東堂くんと初めて直接話したのは、冬に巻島くんが出ているレースを見に行った時だった。以前巻島くんが、このレースに東堂くんも出る事を教えてくれた時、話してみたいと私がお願いしたのだった。この時には既に東堂くんと私は仲良しなメル友になっていたから、一度直接会って挨拶でもしておかないと、と思ったのだ。巻島くんが何を勘違いしているのかにやけた顔をしていたのは記憶に新しい。
レースが終わり、巻島くんのところに行ってドリンクを渡すと、巻島くんはすぐに私を東堂くんのところに連れていった。アイツが東堂だ、と少し離れたところから巻島くんが指差す。その先にはカチューシャをした、えらく顔の整った男の子がいた。

「あの人が?」
「アァ。あの無駄に顔良い奴だ。さ、みょうじ、話してこい」
「え、巻島くんは行かないの?」
「俺は行かない方が良いだろうな」

クハ、と巻島くんが笑う。
行かない方が良いってどういう事だろうか。さっきまで戦っていた相手と、レースが終わったからといってすぐに馴れ合わないのが美徳とか、そういうのだろうか。よくわからないけど、それなら無理に一緒に行くわけにはいかないだろう。わかった、と巻島くんに言って、私は東堂くんの方へ歩いていく。メールや電話は何回もしているとはいえ、直接話すのは初めてだ。心臓が、思いのほかどくどくと脈打っている。東堂くんから5歩くらい離れたところで足を止め、「と、東堂くん?」と呼びかけてみる。すると東堂くんは勢いよく振り返り、さっきまで飲んでいたボトルを落としかけていた。驚かせてしまっただろうか。

「なまえちゃん、か?」
「うん。メールや電話ではいつもありがとうね。えっと、改めましてみょうじなまえです。よろしくね」
「あ、あぁ。こちらこそいつも連絡ありがとう。巻ちゃんから聞いていると思うが、東堂尽八だ」

いつものハイテンションとはちがい、東堂くんは緊張しているようだった。私も緊張していたから、良かった、私だけじゃないんだ、と安心した。
レースお疲れ様、と声をかけて、会話をする。最初はお互い緊張している所為で噛んだりどもったりしていたが、数分離すうちに、メールや電話で話すのと同じようにスラスラと言葉が出てくるようになった。東堂くんが半端ないコミュニケーション能力を持っていたのと、割と私達の性格が噛み合っていたのとで、話していて飽きる事がなかった。
あはは、と東堂くんと笑いながら色んな話をする。メールも電話も良いが、こうやって顔を合わせて話すのが一番良い。相手がどんな顔をしているのか見ながら話せるのは、ほっとする。

「あー、東堂くんほんと話すの上手いね。一緒に話しててすっごい楽しい。私東堂くん好きだわ」

笑い過ぎて目の端に浮かんだ涙を拭いながら、私は言う。すると、さっきまで楽しく喋っていた東堂くんの動きがぴた、と止まってしまった。何か失言したか、と私は焦る。

「……なまえちゃん」
「は、はい」

急に静かになった東堂くんを、私は緊張した面持ちで見つめる。見た感じ怒ったり悲しんだりしているようには見えない。何かに耐えているように見えた。
東堂くんは、力なく笑いながら私に言葉を投げかける。

「そんな風に言われたら、期待してしまうではないか」
「……え?」
「その……好きだ、とか」
「あっ」

東堂くんに言われて、私はさっき、無意識に東堂くんに好きだと言ってしまった事に気付く。一緒にいて楽しい、という意味だったのだが、好きだとか簡単に言わない方が良かったかもしれない。ごめん、と俯くと、謝ってほしいのではないのだよ、と言われた。

「ただ、そういう事を言うと男は期待してしまうのだよ」
「わかった、気を付ける……というか、期待って」

期待って何への期待?と聞こうとして顔を上げ、私は固まってしまった。
東堂くんが、真剣な顔をしてこちらを見つめている。

「と、」
「好きなんだ」

東堂くんの名前を呼ぼうとすると、五文字の言葉に遮られる。好きなんだ、と。何が好きなの、とここで大ボケをかます事は出来なくて、私はただただ東堂くんを見つめる。

「いきなりなんだと思われるかもしれないが、なまえちゃんが好きなんだ。夏に遠くから見たときから、気になっていたんだ」
「……え、ほ、ほんとに」
「本当だ。……良ければ、良ければだが……付き合ってほしい、と思うほどには好きなんだ」

よく見なければわからなかったが、東堂くんは小さく、小さく震えていた。見るからにプライドが高そうだが、そんな人が、震えながら、私に告白している。
そう思うと、なんだか急に愛しくなってきた。ついさっきまで東堂くんに恋愛感情なんて抱いていなかったが、じわじわと東堂くんへの思いが膨らんでくるのを感じる。気付いたら、私は東堂くんの手をそっと手に取り、ぎゅう、と握っていた。東堂くんはそんな私と自分の手を見て、息を飲んだ。

「お、お付き合い……しましょうか」

東堂くんの体と同じように、震える私の声。東堂くんが小さく、え、と声を上げる。

「なまえちゃん」
「はい」
「い、今のは本当かね」
「……は、はい」

こわごわと、それでも東堂くんの目を見て言うと、さっきまでの緊張感ある空気は、東堂くんの突然の抱擁によって壊された。ぎゅ、と東堂くんの腕が私の背中に回される。本当に本当なのだな、と噛みしめるように言っているのが、聞こえた。
こうして私達は、お付き合いというものを始めることになった。その後巻島くんにその旨を伝えると、あー、やっとくっついたか、とかなんとか言っていた。

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