三月に、なった。
なまえちゃんからの連絡は、バレンタインデー以来来ていない。
連絡が無いのは当然だと思いつつも、着信が来ていないかメールが来ていないか確認するために携帯を開く事が多くなった。毎回毎回、着信もメールも来ていない画面を見るのは辛い。けれどそれをやめることはどうしても出来なかった。
今日も部活の休憩中に、携帯を開く。

「東堂」

声がしたので振り返ると、フクが俺の後ろに立っていた。
休憩中とはいえ携帯を使っていたことに何か言われるだろうか、いや巻ちゃんに電話していた時も注意されたことはなかったはず、と考えながら、声に応える。

「なんだ?フク」

出来るだけ、明るい声で。
そう努めてはみたが、自分ではそれが上手く出来ているか分からなかった。
フクは座っている俺を見下ろして、いつもと変わらない鉄仮面で、いつもと変わらない声音で話す。

「最近、調子が悪いな」

フクの口から、想像していなかった言葉が出た。
てっきり携帯を使っていたことに何か言われるんだと思っていたが、そうではないらしかった。

「そうか?気の所為だろう、俺はいつでも元気だぞ!」
「無理するな。二月中旬からお前の調子が悪い事は見ていたら分かる」
「……」

精一杯の笑顔で、そして巻ちゃんや荒北によく「ウザい」と言われる声音でおどけてみたが、フクは眉一つ動かさなかった。
二月中旬から、ということは、俺となまえちゃんが別れた直後から俺の調子は目に見えるほど悪かったのか。そんなに自分が分かりやすい人間だとは思っていなかったので、情けないな、と心の中で自嘲した。

「何かあったのか」

フクが聞く。
流石に「失恋したので部活にも支障が出るほど調子が悪い」とは言えなくて、小さく微笑んで「……分からんな」と呟いた。

「分からないのか」
「あぁ。……大丈夫だ、調子くらいすぐに直る。そこまで心配するな」

もう一度、ウザい声音で言う。
今度は上手く言えただろうかと思ったが、フクの顔を見て、またもや失敗したなぁと思った。フクの表情は鉄仮面のままだが、その顔には微妙に心配の顔が見て取れた。それでも追及する気はないのだろう、遠慮がちに「そうか」とだけ言い、そこでフクとの会話は終わった。

フクに言われて気付いたが、確かに最近記録されているタイムは以前より落ちていた。俺の走りは感情が出やすいのだろうか。まだまだだな、とため息をつく。
そして、薄々だが、なまえちゃんと別れてから自分の心がどろどろとしたものに侵食されていくことを恐れていた。
今までもなまえちゃんとは頻繁に会えていなかったのに、会えない事がとても苦しい。
今までもなまえちゃんの事をそれほど知っている訳ではなかったのに、今のなまえちゃんについて知らない事があるだけで気が狂いそうになる。
別れ際のなまえちゃんの顔を思い出して、本当は別れたくなかったのに、と誰かを責め立てたくなる。
この恋慕という感情が綺麗なのか汚いのか、俺にはもう分からなかった。
まだ俺は、なまえちゃんの事が好きだ。
けれど、この想いはどうすれば良いのだろう。何処にやれば良いのだろう。

はああ、と長いため息をついて、重い腰を上げて練習へと戻った。

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