御堂筋くんは、部活中は結構な威圧感を出しながら部員をまとめたり練習をしたりしている。けれど部活以外の時間には威圧感を出したりキモいと言ったりする事はなく、普通に学校生活を送っているようだった。ごくごく普通に、何か変わったところもなく、なんでもないように過ごしている。
だが、一つだけ、他の皆とは少し違うところがあった。

御堂筋くんには、友達がいなかった。

恐らく本人は気にもしていないだろうし、もしかしたら私の知らないところで友達をいっぱい作っているのかもしれないが、少なくとも、クラスには仲の良い子はいないようだった。虐められているとかそういうのではない。話しかけられたら普通に返事はするし、はぶられている訳でもない。でもやはり、仲良しの友達はいないんだろうなぁと私は常々御堂筋くんを見ながら思っていた。
そしてそんな考えが頭に浮かんでいる時にいつも付随して思い出す事は、幼い頃の「翔くん」としての御堂筋くんの事だった。
あの頃は私は背が低かったので気付かなかったのだが、「翔くん」は男の子にしては小柄だった。そして線の細い子だった。お世辞にもあのひ弱な体では何かを成し得る事が出来るとは思えなかった。それだけでも、今となっては色々と思うところがある。そして決定打(と言うには物足りないが)となったのは、あの時の「翔くん」が自転車やお母さんや家の話はしても、学校の話は一ミリたりともしなかったという事だった。
それらを考えて、私は御堂筋くんの姿を見る度に思う事があった。

(「翔くん」、あの頃も……友達、いなかったのかな)



いつも通り、マネージャーの仕事を淡々とこなす。マネージャーになってから数週間が経っており、もう仕事に関して分からない事や躓く事はなくなった。そして御堂筋くんに対しても怖がる事なく接する事が出来るようになってきた。洗いたてのタオルを部室棟の近くで干していると、ふと部活に必要な器材を新しく買わなければいけなかった事を思い出した。別に今日明日に買わなければいけない訳ではないけれど、思い出した時に買っておく方が良いだろう。それに、ドリンクの粉も今週中に無くなりそうだからそれも一緒に買っておきたい。
ポケットに入れていた黒ペンを取り出して、私は「器材 ドリンクの粉」と左の手の甲にメモをした。



「あれ、みょうじさんそれ買い物メモ?」

部活も終わり、帰り支度をする時間帯。荷物をまとめていたら、ノブ先輩は左手を指差しながらそう言った。
ノブ先輩とは、部活の中では比較的話す方だ。以前、ノブ先輩呼びしているのを御堂筋くんに聞かれ「名字か番号で呼びや」と言われたが「マネージャーは別に軍隊ちゃうもん」と反論した事がある。その時に私のクビは飛んでいかなかったから、きっと大目に見てもらえたのだろう。理由は分からないけれど。

「あー、そうですよ。帰りに買っとこうと思って」
「そうなんや。てか器材どれ買うとか分かるん?」
「……多分?」

ノブ先輩の言葉に、私はうっと言葉を詰まらせた。マネージャー業は割ともうマスターしたが、どの器材が良いとかロードバイクのカスタムとか、そういう事はほとんど知らない。教えてほしい気持ちは山々だが、部活中に聞くわけにもいかないし部活後や昼休みに聞くのは申し訳ない。そう思っているから、私のその辺の知識はすっからかんだった。
どうしようかなぁ、とノブ先輩とうんうん考えていると、急に背後からにゅっと手が伸びてきて、私の左手を掴んだ。ぎょっとして振り返る。ノブ先輩もぎょっとして伸びてきた手を見る。
細長い指を見た時からなんとなく気付いていたが、その手は御堂筋くんの手だった。

「驚かさんといてよ」

なんだー、と私は笑ってみせたが、御堂筋くんは私の左手をじっと見つめていた。なかなか動かない、そして喋らない御堂筋くんを見て、そしてノブ先輩と首を傾げる。その数秒後、御堂筋くんはやっと手を離し、そしてやっと口を開いた。

「間違えたもん買われたら部費の無駄やから」
「うん、そりゃそうやろね」
「買い出しついてったるわ」
「……まじか」

突然の提案に、私とノブ先輩は開いた口が塞がらなかった。独裁国家みたいな御堂筋くんから、ちょっとだけだけど優しい感じのする言葉が出るなんて。そんな顔をしていたら、御堂筋くんはキミらめっちゃ失礼やな、と半端なく不本意そうな顔をした。

荷物を片付けて部室から出る。先ほど顧問の先生から受け取った部費をぎゅっと握り締めた。

「今日買うもんしっかり覚えときや。ボクも暇ちゃうんやから、次からの買い出しはみょうじさん一人で行ってもらうで」
「うん、わかった」

そう言いながら、私と御堂筋くんは校門を出る。すると御堂筋くんは今まで手で押していた自転車に跨り、ペダルに足をかけた。私はそれを見て、ちょっと待って!と声をかける。

「……何なん?」

御堂筋くんは目を細めて私を睨む。それは結構威圧感があったが、私は「いやなんでもないです」と濁すわけにはいかなかった。

「え、御堂筋くん、自転車で行くの?」
「当たり前やん。何でもたもた歩いて行かなあかんの」
「わ、私歩きなんだけど……」
「走ったらええやん」
「いや荷物あるよ?結構重いよ?しかもリュックだから走ると肩にすっごい負担かかるよ?」

割と必死の形相で御堂筋くんに語りかけると、同情してくれているのか蔑んでいるのか分からない顔をしながら御堂筋くんは自転車から降りた。面倒な子やなぁ、と呟かれた気がするが気にしない。
御堂筋くんと私の、長さの違う影が道に映し出された。
帰り道に人と並んで歩くって、少し久しぶりかもしれない。
そう思って、「なんだか、御堂筋くんと私友達みたいだよね」と笑顔で言うと、今度は本気で蔑んだ顔をされた挙句自転車に乗って去っていかれそうになったので、私は必死に彼の鞄にしがみついた。

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