入学式をつつがなく終え、教室に戻って自己紹介をする。皆名前や趣味や出身中学の事を話し、よろしくお願いします、という挨拶を付け加える。私はこの高校生活を出来るだけ良い雰囲気で過ごしたいと思っていたので、新しいクラスメイトの顔と名前を一致させようと奮起し、自己紹介の度にそれをしている人をじっと見つめていた。
入学式前に翔くんだと確信した人物が、自己紹介のために立ち上がる。座っている時も思っていたが、やはりひょろっとしていて、背がかなり高かった。この体つきからは、なかなか昔を思い出せそうにない。
その、ひょろっとした彼が名乗る。

「御堂筋、翔」

確信していた通り、下の名前は翔だった。
当たり前だが声は昔より低くなっており、昔私に向けてくれた優しさや人当たりの良さといったものは、自己紹介からは感じ取れなかった。
人間皆、ずっと昔のままでいられる訳ではない。けれど、彼の変わりようといったら、そんな言葉で終わらせられないくらいだった。たった一日しか会わなかったのだから、翔くんの昔の性格や本質なんて、私に見抜けていたとは思えない。でも、それでも、確実に、彼はあの時の「翔くん」とは違うのだと、思い知らされたようだった。

(……みどうすじ、くん)

心の中で名前を呼ぶ。
翔くんじゃない、御堂筋くん、だ。
これは私の勝手な予想だ。
予想だけれど、確信だ。
きっと、私と会った後、どれくらい後かは分からないが、「翔くん」の幸せの黄色が、消えてしまったんだと思う。「翔くん」の幸せ。それは、話を聞く限り、毎日お見舞いに行っていただろう病院にあった筈だ。病院にいる、お母さんの心臓の中に、あった筈だ。
きっと「翔くん」のお母さんは、私の両親と同じように……。私の脳みそが辿り着いた答えは、残酷なものだった。入学早々どんよりした気持ちになってしまう。これ以上この話は、考えないようにしよう。「翔くん」との思い出は幸せなものだが、それに付随する物が、私を過去の悲しみに引きずりこむ。
ふと気付くと、自己紹介の番が丁度回ってきたところだった。慌てて立ち上がり、ええと、と声を出す。名前と、趣味と、出身中学……くらい言えば良かった筈。
みょうじなまえです、と口に出そうとして、はた、と止まった。

「翔くん」との思い出に付随する物は、私を悲しみに引きずりこむ。
なら、私との思い出に付随する物は、御堂筋くんを悲しみに引きずりこむ、かもしれない。
確証はない。
でも、御堂筋くんには、この過去を思い出してほしくない、と思った。
私は何故か覚えていたが、御堂筋くんはきっと、一日会っただけの私の事を覚えていないだろう。それならずっと思い出さず、私が悲しみの誘発剤になることなく高校生活を送る方が、ずっと良い。
自分の中で結論付けて、私は自己紹介を始めた。

「みょうじです、趣味は……」

幼い頃に彼に教えた、なまえという名前は口に出さなかった。

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