翔くんが私を励ましてくれた次の日、両親の容態は一時安定した。だが、それは本当に一時的に安定しただけで、二日後には二人とも亡くなった。両親が亡くなった事の悲しみと、大丈夫だと言ってくれたのに励ましに答えられなかった事による翔くんに感じた申し訳なさとで、私は泣いた。大泣きした。三日三晩泣いた。もちろん、四日後も五日後も、鼻をずびずび言わせながら目をごしごしと擦っていた。
私は家からそう遠くない父方の叔母さんの家で預かってもらうことになった。昼ドラとかでよくある、親戚中たらい回しにされるとか邪険な扱いをされるとかそういうのを想像してびくびくしていたが、叔母さんはとても優しい人で、叔母さんの夫、つまり私にとって血縁関係はない叔父さんも、私を本当の子どものように扱ってくれた。

あれから何度か病院には行ったが、時間帯が悪かったのかもうお見舞いには来なくなったのか、翔くんと会う事は無かった。



冬の寒さが少しずつ消え、桜が自己主張を始める頃、私は高校に入学した。京都伏見という私立。義理の子どもだというのに高いお金を払って私立高校に入学させてもらった私は、たぶん叔母さんと叔父さんに一生頭が上がらない。二人とも、私が頭を下げる事なんて望んでいないだろうけど。

クラス分けの表を見て、教室を探す。一年生の教室は割と見つけやすいところにあるらしく、すぐに見つかった。教室に入り座席を確認して、席に座る。入学式が始まるまではここで待機していなければならないらしい。私の席の周りの子はまだ誰も来ておらず、ちらほらと席に座っている子は自分の席から何列か離れたところにばかりいる。
私は淡々としている性格だが結構話す方で、少なくとも教室の隅っこで縮こまっているようなタイプではない。だけれどこの調子じゃあ、入学式が始まるまでに友達を作るのは難しそうだなぁ、とため息をつき、いや、高校生活は長いし、そう慌てる必要も無いな、と思い直した。
慌てる必要も無いならぼんやりしておこう、と思いつつ、教室を見渡す。今座っている席は窓際の一番後ろというベストポジションで、教室を見渡すには充分だった。目線を泳がせ、一人一人観察する。その中で一人、異様に私の目を引く人物がいた。
三列分隣の、私と同じ一番後ろ。
座っているから正確には分からないが、身長は180センチ以上ありそうな、ひょろっとした男の子だった。目が大きく、手足が長い。ぼんやりと意味も無く黒板を見つめている。同じ中学校でも、同じ小学校でもなかった人だ。
それなのに私は、彼に既視感を覚えた。
喉の奥に引っかかって取れない小骨のように、記憶のどこかに引っかかって、出てこない。そんな人のように感じた。けれど、私はそんなに記憶力が良い訳ではない。テレビか何かで見た人と、記憶がごちゃまぜになっているのかもしれない。顔にはほんの少し見覚えがあるものの、体つきや高い身長には全く覚えがないのだ。
きっと芸能人と誰かと勘違いでもしたんだろう。そう思い、私は彼から視線を外そうとした。その時、タイミングが良いのか悪いのか、ゆら、と彼がこちらを向く。私は咄嗟に顔を背けることが出来ず、一瞬だが、目が合った。

「……ぁ」

声にならない声が出る。
彼がこちらを向いたのは気まぐれだったのだろう、目が合うと、すぐに彼は視線を元の位置に戻した。
けれど私はその一瞬で、一瞬目が合っただけで、記憶の中から、彼が誰であるのかを導き出してしまった。

遠い日の思い出。
これからの人生で、決して忘れることのできないあの日。

彼は、翔くんだ。

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