だらぁっと机に覆いかぶさっている私を見て、巻島くんはため息をついた。かれこれ一週間、私はずっと意気消沈している。部活もなかなか身に入らなくて、金城くんや田所くんにまで心配された。不甲斐ないとは思うが、ここまで気分が落ちていては上手く取り繕う事も出来ない。巻島くんと同じように、私もはぁ、とため息をついた。

「私の心は土砂降りだよ……」
「何詩的な事言ってんだ」

巻島くんが、薄いノートで私の頭を軽く叩く。分厚い本でなかったのは、巻島くんなりの優しさなんだと思う事にした。

「つーか、そんな凹むくらいなら何で別れたんだよ」

流し目でこちらを見てくる巻島くんの顔から目を背けて、私は「まぁ、いろいろあって」と言葉を濁した。
実際は、いろいろというほど沢山の出来事があった訳ではない。端的に言ってしまえば理由は一つだけで、私の嫉妬、だった。別れようと思ったきっかけはバレンタインデーだ。別に自分以外からのチョコを貰っている東堂くんが憎らしかったのではない。ただ、東堂くんはファンクラブがあるほど沢山の人から好意を抱かれていると知ったからだ。以前からも東堂くんは美形だとか、大層女の子におモテになるとかは気付いていたが、改めてそれを知って、あまりにも私との間に差がありすぎるんじゃないかと感じた。正直私はそんなに、というより全く、モテる方ではない。本当の事を言うと、告白されたのも東堂くんが初めてだった。そんな私が、東堂くんと付き合ってて良いのだろうかと思ったのだ。まぁその時は、東堂くんとは距離を置こうとだけ考えていて、別れまでは考えていなかった。けれど次の日、校門の前に立っている東堂くんを見て私の前を歩いていた女の子グループが「ねぇ、あの人めちゃくちゃかっこよくない?」などど話していた時に、そして遠目に見えた東堂くんが本当にかっこよく見えた時に、あぁやっぱり私では駄目だ、と思った。そしてその思いのまま、別れを告げた。
私はきっと心のどこかで、東堂くんなら引き止めてくれると思っていたのだろう。だが、東堂くんは別れを受け入れ、挙句「なまえちゃんが良いならそれで構わない」と笑った。私は、それが一番ショックだった。
だから私はあれから一週間経っても、まだまだ立ち直れてなどいないのだ。

「正直ここ最近のお前、相当参ってるっショ。東堂の事ばっか考え過ぎなんだよ」
「別に考えてないし……」
「なーんでそういうとこだけ見栄張るんだよ」

寧ろ東堂の事しか考えてねえだろ、とまたノートで頭を叩かれた。

「……まぁ、ちょっとくらいは、考えてたかも」
「素直に認めろって」

今度はノートじゃなく、巻島くんの手が私の頭に振ってくる。でもその手はふわりと頭に落ちてきて、わしゃわしゃと髪を撫でた。
弱っている時に、異性にこんな風に優しくされると惚れてしまうのが普通だろう。けれど私は、巻島くんに頭を撫でられても、優しい人だなぁとしか思うことが出来なかった。やはり心の中はまだまだ東堂くんへの想いが支配している。釣り合わないと分かっているのに、私はまだ東堂くんを欲している。そんなぐちゃぐちゃな気持ちが渦巻いている私を客観的に見つめて、自嘲気味に笑った。

「あー……東堂くん」
「完全に未練たらたらっショ」
「そうかもねー……でもさ、東堂くんは私が別れようって言ったとき、引きとめなかったんだよね。それってやっぱり、東堂くんは私の事そんなに好きじゃなかったんだろうね」
「好きなのに別れを告げたヤツが言うセリフか?それ」
「……あはは」

なんでもないように笑ったけど、巻島くんは心配そうに私を見つめた。
私、巻島くんに心配ばかりかけてるなぁ。
申し訳なさで胸がちくりと痛んだが、それを口に出したりはしなかった。

「まぁ、どっちにしろよ」
「ん?」

巻島くんの声に、私は少しそらしていた目線を彼の方に向けた。彼は頬杖をついて、こちらを見つめていた。

「復縁するにしろ未練を無くすにしろ、三年になったら東堂に滅多に会えなくなるぞ」
「それは今までもじゃない?」
「それはそうだけどよ、インハイや受験があるっショ。二年の間は、作ろうと思えばお互い時間を作れたんだよ。でも三年になったら、多分無理だぞ」
「……フェードアウト、になるのかな」

多分、二年のうちにもう一度会って話し合えという意味で巻島くんは言ったのだろう。
私の言葉を聞いて、巻島くんはとてつもなく呆れた顔をして、またノートで私の頭を叩いた。

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