疲労が溜まり過ぎたのか何なのか、理由はよく分からないけれど、俺は授業中に倒れてしまったらしい。一瞬だけ意識が途絶えて、次に目を開けたときには床に横たわる俺を近くの席の人達が抱き起こしてあわあわとしていた。
先生が保健委員の名前を呼ぶ。青八木を頼めるか、という声が聞こえた後、一人の女子が頷いて席を立った。そしてこちらに向かってきて、女子なのに俺の脇に腕を突っ込んで軽々と立たせた。

「一人で立てる?」

その質問に、少し自信が無かったので首を傾ける。
すると彼女は「わかった」と言って肩を貸してくる。

「歩ける?」

立て続けの質問に、今度は首を縦に振る。支えてもらっているなら、保健室までは歩けると思う。彼女はまた「わかった」と端的に返事し、俺を支えながら歩き始めた。



保健室に着くと、まずは昨日何時に寝たとか朝ごはんは食べたかとかを保健室の先生に聞かれた。それをぼやぼやとした頭で答えながら、今度は熱を計る。「熱は無さそうね」と先生がほっとしたように言っていたような気がする。
ベッドに寝かされたあと、保健委員の彼女と先生が少し話しているのが聞こえた。ぼんやりとしていたので、内容までは聞こえない。
少しすると、「ちょっとごめんね」と言いながらカーテンが開いた。保健委員の彼女だった。

「青八木くん、寝不足と貧血だと思うって先生言ってた」

俺の顔を見ながら、彼女は言う。

「だからレバーとかほうれん草とか、そういうの食べると良いと思うよ」

その言葉に、俺は頷く。

「あと、今日は早く寝るといいよ。というか、もう今日は授業出ずにゆっくり寝てたらいい」
「……今、眠くない」
「あらら」

眠くないと告げると、彼女は困ったように笑った。倒れたときの衝撃が思ったより強くて、目が冴えてしまっているみたいだ。落ち着いたら眠くなると思うが、今は眠気がまったくなかった。
彼女はうーん、としばらく思い悩んでいるようだった。そしてぽつんと、「じゃあ、青八木くんには魔法を使ってあげよう」とはにかんだ。

「すぐに眠くなる魔法だよ」
「……何だ、それ」
「まぁまぁ、そんなに本気にしないでもいいよ」

とりあえず目を閉じて、と彼女は言う。大人しく目を閉じると、彼女の温かい手が瞼の上に乗ったのを感じた。差し込んでくる光も見えなくなって、真っ暗だ。

「青八木くんは、眠くなります」

彼女は言う。あまりにもストレートな言葉だったので、心の中で少しだけ笑った。
笑ったと同時に、理由は分からないけれど、俺は意識を手放した。



起きたのは、六時間目が終わる頃、つまり数時間後だった。腕時計で時間を確認して、いつの間に眠っていたのだろうと不思議に思った。保健室の先生に聞くと、彼女は俺が眠ったあとすぐに授業へ戻ったらしい。
つかみどころの無い、なんだか変な人だなと少し思った。
もしかしたら彼女は、本当に魔法が使えたのかもしれない。

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