壊れた世界、二人ぼっち





れた世界、二人ぼっち


その手から逃れられる事はない。
逃れたいのか、と聞かれたら。
あたしはいいえ、と応えるでしょう。

その手に囚われて
朽ち果てるのであれば。

この悪夢すら
愛おしい。


『じゃあ、リン君、この書類お願いね』
「はい、分かりました」


局長から直々に渡された書類を局員分コピーして配布する。
何とも単純な仕事だけれど、これがまたものすごく時間がかかる。
重要書類だから、ちゃんと手渡ししなければならない。
でも、肝心の局員が何処で何をしているのか全く分からない時もある。
それでも地道に配り続けた甲斐あって、手元にある書類はあと数枚。

その残りの数人が、中々尻尾の掴めない方たち。
例えば―…


「名前」


名前を呼ばれ、振り返れば。
其処に佇むのは、不機嫌な表情を浮かべた、あたしの探している人物の一人。

白衣の下に纏う黒。
白衣を脱ぎ棄てれば、何時もと違うその漆黒に囚われる。


『何ですか、阿近さん』


書類を抱えたままのあたしは、営業用の微笑みで返した。

やっと見つけた。
この人は本当に。
自分の研究室に籠っているわけでもないし、鵯州さんの様に特定の機械に噛り付いている、という事もしない。
しかも多忙な人で、見かけた、と聞いてもその数分後には全然別の場所に居たりする。

あたしは手元の書類を阿近さんに渡そうと、近づいた。


『阿近さんの事、探してたんですよ?』


そう言ってまた一歩、彼に近づく。
その都度跳ねるこの心臓は。

相手が彼だからか。
それとも―…


「―…お仕置きだな」
『え…ッ』


囚われることを期待して、なのか―…



『ちょ、阿近さん…ッ』


細身のその体からは想像もできない程の力で、あたしの腕を掴んで引きつける。
制止する声も、弱々しい抵抗も全て意味の無いものになる。

普段使う事のない、阿近さんの研究室まで、腕を引かれながら廊下を進む。
痛い訳じゃない。
でも、振りほどけない力。
痛かったら、躊躇いもなく振りほどけるのに。
このもどかしい力が、あたしを支配する。


―バタン…ッ


少し荒々しく閉じられた扉。
普段使っていないからか、薬品の匂いと、少し埃っぽい匂いが鼻を突く。


『阿近さん、遊んでる暇はありませんよ。
これ、局長から書類でs―…』

「うるせぇよ」


あたしの手から書類を奪うように取り、傍にあった机に置いた。
そしてそのまま、阿近さんの大きな右手があたしの後頭部を包む。

くる、と目を閉じた瞬間、唇に触れた阿近さんの唇。
押し当てられた唇は少し冷たくて、乾いていた。


『ッふ…ぅ…ッ』


唇を割り、侵入してくる舌は唇とは対照的に熱くて。
それだけで全てが溶けてしまいそうだった。


『あ、こん…さん…ッあ』


白衣は何時の間にかはぎ取られていて、黒い死覇装の下に広がる肌色が露わになっていく。
乱暴に、噛まれるように奪われる唇。
歯列をなぞり、呼吸の隙も与えないキスは、阿近さんが"怒っている"証。

なぜだろう、なぜだろう。
思い返そうと過去に目を向ければ、その度激しい口付けによって現実に引き戻される。


「ッは…」


さすがに自身も苦しくなったのか、離れた阿近さん。
余裕のない、何処か切なげなその表情に、下腹部が疼く。

ああ、あたしは今日この人に壊される。

そう何処かで直感した。


腰紐を解かれ、肌蹴ていく死覇装。


『ちょ、阿近さん…!
どうしたんですか?』


執務中であるにも関わらず、事を進めていく阿近さんに焦りを感じ、忙しなく動く阿近さんの手を掴んだ。


「お前…それ本気で言ってんのか?」


あたしを見るその瞳は、怒りの色が見えていて。
この人にあたしは何かしただろうか、と真剣に考えてみた。


「だとしたら、相当仕置きが必要になるな」


そう言って、何処か楽しそうに微笑んだ阿近さんの口元に、あたしの心臓は跳ねた。


「お前は誰のモノか、はっきりさせてやらねぇとな?」
『ッそ、んなの…もうはっきりしてます…ッ』


首筋に唇を押しあてながら喋るから、振動がくすぐったくて息が荒くなる。


「ほう…?
じゃあ、お前は一体誰の飼い猫だ?」


意地の悪い目で見てくるもんだから、あたしは目を潤ませながらも愛しい人の名前を呼んだ。


『阿近さんの…です』


その言葉に満足そうに微笑んだ阿近さんは、今度は優しく唇を奪った。


「そうだ、お前は俺のものだ。
お前の世界には、俺だけで良い。
なのに、お前はすぐ外に出ようとする」
『ッあ』


首筋に噛みつかれ、鋭い痛みが走る。


「お前の瞳に映るのは、俺だけで良い。
お前に触れていいのは、俺だけで良い。
なのに…お前はすぐ他の奴のところに行く」
『ッ阿近さ…ッあ…!』


阿近さんの骨ばった指が、いきなり蜜壺に侵入してきた。
もう十分蜜を湛えていたソコに痛みは無かったけれど、驚きと突然の快感に、思わず腰が揺れる。


「ほら、そうやって誰にでも尻尾を振るんだろう?
この淫乱…俺を怒らせて楽しいか?あ?」
『ッあぁ…!』


一気に三本埋め込まれ、その強い快感に背中が痺れる。


「仕置きのつもりだが…善がってちゃ意味ないよな?」
『ッぁん…』


ズリュッと卑猥な音と共に、阿近さんの指が引き抜かれた。
あたしから離れ、傍にあった椅子に座るとあたしを見据えた。
火照った体を放置されたあたしは、疼く熱でおかしくなりそうだ。


「…どうした?して欲しそうな顔して」


ニヤリ、と口角をあげる阿近さんは酷く妖艶で。
あたしは思わず目を伏せた。


「火照って仕方ねぇんだろ?
だったら、自分でしてみろよ」
『…ぇ…』
「え、じゃねぇよ。
出来るだろう?
俺が仕事で忙しい時、自分でしてるじゃねぇか」
『…ッ!』


なぜ、知っているのだろうか。

自分だけの秘め事。
阿近さんが実験等で忙しく、会えない日が続くと、あたしの体は自分のモノでは無くなったかのように阿近さんを求めて火照る。
その熱を沈めるため、自身を慰める事をしてきたが。

自室でしていたし、戸締りはちゃんとしていた。

見られる筈、ないのに―…

混乱しているあたしの耳に、クックと、喉で押し殺した笑い声が聞こえた。


「どうして俺が知ってるかって?」


あたしを見る、その細く切れ長な瞳。
椅子から立ち上がり、あたしの耳元に唇を当てる阿近さん。


「ペットを監視するのは、主人の役目だろう?」


囚われたあたしは、もう逃げられない。


「ほら、得意だろ?
さっさとして、俺を満足させろ」


またあたしから離れ、椅子に深く腰掛ける。
あたしは火照り、熱でうなされる体をどうにかしたくて、震える指で自身を暴いた。

死覇装を脱ぎ棄て、薄暗い部屋の中に映える白の裸体。
傍にあった椅子に腰かけ、両足を開く。

かなりの羞恥心との戦いの中、阿近さんはただじっと見据える。

生唾を呑み下しながら、あたしはゆっくりと自分の体に手を這わす。

膨らみを揉み、先端の飾りを捻る。


『ッぁ…ッ…ハァ…』


じわじわと押し寄せる快感。
あたしをゆっくりと蝕む。


左手は膨らみを揉み、右手を下へとおろしていく。
蜜を含んだ其処に中指を埋め込み、内壁を擦りあげる。


『あ、あぁ…ッハァ…ん』


ぼんやりとしていた快感が、はっきりとあたしを覆う。
指を二本に増やし、自身を攻め立てた。


『ッああ、んっ…ハァ…あ、あッ』


グチュグチュと卑猥な水音が部屋を占める。
目の前には愛しい人。
その人の目の前で曝け出す羞恥。
快感だけを追い求めるあたしは、喘ぎ、自分を攻める。

絶頂が近づき、指の動きも激しくなる。
その時、僅かな視界の隅で愛しい人が動いた。


「やめろ」
『ッあ…』


蜜壺に埋め込まれていた指を引き抜かれ、耳元で低く唸る声。


『あ…な、で…?』


荒く息を吐くあたし。
もう少しで届くはずだった絶頂に、あと一歩で届かなかったあたしは、自慰を始める前よりももっともどかしい熱に体が疼く。


「主人の許可なしに、イけると思うなよ?」


そう囁いた阿近さんは、はち切れんばかりのソレを一気に突き立てられた。
衝撃に近い快感に、意識が飛びそうになる。


「ッ締め付け過ぎだ…ハァ…」


切ない阿近さんの声に、図らずも下腹部が疼く。


「…ッ勝手にイくなよ?」


クス、と薄く笑った阿近さんは、あたしの覚悟ができるまえに激しく腰を打ち付ける。


『ッあ、ああぁあ』


内壁を擦り、良いトコロばかりを突き上げる。
脚が震える。
快感が背中を駆け上がり、脳が痺れる。
もうとっくに限界なんて超えているあたしの体が、それだけの快感に耐えきれる筈もなく。


『ッああぁあああ…!!』


叫びに近い喘ぎ声と共に快感を放出した。


「おいおい、漏らしてんじゃねェよ。
漏らすくらい気持ちよかったのか?」


嘲笑があたしの頭上に降り注ぐ。


「躾が必要だな」


ふしだらな躾で、あたしを縛り上げる。


『あ、こ…さんッ…も…ダメぇえ…』


弱々しく啼けば、静かに笑う阿近さん。


「仕方ねぇな…
イかせてやるよ」


そう囁いた阿近さんは、あたしの膝の裏を抱えると、打ち付ける腰のスピードを速めた。
圧迫され、奥を突かれ、あたしの生理的に涙を零した。
頬を転がる涙を、阿近さんの舌先が舐め取る。


『ッあ、も…イく…ッ!』
「ッ…イけよ、俺の目の前で。
俺ので…俺だけのでイけよ…」
『――――…ッ!!!!』


そう言った阿近さんは何処か寂しそうで。
達した瞬間手放した意識の片隅で、阿近さんが泣いた気がした。




「ッ…ハァ…」


俺の腕の中でぐったりとする、愛しい君。
また、壊した。君を。

でも、お前が悪いんだ。
他の男となんかと話すから。
あいつらの目に触れる事すら、許せないのに。

触れるな、触れるな。
名前は俺だけのものだ。
名前も、俺だけを見れば良い。

誰にでも笑顔を振りまく名前。
その笑顔が好きだった筈。
なのに、今ではその笑顔が憎たらしい。

その笑顔で誰をも魅了するお前が。
何時か離れていきそうで怖い。

離れていくくらいなら、壊してしまった方がいい。
壊れたお前を、俺だけが愛してやる。


「…お前の世界に、俺以外は必要ない…」


一生閉じ込めて
離すものか。






れた世界、ふたりぼっち

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次の日君は、世界を忘れる


( アンナ様リクエスト。 )

11.11.13.10:42

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