ざあざあ降る雨の中、ちょっと心もとない折り畳み傘を差しながら帰る。学校から出て15分、未だに御堂筋くんは私の数メートル前を歩いていた。
少なくともこの辺までは帰り道一緒だったんだ、気付かなかった。まぁ私は徒歩通学で御堂筋くんは自転車通学だから帰るスピードも違うし、私は部活が終わってもすぐに帰らず片付けしたり日誌を書いたりしているから帰る時刻もちょっと違う。それに今まで御堂筋くんの家とか気にしてなかったから、全く気付かなかったんだろうな。
先ほど私の貸した傘を差して歩く御堂筋くんを見つつ、そう私は思った。今日の私の傘はいつも使っている小花柄の傘ではなく、それより大きめの濃い青色の傘だ。今朝は少し寝坊して出がけに急いでいたので、間違えて普段使っていない物を持ってきてしまった。でもそれもある意味では成功だった気がする。たぶんいつもの小花柄では、御堂筋くんは絶対に受け取らなかっただろうから。

「……みょうじさん」

面倒臭そうな声が、御堂筋くんから聞こえた。くる、と首だけこちらに向けて私を見ている。

「どこまでついてくるん?」
「どこまでも何も、この道めっちゃ私の通学路なんやけど……」

別に御堂筋くんのストーカーちゃうわ、と憤慨する。確かに数メートル後ろをずっとついていくのはストーカーっぽいかもしれないけれど、家の方面が同じらしいから仕方ないし、そんなに仲良しじゃないから並んで一緒に帰るのも変だ。それに私、ストーキングするような危なっかしい人間じゃない。
その旨を伝えると、御堂筋くんはまた面倒臭そうに「あー、せやな」と言ってのけた。
御堂筋くんは面倒臭そうな声以外出せないのだろうか。

「ちなみに聞くけど、みょうじさん次の交差点どっち曲がるん」
「右やけど」
「その次の交差点は」
「それはまっすぐ」
「どこまで一緒やねんほんま」
「少なくともそこまでは一緒やで」
「……へー」



「……次はどっち曲がるん」

四回目の交差点が見えてきたとき、御堂筋くんはまた私に聞いた。数メートルの距離を守ったまま、御堂筋くんは振り向かないまま。
三回目の交差点も一緒の方向に曲がると知った時は「なんかもう聞くんもめんどなってきた」と御堂筋くんは言っていたはずなのに、四回目も聞くんや、と私は小さく笑った。

「私の家、その交差点の手前やで」
「そうなん」
「そうなんよ」

へー、と言った後「まぁ別に興味無かったけどな」と余計な一言を御堂筋くんは言い放つ。ちょっとむかつく。軽く小突いてやりたいけどそんな事したら蔑んだ目で見られるか十倍くらいになって返ってくるだろうなぁ、と考えていると、丁度私の家の前まで歩いていた御堂筋くんが傘を閉じた。私が慌てて駆け寄ると、大きな青色の傘が私の方に差し出される。

「家この辺なら、傘ここで返すわ」
「え、持って帰ってええよ?明日以降返してくれたら」
「ボク晴れの日に傘返しに行くんキライなんや」
「でも御堂筋くん雨に濡れるで」
「自転車乗って帰るからええやんけ」
「だから雨の日に自転車乗るなや……」

傘を差し出され、それを押し返す。
それと同じように会話も両者譲らずという感じで、一行に終わりそうな気配はない。せめて会話の間だけでも傘差しててくれたらいいのに、御堂筋くん。

「みょうじさんとは話しとっても時間の無駄やなぁ」

今日何回目か分からない御堂筋くんのため息を聞く。
失礼だなという意味を込めて御堂筋くんを見たが、彼は全く動じていないみたいだった。
私の方に差し出していた傘を持つ手を引っ込め、近くの塀にそれを立てかける。あ、と私が声に出した時には、彼は自転車に乗ってペダルを回していた。
してやられた、というのだろうか、これは。
まだ姿こそ見えているものの、もう交差点を越えてしまった御堂筋くんを追いかけるのは無謀だと、彼のいつもの走りを知っているからこそ思う。
せっかく貸してあげたのになー、と恩着せがましい事を思いながら、結局傘を回収して家に入った。

一回だけ振り返った御堂筋くんが、私のその様子を見ていたことには、私は全く気付かなかった。

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