同じクラスのとある男の子が、気になる。

背が高くて、勉強が出来て、部活ではエースで、顔も整っている男の子だ。
そんなに利点が多い子なのに、皆は彼の良さに気付いているのかいないのか、「御堂筋くんって結構良いよね」と私がコメントをすると高確率で「え?」と聞き返してくる。恋のライバル的な存在が少ないに越したことはないけれど、誰も御堂筋くんの良さに賛同してくれないのは非常に嘆かわしいことだと思う。いや、まだ気になる存在だというだけで、恋だとは決まっていないけど。

「御堂筋くんは、なんというかあれだよ。ペンとか持ってる時の手の形がとても良い」
「なまえ、お弁当くらい黙って食べなさい」
「ひどい、他の話題だったらそんな事言ったりしないくせに」

お弁当に入っている甘い玉子焼きをもぐもぐと食べながら、今日感じた御堂筋くんに関してのことを友達に話す。友達はかなり御堂筋くんに関する話を聞き飽きているようで、ため息混じりの声を出された。
まだそんなに沢山話してなんかいないけど、興味を持っていない人にとってはこういうのって退屈なのかもしれない。でも彼女が男性アイドルの話をしているとき、私はどんなに興味がなくても一応「へえ」くらいは返事してあげているので、彼女も私が御堂筋くんトークをしているときは「へえ」と相槌を打って聞き流してくれたらいいのに、とも思う。

「聞き流すだけでもいいじゃん」
「聞き流せる量じゃないよ」
「そうかなあ」

首を傾げてみせると、友達は眉間に皺を寄せてもう一度ため息をついた。
そんなに私は御堂筋くんの話ばかりしているのだろうか。確かに最近、御堂筋くんを形容するボキャブラリーだけがどんどん増えていっている気がしないでもない。
そうかなあそうかなあとうだうだしていると、友達は私に向かって持っているお箸をびっと突きつけてきた。たいへん行儀が悪いと思う。

「そんなに御堂筋の話するけど、どんだけ好きなのよ」

お箸を突きつけた彼女はちょっと不機嫌そうにそう言った。それに対して、んんん、と私は絞り出したような声を喉の奥から引っ張ってくる。

「別に好きかどうかはわかんないよ」
「なんだそりゃ」
「すごく気になってるのは確かだけど、恋愛的なやつかと聞かれるとよくわからない」

私がそう答えると、友達は「もう何も言うまい」といった様子でお弁当の中にあったおにぎりを食べて、それを飲み込んだと同時に別の話題にさらっと切り替えてしまった。



選択美術の授業を、御堂筋くんも取っているということは前から知っていた。
選択授業では席が自由に選べるので、いつもいつもそれとなく御堂筋くんに近い席を陣取っている。一列挟んだ隣だったり、斜め後ろだったり。そのあたりだと鉛筆を持っている御堂筋くんの手(これは私が特に気に入っている御堂筋くんのパーツでもある)がよく見えるのだ。

「えっと、それじゃ御堂筋くん、よろしく」
「おん」

けれど今日は、私と御堂筋くんは向かい合っていた。私が短く挨拶すると、御堂筋くんは私より短く返事をした。
今日の選択美術の課題は「近くの人の顔を描く」といったありきたりなものだ。近くに友達がいなかった私は、思い切って御堂筋くんに声をかけてみた。すると意外なことに、御堂筋くんは「ええよ」と二つ返事で引き受けてくれた。断る理由が無かっただけだろうけど、気になる人の顔を合法的に見つめることが出来るので結構嬉しかったりする。
向かい合って、改めて御堂筋くんを見る。御堂筋くんの大きい目、矯正したかのように形の整った歯、真っ直ぐ通った鼻筋は少し離れた距離で見るより綺麗だと思った。

「御堂筋くんは整った顔をしてるね」

少し先の丸まった鉛筆で御堂筋の顔の輪郭をさらさらと書きながら、思ったことを口にする。
皆割と雑談をしながら絵を描いているし美術の先生もそれを許容しているので、静かにしろと怒られることもない。それに少し沈黙が気まずいなぁと思わなくもなかったので、私は少し恥ずかしいことを言ってのけたのだ。
しかし御堂筋くんは会話を欲していた訳では無かったようで、眉間に皺を寄せながら「何変なこと言うてるん」とだけ言った。
確かに私の褒め言葉に対して乗ってくるような性格だとも思ってはいなかったけど、そんなに冷たく突き放さなくてもいいんじゃないか。けれど、そんなことを言っても御堂筋くんは聞いてくれないだろう。
私はとりあえず口を閉じて、画用紙の上に御堂筋くん像を描いていく。目は左右で擦れないように、鼻は真っ直ぐ真ん中を通るように。髪は毛先がちょっと跳ねていて、そんなところがなんだか可愛らしい。綺麗な歯は、口を閉じた状態の絵なので出番はない。ちょっと勿体無いことをしたかもしれない。

絵が得意ではないから、綺麗に描こうと思ってもデッサンが狂ってしまうことが多々ある。少しずつ狂う絵を見て、はぁ、とため息をついた。
暫く根気よく描いていたから、腕も疲れてしまっている。
ちょっと休憩、しよう。
そう思って、何の気なしに御堂筋くんの描いている絵を盗み見た。

「……おっ」

つい、声が出る。その声を聞いて、黙々と絵を描いていた御堂筋くんは画用紙から顔を上げた。
御堂筋くんの描いている絵のモデルは、当然ながら私である。しかしその画用紙の中にいる私は、実際の私よりか何倍も綺麗に見えた。

「御堂筋くん、めちゃくちゃ上手いじゃん」

私が目を輝かせながら言うと、御堂筋くんは何でもないことのように首を振ってみせた。

「別に上手い訳ちゃうわ」
「でも綺麗に描いてるもん、すごいよ」
「凄かないて」

そんな事を言いながらも、御堂筋くんは画用紙に線を付け足していく。それによって、また綺麗な絵になっていった。
やっぱり凄いよ、と私は呟く。するとまた御堂筋くんは首を横に振った。
そしてぽつりと、言う。

「モデルがええからや」
「え?」
「みょうじさんが綺麗な顔しとるから、描きやすいだけや」
「…………え、何言ってるの」
「二度も言わんで」

なんだか爆弾発言をしたような気がしないでもないけれど、当の本人である御堂筋くんは全く恥ずかしがった様子を見せず、また淡々と絵を続きを描いていた。
私はぽかんとしたまま、御堂筋くんをただひたすら見ていた。

何秒見つめても御堂筋くんはさっきの言葉を繰り返してはくれないしこっちを見ることもしないけど、私には、ただ一つだけ分かったことがあった。
あんな事を言われてしまったのだ。
御堂筋くんのことを、恋愛的な意味で気になる日はそんなに遠くない。

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