彼女が嬉しそうに「新開!今日男子寮辺りでウサギ見つけた!」と言ったのは一時間目の始まる直前の事だった。普段は気だるげにしている癖に、自分の好きなものとなると途端に目の色を変える彼女。以前からそんな彼女に興味を抱いていたから、嬉しそうな声を聞いてすぐに、ウサ吉の事をぽろりと話してしまった。
そして今、彼女は男子寮の外にあるウサ吉の小屋の前でウサ吉と戯れている。もふもふ、もふもふとウサ吉を撫でる彼女。ウサ吉も突然の来訪者に驚いて、ちょっとかしこまっている。

「ほんとに飼ってたんだ!いいなウサギ、もふもふしてる」

教室ではなかなか聞こえない声を、彼女は全面に押し出してくる。普段俺と話す時はそんな声出さないのに、ウサ吉の前だとこんなにふわふわした声を出すのか。そう思うと、そんな姿が見られて嬉しいと同時に、ちょっとウサ吉に嫉妬してしまう。馬鹿みたいだけど。

「いつから飼ってるの?」
「二年の時からだな」
「ふうん、もう一年以上飼ってるんだ」

ウサ吉を撫でる手を止め、こちらを振り返りながら質問する彼女。その時は、いつもの気だるげな表情だ。声も平坦で、その方が彼女らしいと思うけれど、さっきまでのふわふわした表情を見てしまえばちょっと物足りない気持ちになる。
またウサ吉を撫でるのに集中しだす彼女の背中に、ちょっと構ってほしくて質問を投げかける。

「ウサギ、好きなのか?」

彼女はウサ吉を撫でる手を止めないまま、こちらを振り向かずに「うーん」と呟く。せめて、顔だけでもこちらに向けてほしい。

「ウサギというか、動物が好き。哺乳類が」
「じゃあ犬も好きなのか」
「そうだね」
「猫はどうだ?」
「好きだね」
「靖友と気が合いそうだな」
「……?あぁ、荒北か。そうかもね」

会話が続くように言葉を投げかけてみたけれど、彼女はいつも通りのテンションで応答するので張り合いがない。ウサ吉に会ったときくらいにテンションが上がってくれれば良いのに、と思う。けど、それが難しいことも分かっている。
どうせテンションが変わらないままなら、ちょっとくらい変なことを聞いてみてもいいか。
ふとそう思って、口を開く。

「じゃあ俺は?」
「ん?」
「俺も哺乳類なんだけど」

もっふもっふとウサ吉を撫でる手が一瞬止まる。そしてこちらを振り返り、ニ、三度彼女は瞬きをした。
……これはもしかして、普段のテンションとは違うのだろうか。俺の発言に驚いているのは、若干照れているのか。
普段とは違う彼女の視線が向けられたことに嬉しく思い、さっきの言葉は変過ぎたかもな、と少し反省する。
そんな俺を見て、彼女はウサ吉をもふりと一撫でした。

「そうだね、哺乳類だねぇ」

落ち着き払った声で、彼女は言った。

「そういう点では、新開も好きだよ」

特に笑顔を見せるでもなく、さらりと彼女は言う。特に驚いても照れてもいない、普段通りの顔で。
そんな言葉をそんな顔で言われると、なんだかこちらが恥ずかしくなる。
「そうか」とだけ相槌を打って、俺はにやけそうになる口元を隠した。もっとも、口元を隠した頃には彼女の視線はウサ吉へと戻っていたのだけれど。

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