
あたしは自分の気持ちを見失いかけています。
何故って…だって…
彼は尸魂界公認の…


「あ、カオルちゃんやん。
おはようさん、今日も可愛えな」
「やだもー。
市丸隊長ってば」
「お、アスカちゃんやないの。
今日も綺麗な髪してはるわ」
「ありがとーございまァすw」
「ユミちゃん、お早うさんw
今日も色っぽい唇しはって…食べたなるわ」
「じゃあ、食べちゃいます?
執務なんて放っといて」


女垂らしだから―…




―バンッ!!



「!?」


あたしは持っていた資料を市丸隊長に投げつけた。
あたしの中で、何かが切れて、壊れた。
それからはもう、成すがままで。
ダムが決壊したかのように、崩れるだけだった。


『ギ…ギンは、あたしの事なんてどうでも良いんでしょ…!
あたしの気持ち、これっぽっちも考えてくれていない!!』
「ッ名前ちゃ―…」


あたしは咄嗟に耳を塞ぎ、ギンを見据えた。


『ギンなん、て…
大嫌い!!』


頬を転がる涙を宙に遺し、あたしは瞬歩でその場から去った。
涙が床に落ちた時、彼はあたしを追いかけて来てくれるだろうか。
あの場に居た女の子全員放って、あたしを迎えに…


『有る訳、ないのにね…』


自分で言って、虚しさがあたしを取り巻く。

あたしは足を止めて、近くのベンチに座った。

あたしが居なくても平気なんでしょ。
あたしは何番目の彼女?
あの女の子達も彼女なの?



「ボク、名前ちゃんが好きやねんけど…」

『え…?』

「絶対、大事にする。
せやから―…」




あの言葉は、嘘だったの?
誰にでも言っていたの?
貴方はあたしの…何処が好きなの…?


「名前…ッ」
『!?』


振り向いた先には、珍しく息を切らしている彼。
銀色の髪の先に、雫を湛えて。
彼の白い肌を、幾筋もの汗が伝う。


『ギ…ギン…なん、で…ッ』


そう言うが早いが、あたしはギンの大きな腕の中に収められた。
ギンの薫りと、何時もよりもずっと早い鼓動、ずっと熱い体温に包まれる。


「名前ちゃんこそ、ボクの気持ち分かってくれてへん!」


珍しく声を荒げるギン。


「ボクん事、好きやないねやろ…」
『え…?』
「せやかて、ボクがどない女の子に話しかけても、仰山女の子と遊び行っても…
何も言うてくれへんやない」
『……』


だって、それが貴方の好みだから…
干渉されるのが嫌いだ、と聞いたから…


「ボクが女の子に話しかけても、女の子と出掛けても。
名前ちゃんは何も気にせんと、行ってらっしゃいって。
ボク…寂しかってん…」


もしかして…あたし達は気持ちがすれ違っていただけ…?


『ギ―…』
「でも、名前ちゃんがボクん事嫌いやったら…
ボクは名前ちゃんを引き止める権利は持ってへんから…」











―バイバイ












『ギン―…ッ』


伸ばした手は宙を掻いた。
伸ばした先に居たギンは、瞬歩で去ってしまったらしい。

どうして、何で。
こんなにも近くにいるのに。
心には、気持ちには、触れられない。

すれ違って、離れて行くばかり。
遠い、遠い…

好きだよ、大好きだよ。
その言葉で取り戻せる貴方なのに、動いてくれない足が憎い。

戻ったら、貴方は何時も通りの笑顔を貼り付けて女の子達をはべらかす。
あたしとなんか、何もなかったかのように。





なして、どうして。
何時だってボクは君を見ていたのに。
唇を重ねると、顔を真っ赤にして、はにかむあの笑顔が好き。
手を繋ぐと、恥ずかしそうに眉を少し下げるあの顔も好き。
抱き締めた時の温もり、香り。
指に絡ませるあの髪。

君がこないにも好きやのに。
伸ばした指先が触れたのは、"大嫌い"の一言やった。

ボクは間違うたのか。
愛し方を、抱き締め方を。
なして今、名前ちゃんはこないにも遠いのか…


『ギ…』
「イヅル、ボクちょっと六番隊長さんトコ行ってくるわ」
「は?」


浮かない表情で隊首室に戻って来た名前ちゃん。
その唇がボクの名前を呼ぶ前に、ボクは席を立った。

ボクを嫌うその瞳が、他の男の姿を捕える
ボクを嫌うその唇が、他の男の名を呼ぶ
ボクが大好きな笑顔は、他の男に向けられる。


そないな君を、見たくない…




『―…ギン…』


何で、何で、何で。
やっぱり貴方はあたしの事なんて、どうでも良いの?
あたしが要らなくなったら、他に控えの娘が居るから?
"大嫌い"の一言と、たった一粒の涙で。
あたし達は終わってしまうの…?




あたしの思いは、此処に置き去りのまま…




『―…ッそんなの、嫌』
「苗字三席!?」


吉良副隊長の声があたしの背中に張り付いたけれど、それを振り払うようにあたしは瞬歩を使った。

ねェ、なんで。
こんなに近くにいるのに、触れることを畏れるの。

気持は、心は。

いつも貴方とともに。




『ギン…ッ』


途中まで感じていた霊圧も、あたしが追ってきていることを知ったのか、途切れてしまった。
あたしの瞬歩なんかでは、隊長格であるギンに追いつくことなど不可能。
それでも、香りも、声も、霊圧すらも。
届かぬ所へ行ってしまう前に。
あたしは貴方を…求めて追いかける。








―名前ちゃんの霊圧を、感じた。
ボクを追いかけて来てる。

今更、ボクを求める。

なして、なして。

答えの出ない質問に、ボクは唯、包まれて。



―ザ…



無意識の内に、此処に来ていた。





「ボク、名前ちゃんが好きやねんけど…」
『え…?』
「絶対、大事にする。
せやから―…」





君との物語を、始めた場所。



「…名前ちゃん…」


君の白い肌に触れたかった。
絶えず弧を描くその唇
風に靡く髪
繊細な指先
華奢な肩
少し下がり気味の眉

その全てが、愛しいと感じた。



君は、今。
何を考えて―…


『―ギン…!!』
「?! 名前ちゃ―…」


聞き慣れた声に振り向けば、走ってきた勢いを殺さずにボクに突っ込んできた。
バランスを崩し、そのまま仰向けに倒れこんだボク。
その上に圧し掛かる名前ちゃん。
細い腰、華奢な体が、壊れてしまっていないか。
心配になって起き上がる。


「だ、大丈夫!?
怪我してへん?!」


名前ちゃんの肩を掴んで、強制的に体を起こす。
乱れた髪、土の付いた頬、荒い呼吸。

ボクを求めた、目に見える証拠。


『ッギンの馬鹿!!』
「名前ちゃ―…」


前髪を退かした向こう側に見えたのは、涙を湛えた瞳。


『好きなら…好きなら、離れないで…ッ』
「名前ちゃん…」
『さよならなんて……言わないで…』


震える声
頬を転がる涙。

今度はその涙が地面に落ちる前に、ボクの指先がそれを拭った。


「…ご免…」


名前ちゃんの頬を両手で包んで、顔を寄せた。
頬を伝う涙に口付ける。

甘い…しょっぱい…

名前ちゃんの涙。

頬、おでこ、鼻。
名前ちゃんの顔中に、唇で触れる。


「堪忍…」


謝罪の言葉とともに、ボクの愛も降らせて。
もうキスするところがない、というくらい唇を落とし、名前ちゃんのまだ潤んだ瞳を苦笑気味に見詰めた。


「離れるなんて、出来ひんのになァ」


こないにも、君が愛しいのに。


「好きや、名前ちゃん」


そう囁いて、今度は唇に、ボクの唇を重ねた。

溶けそうなくらい、熱い想いを乗せて。



『…ん、ふ…ッ』


唇を割って、歯列をなぞり。
おずおずと差し出してきた名前ちゃんの舌先を絡め捕り、吸い上げる。
眉を顰めるその表情を、薄目を開けて盗み見る。
頬が紅潮し、苦しそうに震える手がボクの羽織を握る。

聞こえるのは、名前ちゃんの唇から洩れる声。
ボクの鼓動、傍らを流れる小川のせせらぎ。

木漏れ日がボク等に斑模様を落とし、きらきらと光る水面の隣で。
ボク等は繋がる準備をする。


『ぁ…ギン、此処で…!?』
「我慢出来ひんもん」


名前ちゃんの死覇装の襟元を肌蹴させれば、慌てて伸びてくる名前ちゃんの手。
その手を優しく制し、恥ずかしがる名前ちゃんの死覇装を脱がせる。

白昼の元に現れた、その白い肌は甘美にボクを誘う。


『ん、ぁ…っ』


白い膨らみを口に含み、舌先で桃色の飾りを転がす。
甘い、甘い。
声、体、香り。
名前ちゃんの全てが…


「甘い…」
『ぅ、あ…ッああ』


腰紐を解き、蜜を湛えた秘部を指先でなぞる。


「どないしたん、此処。
大洪水やなァ」
『あ、やだ…ッ言わないでぇ』


ボクの与える刺激に、ビクビクと体を震わせる。

ボクは羽織を脱いで、地面に敷き、名前ちゃんをその上に優しく寝かせた。
華奢な名前ちゃんの体を、ボクの手が這う。
知り尽くした体を、もう一度焼き付ける。


『…っあ』


腹部は名前ちゃんの弱いトコの一つ。
指先で触れるか触れないかくらいのタッチで、くすぐるように触れる。

そのまま下腹部に降りていき、一番名前ちゃんが触れてほしい場所には触れずに内腿を撫でる。
小さく跳ねる名前ちゃんの足。


『あ、ああ…ッ』


―チュ…


名前ちゃんの内腿に、紅い華を咲かせる。
ボクのもの。
誰にも触れさせへん。

ボクの印。

足の付け根にも吸いつき、舌先は名前ちゃんの秘部に辿り着く。


『や、汗かいたから…ッダメ―…ぁあ!』


名前ちゃんの制止なんて構わずに、ボクの舌先は、蜜を掬いあげた。
くりくりと、小さな蕾を舌先で転がし、時々唇で柔らかく挟む。


『ッあ、ああン…ハァ…ッ』


ボクの髪を掴んで、快感に耐え忍ぶ。
蜜は次から次へと溢れ、唾液と混ざってボクの顎を伝う。


「ご免、名前ちゃん」
『ぇ…?…ッあ、あぁあ』


ボクは質量を増したソレを、名前ちゃんに突き立てた。


「加減…出来ひんかも」
『ッやあああぁあぁ』


ズンッと奥にまで突き入れれば、大きく痙攣する名前ちゃん。
そして収縮する名前ちゃんのナカ。


「ッえらい締め付けてきよる…そないボクのが欲しかったん?」
『あッも、やだぁ!』
「嫌?それやったら、止めた方が良え?」


クス、と小さく笑みを漏らせば、意地悪。と涙ぐむ。


「それやったら、おねだりせな。
これ以上、あげへんよ?」


意地悪く口角をあげて笑えば、震える名前ちゃんの声。





『……ッもっと、シて』




その言葉に、ゾクゾクと背筋を何かが這いまわる。


「名前ちゃんが、いけへんねんで」
『え、あ!ッああぁあッハァ…ッ!!』


ガンガンと突き上げれば、絶叫にも似た声で喘ぐ。


「ッ仰山濡れとるで、名前ちゃんのナカ。
熱ぅて…ッ溶けてまいそうや」


限界が近づき、腰を振るスピードをあげれば、髪を振り乱す名前ちゃん。


『ひゃあぁああんッ
壊れ…ちゃ、よォ…!』
「良えよ、壊れて。
そしたらずっと、ボクの傍に居ってな…ッく」
『ッあ、も…イ……くぅ…ッ』


名前ちゃんのナカが激しく収縮を繰り返す。
名前ちゃんの膝裏を抱え、更に深く繋がれるような体勢をとり、ボクもラストスパートをかける。


『ッあ、あああぁああぁあ!!』
「ック…」


ガンッと最奥を突き、白濁とした欲望を名前ちゃんのナカに吐き出した。
ズリュッと卑猥な音を立てて引き抜き、名前ちゃんの隣に寝転んだ。


お互いに荒い呼吸だけを繰り返す。
ボク等とは違い、穏やかに流れる雲、川、そして時間。
いつの間にか太陽は傾き、少し肌寒い風が頬を掠めた。


「ご免な、名前ちゃん…
無茶してもうた」


ぐったりとする名前ちゃんの頬を、そっと指でなぞれば、


『大丈夫…』


と、弱々しい微笑みを浮かべる。


『それより、執務…
吉良副隊長に怒られちゃうね』


クス、と小さく罰の悪い笑みを浮かべる。


「どうせ、怒られるのはボクだけや」


そう言えば、そうね、と笑う名前ちゃん。
笑った仕返しに、名前ちゃんの脇腹を擽れば笑いながら慌てて謝る。


ひとしきり騒ぎ、お互いに見つめ合って、小さくキスをした。
そしてもう一度、あの日の言葉を口にした。




「ボク、名前ちゃんが好きやねんけど…」
『え…?』


突然のボクの言葉に、困惑した表情を見せる。
ボクは弾みをつけて起き上がり、名前ちゃんに手を差し伸べる。
状況を把握出来ていないまま、ボクの手を取り、立ち上がる名前ちゃん。
死覇装に突いた土を払い、向き合ったボク等の影を、夕日が長く引き伸ばす。

あの日の言葉を、一言一句違えずに。





「絶対、大事にする。
せやから―…」


付き合うてください





あの日の言葉。
今度は少し変えて、誓いの言葉を君に。


「絶対、大事にする。
せやから―…」


ボクの言葉があの日と同じものだと気付いた君は、両手で口元を覆い、涙ぐむ。



泣き虫で、意地っ張りで強がりで。
寂しがりやで、ヤキモチ妬きで、健気で。


誰よりも愛しい君を。
手放したくはないから。


















「結婚、して下さい」
















今度は永遠を君に、約束しようと思う。
変わらぬ想いを、永久に……










あの日の

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それは永久に変わらぬ想い。


(里緒様リクエスト。)



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