四時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
号令に合わせて立ち上がり、礼をして着席。ぐぐ、と腕を伸ばすと、心なしかすっきりする。
これから昼休みだ。
いつも私は、昼休みは友達数人と集まってお弁当をつついている。休み時間は次の授業の準備だったり移動教室だったりするし放課後はそれぞれ部活動があるので、昼休みは友達とお喋りをする貴重な時間だと言っても過言ではない。
いつものように、カバンの中からお弁当箱と水筒を取り出して席を立つ。さて友達の席の近くへ行こう、と足を踏み出そうとした時、すっと私の机に影が落ちる。
なんだ、とふと振り返ってみると、私の机のすぐ横に御堂筋くんが立っていた。少し驚いて目を見開くと、御堂筋くんはいつも私を見る時と同じように面倒臭そうな顔をしていた。細長い指で、机をコンコンと叩く。

「御堂筋くん」

名前を呼ぶと、ぎょろりとした目が私を見る。いつまで経っても、この表情の薄気味悪さは完全には拭えない。嫌悪感はないものの、やはり数年単位で付き合っていないと慣れるものではないと思う。
次第に固まり始めたお弁当のグループが、こちらを気にしているのが分かる。私も私で早くご飯を食べたいので、御堂筋くんが私に何かしらの用事があるなら早く済ませたい。そう思いながら、どしたん?と聞くと、御堂筋くんはおもむろに「お前それどこに隠してたんや」と思わず言ってしまいそうになるくらいの量の紙束を私に差し出してきた。またもや驚いて目を見開くと、「作戦をまとめたやつやから今日の部活までに目ェ通して頭で理解しといてや」と抑揚のない声で言われた。

「……これ全部?」
「当たり前やん」
「多すぎやない?」
「文句言う間に頭叩き込みや」

何でもないことのように御堂筋くんは言うけれど、わりと量はたっぷりある。具体的に言うなら、ノート2冊分くらいだ。それにパラパラと紙を捲っていくと分かるのだが、どれも結構な文字数と図がある。これを部活までに、というのは些か無理な話だと思う。少なくとも、昼休みを潰さない限り。ため息をつきたい気分になったが、ここでため息をついたら御堂筋くんに睨まれてしまうだろう。ぎょろりとした目の御堂筋くんも怖いけれど、目を細めてこちらを見る御堂筋くんもそれはそれで怖い。
ううん、と私は首を捻る。
何にせよ、私は作戦が書かれたこの紙を部活が始まるまでに確認しとかなければいけないという事実は動きそうにない。
仕方ないな、と自分の中で折り合いをつけて、私はいつものグループの方へ歩いていく。「ごめん、今日一緒に食べられんわ」と伝えると、御堂筋くんが私に声をかけてきた時点で薄々勘付いていたのか友達は「部活関連ならしゃーないわ」とあっさり許してくれた。
席に戻って紙束とお弁当、水筒を引っ付かむと、既に自分の席に戻っていた御堂筋くんの前の席に座る。昼休みにはこの席は誰にも使われていないことは、少し前から知っていた。
私が席に座ると、御堂筋くんは訝しげに私を見た。

「なんでここ来るん」

呆れたような声でそう言いながら、御堂筋くんは持参したお弁当の蓋をかぱりと開ける。想像していたより可愛らしい、色のバランスも良さそうなお弁当が目に入り、少し頬が緩むのを感じた。そして頬を緩ませたまま、私は話す。

「お弁当、結構可愛いなぁ」
「今日のは妹が作ったやつ持たされただけやから。で、なんでここ来るん言うたやろ。質問に答えぇ」
「そうぴりぴりせんでも……」

どうやらお弁当はユキちゃんが作ったものらしい。料理も出来るなんてやっぱりしっかりしているんだな、と心の中でうんうんと頷く。
そして御堂筋くんが少しぴりぴりし始めたので、私は御堂筋くんにされた質問に答えることにした。

「いつもの場所やと食べながらこれ見れるほどのスペースないし。自分の席で一人で食べるのも嫌やし、御堂筋くんの近くやったら分からんかった時すぐ質問出来るやん」
「だからて一緒に食べとったらボクとみょうじさん仲良い思われるやろ」
「嫌なん?」
「嫌というかめんどいわ」

ぱくりとご飯を食べながら、御堂筋くんは言う。
でも、「嫌だ」とはっきり言われなかった事を良い事に、私も御堂筋くんの机の方を向いて空いたスペースでお弁当を開いた。そして膝に紙束を置き、一枚ずつ目を通す。
「めんどい」と言われたのにも関わらず目の前で普通にご飯を食べている私を見て、御堂筋くんはもうそれについて何か言う気は失せたようだった。
けれど一言だけ、「紙の上に食べもん落としたらしばくで」と淡々とした声で言ったのは、やっぱりちょっとだけ怖かった。

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