店員さんに購入するブラウスを手渡して、レジへと案内される。チェックした値札は私の所持金で払える範囲内で、さすが女子高生御用達のお店だと思った。高校生は一ヶ月のお小遣いが限られている。皆がどれくらいの額をもらっているのかは知らないけれど、たぶん私と同じくらいだと思う。だから多くの女子高生は、ここのようなお手頃価格のお店で服を買う事が多い。こんな良心的なお店が増えれば良いのにと思うけれど、お手頃価格のお店が増えれば増えるほど、優柔不断な私はどこのお店で買えばいいのか迷ってしまいそうだ。だったら今のように、稀にあるくらいのレベルでいいのかもしれない。
レジへ向かう道すがら、東堂くんは私に耳打ちをしてきた。突然の事で少し驚いたのと顔を寄せられた事により、ほんのちょっとどきりとする。

「なまえちゃん、購入するのはそれだけで良いのか?」

東堂くんの口から出てきたのは予想外の言葉で、私は思わず聞き返す。すると今度は少し言い方を変えて、「今回購入するのはそのブラウスだけなのか?」と幾分か分かりやすく質問してきた。

「俺が選んでおいて言うのもあれなんだが、ベージュよりブルーは合わせにくいのでな……一着くらいブルーに合うスカートやらを買った方が無難かと思ってな」
「あぁ、そういうことか。まぁ合わせにくいかもだけど大丈夫だと思うよ?」
「そうか?……だが……」

ベージュかブルーかの最終的な決定権を東堂くんに委ねて責任を感じている所為か、東堂くんはうんうん考えている。そんなこと気にしなくて良いのにと思うが、東堂くんは案外律儀である。
ブルーのブラウスは最初に店員さんが言っていた通り、ベージュのものと比べると少々他の服に合わせづらかったりする。でもそれは「少々」というくらいだから、合った服を探すのに四苦八苦するほどではない。現に私は既に持っている黒のショートパンツと合わせて着ればいいやと考えていたので、特に合う服を買わなければと奮闘している訳ではなかった。あと今日はスカートやらをもう一着買うだけのお金がお財布の中に無いというのも、ブラウス以外のものを買うのに乗り気でない理由である。
大丈夫だよと言っても難色を示す東堂くんには、お金が無いと言ってしまうのが早い。そう思って私は東堂くんに向かって、眉を垂らして遠慮がちに笑う。

「そういうの心配してくれるのは嬉しいけど、あいにく今日はもう持ち合わせが無いんだよねぇ」

店員さんが「学生さんはお財布事情厳しいですもんね」と同調してくれたのでうんうんと頷いてみせた。東堂くんは少しの間何か考えているようだったけれど、うむ、と呟くと進行方向を向いていた顔をこちらに向けた。

「じゃあ俺が買ってやろう」
「……え、東堂くんスカート買うの」
「一応言うが俺が着るのではないからな、なまえちゃん」

いきなり何を言い出すかと思えば、東堂くんがスカートを買うと言い出した。東堂くんにそんな隠れざる秘密の趣味があったなんてと一瞬目を点にしたが、どうやらそうではないらしい。じゃあどういう意味だと聞くと「俺がなまえちゃんに何か買ってやろう」と言い出したので、慌てて丁重にお断りした。

「いやいやいや、いいよそんなの!そんな気を遣わせたくてお金が無いって言ったんじゃなくて……」
「なまえちゃんこそ気を遣わんでも良いぞ。俺がしたいだけなのだから」
「いや、それでも……」

わたわたと反対すると、東堂くんも少しむきになっているのか対抗してくる。いやいいよ、いや気にするなの応酬の続くこと続くこと。人に自分の洋服代を払ってもらうなんてよろしくないことだ。学生同士でお金が豊富にある訳でもなく、それに一応、恋人でもなんでもない。そう思って反対しているのだけど、東堂くんも折れてくれない。
私達がそんな攻防戦を繰り広げていると、隣にいる店員さんがふふ、と笑う。

「とてもかっこいい上に、優しい彼氏さんですね」

その言葉を聞いてさっと頬に赤みがさすと同時に、なんともいえない冷たい心が生まれるのを、ちょっとだけ感じた。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -