暖かい日差しの下、大きく口を開けて欠伸する。季節は春から夏に変わるか変わらないかといったくらいで、半袖で過ごしても差し支えなかった。
私と一くんは、私の家の縁側でぼんやりしながらぽかぽかとした日差しを満喫する。暖かいので眠くなってきたのか、一くんはころんと横になり、私の膝を枕代わりに使い始めた。こんなことをするなんて珍しい。

「一くん眠い?」

聞くと、一くんは小さく頷く。その頷きはあまりに小さかったので、よく見ていないと見逃してしまいそうだった。
一くんの感情表現は、結構乏しい。一年生や二年生のときに比べたら、部活で部をまとめる立場に立つようになったからかよく話すようになったけれど、それでも普通の人よりかは少ないと思う。でも、私はそれが心地良い。たくさん話す人より、私は寡黙な人の方が好きなのだ。日差しに当たりつつ、私はそう、心の中で呟いた。
ぽかぽか暖かい日差しに当たっていると、なんだか嫌なこととか心配なこととかを溶かしていってくれるような気がする。そして幸せな気分になれるような気がする。「幸せだねぇ」と小声で言うと、一くんがぼそりと「そうだな」と返してくれた。それだけでも幸せになる。

「ほんと、声が眠そうだね一くん」
「……眠い」

一くんから聞こえてきた声は、びっくりするくらい柔らかい。ついふふっと笑ってしまうと、一くんはむっとした表情をした。笑われたのが納得いかないみたいだ。ごめんねと一言謝ると、ん、と声がした。たぶん許してくれたのだと思う。

「寝ていいよ、部活とかで疲れてるでしょ」
「……でも、なまえがいる」
「私のことは気にしなくていいよ」

寝るように促してみるけれど、一くんは首を横に振る。
一くんは何気に頑固なところがある。そういうところも好きなのだけれど、無理はしてほしくない。たぶんそう伝えても一くんは首を縦には振らないだろうけど。



数十分後、一くんはすやすやと私の膝の上で眠っていた。
一くんは最後まで了承しなかったけれど、やっぱり眠気には勝てなかったらしく、首を横に振りつつ眠ってしまった。そんなに眠かったなら無理に私に会いに来なくても良かったのにと思ったけれど、逆にそこまでして会いにきてくれたことは嬉しかった。
でも、一くんはもう少し自分のことを大事にした方が良い。起きたらそう言ってしまおう。
膝の上で眠る一くんの髪を、撫でる。色素の薄いそれは思いの外さらさらしていて、指を簡単にすり抜けた。

「……さらっさら。女子より綺麗なんじゃないのかな」

ぼそぼそと、聞かれていないのを良いことに髪への感想を呟く。もう一度髪を撫でて、また感触を確かめる。なんだか変なことしちゃってるなと思うけれど、私しか見ていないのだから良いか、とも思う。
そうやって何回か一くんの髪を撫でたり掬ったりして、そして暖かい日差しを楽しんだ。

「……幸せだなぁ」

そう言って、一くんの顔を見下ろす。
一くんは何やら夢を見ているようで、ううん、とかあー、とかいう声を時たま出していた。良い夢なのかどうかは、よく分からない。寝言がそこそこな回数聞こえてくるので、もしかしたら案外夢の中ではいっぱい喋っているのかもしれない。全く想像できないけれど。
夢と格闘しているらしい一くんを見て、また小さく笑う。今度は笑っても、誰にもお咎めを受けない。

「……一くん」

私は一くんを起こさないように、一くんに語りかける。
一くんは今、夢は見ているらしいものの、すやすやと眠っている。いつもは恥ずかしくて言えないけど今なら言えるようなことを、この際言ってしまおう、と思った。

「一くん、いつもありがと。……好きだよ」

最後になるにつれ、自分でも聞き取りづらい声になった。それをちょっぴり恥ずかしく思う反面、これなら絶対に一くんには聞こえないだろう、と思う。
少し火照った顔は暖かい日差しの所為にして、私はもう一度、一くんの髪を撫でた。

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