なんとなくなまえちゃんと話したくなって、ボクはふらっと教室を出る。なまえちゃんはボクと別のクラスやから、話に行くにはわざわざ冷やっこい廊下に出てから他の教室に探しに行かなければならない。それが面倒やけど、その面倒なことをしてまで話したくなったとき、ボクはのそのそと歩き出す。
何歩か歩いていると、なまえちゃんが在籍しているクラスの教室の前で、何やら知らん男と話しているなまえちゃんを見つけた。お取り込み中なんやろか出直そうかと思ったけれど、その男がなんとなぁくチャラそうな見た目だったので、ボクはお取り込み中なのを無視しようと思った。

「なまえちゃん」

少し遠くから呼びかけると、なまえちゃんはくるりとこっちを振り返る。そしてにこっと笑う。ボクが手招きすると、なまえちゃんはボクの知らん男に一言断ってこっちに小走りでやってきた。
チャラそうな男は少しぽかんとしていて、「あんな男と親しいんか」とでも言いたげな顔をしていた。残念やけど、お前よりボクのがなまえちゃんと親しい自信あるで、と心の中だけで呟く。

「どしたん、翔くん」

ボクより低い位置にある顔を、なまえちゃんはボクの方に向ける。その仕草がなんとなく、好きだ。なぜ好きなのか、そんなん理由はない。

「さっきの奴は?」

ボクが聞くとなまえちゃんは一回後ろを振り返り、あぁ、と合点がいったような声を出した。

「委員会の人やで。次の当番が一緒やから、打ち合わせしとったん」
「へぇ。なのにボクの方来て良かったん?」
「自分で呼んどいてそう言う?まぁ打ち合わせはだいたい終わったからね」

ボクの言葉に、ちょっと困ったような笑顔を浮かべながら答えるなまえちゃん。頭の後ろを掻きながらそんな笑い方をするのは、彼女の癖なのだと思う。
ふぅん、とボクが返事すると、少しの沈黙が生まれる。自分でも分かっとるけど、ボクはお喋り上手な訳ではない。そしてそれはなまえちゃんも一緒だ。だからこんな沈黙が起こることはざらにあった。最初はこの沈黙を何とかしようと思ったことがなまえちゃんにはあったらしいが、最近沈黙も心地いいと思えるようになったと言っていた。でもボクは割と最初から心地いいと思っていた。

「……そういえば」

少し時間が経ってから、なまえちゃんが思い出したように声を出す。

「翔くん、なんか私に用事?」

なまえちゃんはボクの方を向いて、数回瞬きをしながら聞いてきた。
ボクがお取り込み中に声をかけたからか、なまえちゃんは急ぎの用事でもあるのかと思っているらしい。
けれどそんなことは全く無くて、ただなんとなく話したいな、と思ったから声をかけただけだ。そしてあと、さっきの知らん男がチャラそうやなと思ったから、なまえちゃんとあんまら長いこと話をさせたくなかったというのもある。
そうなまえちゃんに伝えると、なまえちゃんはふふ、と小さく笑う。

「なにそれ、ちょっと嫉妬したん?」
「何でそうなるんや」
「あれ、今の話聞いたらそう思うんが普通やない?」
「意味分からん」

ハァ?と言ってみたけれど、なまえちゃんはそれすらもくすくすと笑って物ともしない。別に嫉妬とかそういうんちゃうわ、と心の中でだけ言う。実際に声に出しても、恐らくなまえちゃんはまた笑うだけだ。

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