私がずっと前から、思ってる事を話そうか。

東堂尽八というのは、同じ部活の巻島くんのストーカーみたいなものだと思っていた。週に三回は電話をかけてきているようだし、巻島くんは「あー、また東堂っショ……」とやけに面倒臭そうに呟くから、どれだけ嫌われてるんだその東堂くんって人は、と思っていた。電話がかかってくる度に巻島くんは私に「東堂の奴、どうにか出来ねーかなあ。面倒臭くてたまんないっショ」と相談され、「私に言われても私その東堂くんって人、よくわかんないからなー……」と言葉を濁していた。

二年の秋のある日、巻島くんが部室で自転車用品の片付けをしていると、電話がぴろぴろと鳴った。画面を確認していないのに巻島くんはハァ、とため息をつく。私がロッカーの中に置いてある巻島くんの携帯をちらりと見ると、「東堂尽八」と表示されていた。

「……巻島くん、電話鳴ってるよ」
「誰からっショ?」

携帯の方を振り返らずに巻島くんは言う。誰だか分かってるくせに、という言葉を飲み込んで、ええと、と私は言った。

「東堂くん」
「ちょっと今片付けしてるから手ェ離せねえなあ」
「いくらウザいからって着信拒否は良くないよ」
「また後で掛け直すっショ。……あ、それともみょうじが出るか?」
「なんでそうなるの」

はは、と笑う。でも割と本気で巻島くんは言っていたらしく、だってよ、と巻島くんは言う。

「俺にかけてきて、いきなり知らない女子が電話に出たらちょっとは東堂もビビるっショ」
「いや、まぁビビるとは思うけど」
「また掛け直すの面倒だし、とりあえず出てくれよ」

掛け直すのが面倒って方がメインの理由だろう。えー、と私は渋っていたが、電話はまだ鳴り止まない。東堂くん、全然知らない人だけど、かなりしつこい人なんだろうな。たぶん。
ほら早く早く、と巻島くんが何回も急かすので、私は仕方なく巻島くんの携帯を手に取る。私の携帯と操作方法は大して変わらないようで、どのボタンを押したら通話中になるのかはすぐに分かった。

「仕方ないなぁ。……東堂くんになんか言われたら、巻島くんの所為だから」
「アー、俺の所為でもなんでも良いからとりあえず電話出てくれ」
「……完全に面白がってるよね」

はぁ、とため息をつく。さっさと電話に出て、東堂くんにさっさと切ってもらおう。そう思い、そろそろと通話ボタンを押した。携帯を耳に押し当てると、妙にはつらつとした声が聞こえてきた。私は驚いて、数センチ携帯を耳から離す。

『やぁ巻ちゃん!今日は出るのが遅かったな。いや、いつもの事か!』
「あ、あぁ、ご、ごめんなさい……ッショ?」

向こうはまだ気付いてないとはいえ、私と東堂くんは初めて会話をする。東堂くんの勢いに圧倒されながら、つい謝る。そして何を言えば良いか分からず、とりあえず巻島くんの口調を真似する。私の後ろで巻島くんが吹き出すのが聞こえた。……こんな事態になったのは巻島くんの所為なのに。
普段聞こえてくる声とかなり違ったからか、東堂くんはむ?と声を上げる。

『その声、巻ちゃんではないな?俺は確かに巻ちゃんにかけた筈だが……アレか、巻ちゃんの彼女か何かか!?』

そんな、俺の知らないうちに!どうして何も言ってくれないんだ巻ちゃん!と東堂くんは電話口で叫ぶ。そんな東堂くんの声に私が驚く。声大きいし。彼女じゃないし。

「か、彼女!?……いやいや、違う、違う。私は総北の自転車競技部のマネージャーでして……えっと、巻島くんは今手が離せないので代わりに出ろって言われて」
『はは、巻ちゃんらしいな!まぁ良い、巻ちゃんにはまた後でかけ直そう』

東堂くんは特に私が出た事に怒った風でも動転した風でもなく、屈託無く笑った。ごめん巻島くん、東堂くんはまたかけ直してくるらしいよ。私が出た意味無かったよ。

『ところで君の名前は何と言う?』
「え、私?」

もう会話は終わって電話を切るかと思えば、東堂くんは私に名前を聞いてきた。私?と聞くと、それ以外にいないだろう!と言われる。私と会話を弾ませる気なのだろうか。聞かれた以上答えない訳にはいかなくて、私は名乗る。

「えっと、みょうじなまえって言います。……よろしくお願いします?」
『よし、なまえちゃんだな!もう巻ちゃんから聞いていると思うが俺も自己紹介しよう。俺は山も上れてトークも切れる!その上美形の東堂尽八だ!』

よろしくお願いするぞ!と東堂くんは、電話越しだから実際のところは分からないが、キメ顔で言っていると思う。は、はぁ、と返事すると、『覚えにくいならハコガク一の美形とだけ覚えていれば充分だ』と言われた。そういう問題じゃないと思う。
暫く東堂くんの自分語りを聞いた後、

『それじゃあまたな!巻ちゃんによろしく言っといてくれ!』
「あ、うん、じゃあまた」

と電話を切られた。
またって言っても、もう私は巻島くんの携帯を代わりにとることはないと思うのだが。少々複雑な顔をしながら、私は片付けを未だに続けている巻島の目の前に座る。

「巻島くん」
「何っショ」
「東堂くん、キャラ濃すぎて私じゃ対応出来ない」
「まぁそうだろうな」

巻島くんが笑ったので、確信犯だ……!と私は戦慄する。でも何も言い返す気になれなくて、あー、と息を吐いた。話すのにこんなに体力を使ったのは初めてだ。その旨を伝えると、さらに巻島くんはクハ、と笑った。

その日の夜、巻島くんから着信があり、珍しいなと思いつつも電話に出ると、『東堂がお前のアドレス聞きたいっつってんだけど、教えても良いか?』と聞かれた。
アドレスを教えたら今日の電話みたいなテンションの文面が送られてくるんだろうか。それは……何というか、面倒だ。
そう思った筈なのに、私はいつの間にか、自分の知らないうちに「良いよ」と答えていた。

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