私が待ち合わせ場所に着くと、もう既に東堂くんの姿があった。
駆け寄って、遅くなってごめんと謝る。けれどそれほど実際の待ち合わせ時間に遅れている訳ではなかったので、東堂くんは「謝る事はないぞ!」と笑ってくれた。
東堂くんの顔を見るのは久しぶりだ。面と向かって話した事があるのは、告白された時とフった時、それと今現在だけ。それって何だが、変な感じ。そう思いながら、東堂くんの隣に並んで歩き出す。

「久しぶりだな」
「そうだね。一ヶ月ちょい会ってなかったからね」
「本当だな。まぁ元々頻繁に会う間柄ではなかったが」
「付き合ってから別れるまで一回も会わなかったね」

なんか変なの、そんな付き合い方。
私がそう言いながら笑ってみせると、東堂くんも曖昧に笑った。
私は普通のカップルがする事や会う頻度とか、そういうことはあまり分からない。けれど私と東堂くんのお付き合いは、なかなかに普通ではなかったんだろうなぁ、と薄々気付いていた。恐らくだけど、東堂くんもそれに気付いていると思う。私より異性交遊について無知ではないだろうから。ファンクラブもあるし。
そんな事を考えていると、東堂くんは曖昧な笑みを浮かべたまま、そうだ、と声を出す。

「会わなかった間の積もる話もあるだろう。どこかでお茶でもしながら話さないか?」

綺麗な顔でそんな事を言われると、まるでナンパされているみたいだ。もちろん断る理由なんてなくて、私はこくりと頷く。
どのお店が良いかと聞かれ、私は丁度近くにあったパンケーキが美味しいと噂のカフェの名前を出した。言った直後、そういえば東堂くんは自転車乗りなのだからカロリーを気にするかもしれない、と不安になったが、東堂くんは迷うことなく「ではそこにしよう」と言った。

私は東堂くんを率いて、カフェまで歩く。友達と何回か行ったことがあったし分かり易い立地なため、それはすぐに見つけることが出来た。
カランカランと音をたてながらドアを開けると、見慣れた店員がいらっしゃいませ、と会釈する。そして私と東堂くんを見るや否や、何を勘違いしたのかいつも以上ににっこりとスマイルを浮かべて奥の席に案内した。恐らくカップルだと勘違いされたのだと思う。

「雰囲気の良い店だな」

メニューを開きながら、東堂くんは顔を綻ばせた。

「うん。お気に入りなんだ」
「なまえちゃんは良いセンスをしているな。従業員の対応もとても良い」

店員さんの対応が凄く良かったのは、たぶん顔馴染みの私が彼氏を連れてきたんだと思い込んでるからだよ。
そんな言葉はぐぐぐと飲み込んで、当たり障りのないように「そうだよね」と言いながらメニューに視線を落とした。
メニューには可愛らしいパンケーキが写真付きで説明されている。バナナクリーム、オレンジピール、生クリームチョコがけ、アイスクリームのせ……。どれも一度は食べた事がある。どれもこれも本当に美味しいので、選ぶのには時間がかかるのだった。メニューの上で視線をうろうろと彷徨わせていると、くすり、と綺麗に東堂くんが笑う。

「えらく迷っているな」

どうやら、私がメニューを迷っている様子を見て、それに対して笑ったようだった。
笑わなくてもいいじゃない、とでもいう風に私が顔を膨らませると、東堂くんはまた綺麗に笑った。
なんかこれ、カップルっぽい。

「そういう東堂くんは決めたの?」

私が頬を膨らませながら聞くと、東堂くんはすんなりと頷く。そして、これにする、とメニューを指差して私に見せる。東堂くんが指差したものは、パンケーキに抹茶アイスクリームがのせられたものだった。なんとなくだが、抹茶って東堂くんに合ってる気がする。
アイスクリーム被りは避けようと思い、私はもう一度メニューをじっくりと見る。それから三分ほどまた悩んで、結局メニューの一番上にあるバナナクリームトッピングのパンケーキにチョコソースをかけてもらうことにした。注文した後、東堂くんが「オーダーしたらどのメニューにもチョコソースをかけてもらえるのか……!」と少し驚いていた。

それからまた数分後、私達の目の前にはふんわりとしたパンケーキがあった。
ほんのり甘い匂い、ふわふわの生地、トッピングとよくマッチしているパンケーキ。
いつも通り美味しいなと思いながら食べていると、東堂くんが「やけに美味そうに食べるな」とまた笑った。

「でも、美味しいでしょ?」
「ああ、というかパンケーキ自体あまり食べないから珍しい感覚だな」
「箱学近くにはこういうお店ないの?」
「あるかもしれんが見たことはないな」

お互いもぐもぐと食べながら、話に花を咲かせる。別れているとはいえ会話に気まずい雰囲気は無く、以前のように話すことが出来た。一昨日の電話でも思ったが、やはり東堂くんのトーク力はすごい。
ふんふんとトーク力に感心していると、ふと東堂くんが動きを止めて私の方を凝視した。

「……どした?」

パンケーキを食べながら、それでもおずおずと私は聞く。
すると東堂くんは突然、テーブル越しにこちらに身を乗り出してきた。え、と小声で呟くか呟かないかのうちに、東堂くんの親指が私の口元の端を拭うのを感じた。そして東堂くんは親指についたクリームを、ぺろりと舐め取る。
突然のことに反応出来ず、ぱちぱちと瞬きをする。そんな私を見て、東堂くんは我に返ったかのように焦り始めた。

「あ、いや、なまえちゃんの口元にクリームが付いてたから、つい、な」
「あ、あぁ、うん、ありがと」

東堂くんが焦るから、私も意味無く焦る。
なんだかお互い恥ずかしくなって、でもそれを隠すかのように、数秒後にはお互い饒舌になった。
ぺらぺらと何でもないことを話しながら、恋愛やお付き合いの知識が疎い筈の私は思う。

「友達」の間柄なら、口元のクリームを舐め取ったりすることはないはずだ、と。

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