メディアに囲まれるのは、もう慣れた。
向こうもボクの無愛想かつ突飛な反応には慣れたようで、インタビューの言葉に少々適当に返したとて苦い顔をされることは無い。
さっさと答えてさっさと切り上げて、またトレーニングでもしよか。そう思っていると、まだインタビューに慣れていないらしい少し幼げな顔をした記者が手を上げた。

「御堂筋選手、まずはレース優勝おめでとうございます!実力は勿論ですが、みょうじコーチのマネジメントもかなり力になったのではないでしょうか。……つかぬ事をお伺いしますが、みょうじコーチとのご関係はどのような……」

あまりにもぽかんとした顔をボクがしていたのか、記者はそこでごにょごにょ、と言葉を濁した。
二、三秒間を開けて、聞かれたことを理解する。そしてボクは高校生の頃のように、とんでもなく周りを気にしないトーンで「……ハァ?」と声を漏らした。






「っははは……!そんな!そんな勘違いあるん!?」

ソファに転がりながら普段より大きな声で、彼女は笑った。笑い事やないんやで、と思うけれどひぃひぃ息を切らしながら笑う彼女は久々に見たような気がして、特にリアクションもせずに眺めていた。
ひとしきり笑ったあと、目尻に溜まった涙を拭う彼女こそが、新人記者に関係を勘ぐられた「みょうじコーチ」ならぬ「みょうじさん」だった。

「ひー……そもそも私、コーチじゃない」
「まぁそこからや、ザクはほんま何にも分かってへんなァ」
「そしてご関係も高校時代から変わってない」
「ほんまに」

みょうじさんは高校時代からの、何といえば良いか今となってはよく分からないが、マネジメントもしてくれるボクの雑用係のようなものだ(以前インタビューで名前が出た際は散々迷った挙句、マネージャーと答えた。今は特定のチームに所属しているわけではないから、この答え方は合っていたか分からん。まぁどうでもええ)。
ボクが高校時代に自転車競技部に入部した直後に同じく入部し、雑用やらなんやらを全て任せていた。もっと詳しく言えば小学生時代からの奇妙な縁があるのだが、それは今ここで詳しく思い出さなくても良い。

「なんでそんな勘違い、したんだろうね」

笑いの波がおさまりしばらくした頃、掠れた声でみょうじさんは言う。
彼女は今も変わらず、男女がどうとか恋愛がどうとか、そういったものに興味はなさそうだった。

「ええ歳の男女が近くにおったら、周りはそう勘ぐるんちゃうのん」
「そういうもん?……そういうもんか、なんか高校の時も結構聞かれてたの思い出した」
「なんやそれ、ボクそれ初耳なんやけど」

ボクがそう言うと、彼女は「あっ」と言ってはいけないことをぽろりと漏らしてしまったように慌てる。慌てたところで言ってしまった言葉を無かったことに出来るわけがないのに、そういう建設的ではない仕草も変わっていない。
でも、そんなに嫌いではない。

「水田クンあたりやろ、どうせ」
「んー、どうかな……?」
「いやここで誤魔化してももうしゃあないからな」

ソファに寝転ぶみょうじさんを軽く蹴ると、「こういうスキンシップがカップルだと思われるのでは?」と正論のようなことを言った。言ったけれどとりあえず無視した。
ソファから離れて、ダイニングテーブルと合わせて買った椅子に座る。少し前にコップに汲んだ水を飲んで、「まぁ、」と声を出した。

「ルームシェアしとるから尚更そんな話題が出るんやろけどな」

言うと、同意しつつもみょうじさんはにやりとしながら言葉を返した。

「そうだけど。でも、軽くしばいたり蹴ったりする時以外私に触らないのによくカップル感が出るもんだなって思わない?」
「出てたまるか」
「えー、じゃあスキンシップの第一歩として肩でも組んでみる?」

キモ、と何のフィルターも通さずみょうじさんに言うと、彼女はまた声を上げて笑うのだった。

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