部員を乗せた車が止まり、そこから外に出ると、じりじりと容赦ない日光が肌を焼く。幹ちゃん達と一緒に荷物を運び出していると、いつもより大量の汗がだらだらと流れた。首にかけていたタオルで顔の汗をごしごしと拭くと日焼け止めも落ちてしまうので、それが少し煩わしかった。

「暑いですね」
「そだね。箱根に来たのは初めてだけど、こんなに暑いと思わなかったよ」
「えっ、箱根初めてなんですか?」

大変な荷物運びの気を紛らわせるために、私と幹ちゃんはお喋りしながらせっせと物を運ぶ。私が箱根に来たのは初めてだと告げると、幹ちゃんは驚いたような声を出した。どうしてそんなに大きなリアクションをするのだろうと頭にクエスチョンマークを浮かべていると、幹ちゃんは「だって、」と大きな瞳でこちらを見つめながら言う。

「彼氏さん、箱学の生徒ですよね?確か、クライマーの」

幹ちゃんの言葉はあまりに淀みなかったので、私は思わず噴き出してしまった。お茶を飲んでる最中だったら盛大に吐き出してしまっていただろう。けほけほと自分の唾で咳き込んでいると、幹ちゃんは慌てたように「すみません、何か変なこと言いましたか?」と謝罪をした。私は咳き込みながらも首を数回横に振り、大丈夫であることをアピールした。まぁ、変なことを言われたといえば言われたんだけど。
咳き込んで少し掠れた声のまま、幹ちゃんに声をかける。

「幹ちゃん、それ誰に聞いた?」

幹ちゃんは、手嶋くんとかに頼めば良いのにと思うほどの大きめの荷物をよいしょと持ち上げながらこちらを振り返る。案外彼女は力持ちなのかもしれない。鳴子くんを箒の柄が折れるほどの勢いで殴ったとかなんとか聞いたことがあるくらいだし。

「巻島先輩に聞きました!」

そんな力持ちな幹ちゃんは、これまた純真無垢そうな笑顔でそう答える。その返答に苦笑いしながら、私は残りの荷物を腕に力を込めて持ち上げた。

「今は……というか、二月くらいに別れたんだけどね。その箱学クライマーさんとは」
「え、そうなんですか?でも私、四月に巻島先輩から聞きましたよ?」

荷物を持ちながら、横に並んで歩く私たち。
私の話を聞いて、今度は幹ちゃんがさっきの私のように頭にクエスチョンマークを浮かべた。それに私は微笑みながら、そして心の中で巻島くんにちょっぴり文句を言いながら、私の予想する彼の考えを口にした。

「きっと、どうせ復縁するだろって思ってるからじゃないのかな」

お膳立てしてやっただけだと、以前巻島くんは言っていた。幹ちゃんにこう言ったのだって、お膳立てのうちの一つなのだろう。なのだろう、けど。

(……こんなに細かいところまでお膳立てとか、巻島くんも世話焼きだなぁ)

遠くで固まっているインハイメンバーの中の玉虫色の髪をなんとなしに見つめながら、私は荷物を抱え直した。



どうやら開会式が始まったらしく、遠くでマイク越しの音声が聞こえる。荷物を運び終えた私たちは、給水ポイントのチェックや準備をしながらぼんやりと司会者の声を聞いていた。司会者の妙にはきはきとした声は滑らかに耳を通り過ぎていく。

「あ、箱学のメンバーが壇上に上がってますよ!」

壇上を見ていた幹ちゃんが、私の肩をつんつんと突ついた。それにつられて背を向けていた壇上を振り返ると、前回のインターハイで見た髪の黄色い子、それから見たことのない子四人、そして非常に見覚えのある、カチューシャを付けた東堂くんが見える。こんな時にまでカチューシャを付けたままなのか、思うとと少しだけ頬が緩んだ。
そのまま眺めていると、ずっと壇上から正面を向いていた東堂くんが不意にこちらを向いた。かなり遠くにいるので、こちらを向いたからといって目が合う訳ではない。恐らく私に気付いていないくらいの距離だ。しかし久しぶりに、正面から顔を見た気がする。
私は準備をしながら壇上の遠くにいて、東堂くんは前回王者ということで壇上にいる。去年の順位からして、そして選手とマネージャーという立場からして、そこには確かに違いがあった。
今年のインターハイはどうなるだろうか。私と東堂くんも、これからどうなるだろうか。そんな事を考えつつ、そんな事を考えても仕方ないなとも思う。だらりと垂れてきた汗を手の甲で拭いながら、私はただただ壇上の東堂くんを見つめた。

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