東堂くんとデートをした次の日、私は教室にて巻島くんと向かい合っていた。前の席の巻島くんは椅子に横に座って顔をこちらに向け、私は自分の机に肘をついて巻島くんの方を見る。巻島くんは少しだけニヤリとして、「昨日はどうだったんだ?」と開口一番に聞いてきた。やはり東堂くんからの電話は巻島くんの差し金だったのか。そう理解したけれど、嫌な気持ちはしなかった。巻島くんが私達二人の関係をどれだけ心配していたかは、私自身がとてもよくわかっている。

「どうって、何が?」

それでも何となく素直に答える気にはならず、笑いながら少し意地悪にはぐらかす。そんな私を見て、巻島くんは彼独特の笑い方をしてみせた。そして「そんだけ軽口叩けるようになったんだな」と珍しく優しげに微笑んだ。

「楽しかったか?」

そんな優しげな表情のままの巻島くんの口から出た言葉は、私の予想していたものとは少し違っていた。
てっきり私は、東堂くんとはどうなったのかとか昨日のデートをきっかけに復縁したのかとか、そういうことを聞かれると思っていたのだ。けれどとりあえずは質問に答えようと思い、頭をかくんと下げて頷いてみせた。

「すっごい楽しかったよ。パンケーキ屋さん行ったり、服選んでもらったり。女友達ともあんまそういうことしないから、新鮮だった」
「そうか。それは良かったっショ」
「うん」

また頭をかくんと下げて、私は返事をする。すると巻島くんは満足そうな顔をして、半分だけこちらに向けていた体を動かして前に向き直った。まるで、もうこの話は終わりだとでも言うように。
……もっと気になるもんじゃないんだろうか。繰り返すようだけれど、東堂くんとはどうなったのかとか、復縁したのかとか。
進んで聞かれたい内容でもないけれど、聞かれないなら聞かれないで、こっちがちょっとむずむずする。
筆箱からボールペンを取り出して、少し遠くなった巻島くんの肩をそれでつんつんと突つく。振り返った巻島くんの頬に、ふに、とボールペンを当てると「地味に痛いっショ」と言われたけれど、私はそれに構わなかった。頬からボールペンを引いて、尋ねる。

「なんか、あんま聞いてこないんだね」

少々ぼやかしながら言うと、巻島くんは最初に私に見せてきた表情と同じようにニヤリと笑い、「何の事っショ?」とシラを切ってみせた。さっきの私もシラを切ったから、その仕返しのつもりだろうか。その言葉に苦笑して、私は続ける。

「どうなったとか、東堂くんに聞いたりしたの?」

既に知っていたから私に聞かなかったのだろうか、という思いも生まれていたため、小首を傾げながら聞く。こんな女の子らしい仕草はなかなかしないので自分でも少し気持ち悪いと思ったが、巻島くんにも「似合わねえっショそれ」と言われたのはちょっぴりムカついた。巻島くんは長い玉虫色の髪を指で梳いて、流し目でこちらを見る。

「別に東堂からは何も聞いてないっショ。俺もそこまで野次馬じゃねーし甲斐性もねーよ」
「……じゃあ、なんで聞かないの?」

今まで復縁しろと言わんばかりだったのに、ここにきて急に手放しにする。そんな巻島くんを訝しげに見つめると、彼はクハッと笑った。まるで子どもに難しいことを説明するように、ゆっくりと私に語りかける。

「俺はな、みょうじも東堂も未練たらったらでうっとおしいからちょっとお膳立てしてやっただけだ。お前らが前に進み出したんなら、俺はもう関わるつもりなんてねーよ」

それだけ言って、また巻島くんはくるりと前を向いてしまった。その後何回か、またボールペンで肩を突ついてみたけれど、振り返ってはくれなかった。

「巻島くん」
「何ショ」

振り返らず、淡々と巻島くんは返事する。私も私で、顔が見えていないから恥ずかしがらずに伝えられるな、と楽観的に考える。

「ありがとね」
「何がショ」
「いろいろと」
「……うっとおしいからお膳立てしただけっショ。お前らのためとかじゃねーよ」

巻島くんは、優しい。ただそれを表に出そうとしないだけだ。
先ほども言った言葉を、彼はまた繰り返す。それを聞き、私の口角がきゅ、と上がるのを感じた。

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