予約していたクリスマスケーキを、行きつけのケーキ屋さんで受け取る。両親に「なまえの好きなケーキでいいよ」と言われていたので、お店で一番人気のブッシュドノエルを注文しておいた。受け取った箱からちらりと見えるブッシュドノエルは人気なだけあって、とても美味しそうだ。私はわくわくしながら、ケーキの入った箱を持って帰路を歩く。

「……カップルだらけだ」

ケーキ屋さんから家までの道は、クリスマスだからか綺麗なイルミネーションが煌々と光っている。イルミネーションがあるということはそれを見に来るカップルも多い訳で、道行く人の七割くらいはカップルなんじゃないかなと思ってしまうくらいだった。
私には親密な関係の異性はいないから、皆が恋人とランデブーを楽しんでいる中家族と家でまったり過ごす予定しかない。それはそれで楽しいけれど、寂しくないかと言われれば少しだけ寂しい、かもしれない。
それにしても、イルミネーションは綺麗だ。毎年それなりに綺麗だけれど、今年はLEDだかなんだかを使っているのか例年より豪勢になっている気がする。独り身ではあるけれどこのイルミネーションには何となく惹かれて、私はぼんやりと光る木々を見つめていた。

「……みょうじ」

足を止めてイルミネーションに魅入っていると、近くから聞いたことのある声が聞こえてくる。そちらに視線を向けてみると、同じクラスの、何回か喋ったことのある人が立っていた。

「青八木くんだ。部活終わり?」

ロードバイクに跨ったままの青八木くんを見て、そう尋ねる。すると彼は無言でこくりと頷く。クリスマスまで部活だなんて大変だなぁと思ったけれど、運動部なら普通なのかもしれない。

「みょうじは、何しているんだ」

青八木くんが珍しく、私のことを聞いてくる。学校で言葉を交わすのはせいぜい委員会のことについての業務連絡だったり小テストの範囲を教えてもらったり、というくらいだったからなんだか新鮮だ。

「イルミネーション見てた」
「誰か待ってるのか?」
「ううん、予約してたケーキ取りに行った帰りなだけだよ。今日は家でのんびりする」
「そうか」

青八木くんは部活での汗が冷えてきたのか、時折すんすんと鼻をすすりながら聞いてきた。それがなんとなく可愛いな、と思う。

「青八木くんは?この後予定あるの」

そう聞くと、今度はふるふると顔を横に振ってみせる。お互いさみしいやつだねぇと笑うと、「そうだな」と青八木くんも少しだけ笑った。

「ケーキ、何買ったんだ」
「ブッシュドノエルだよ」
「クリスマスらしいな」
「クリスマスだもん」

そんなやり取りをして、また少しだけ笑う。恋人はいないけれど、完全にひとりぼっちなわけでもない。ちょっとだけ仲の良い青八木くんと話すだけのクリスマスというのも、なかなか良いんじゃないのかな。そう思うと、心がちょっと暖かくなる。

「家でのんびりするだけになるかと思ったけど、青八木くんと話せてなんか良かったよ。ありがとね」

そう言うと、青八木くんは恥ずかしそうに目線を下げる。照れているのだろうか、それだったらレアだなぁ。微笑ましく思っていると、青八木くんは一瞬顔を上げて「俺も」と呟く。

「俺も……良かった」

照れながら言ってもらったその言葉で、私は嬉しくなる。聖夜にこんな青八木くんを見れるのは、偶然出会った私だけの特権だ。
イルミネーションと夜空を見上げて、青八木くんはゆっくりと口を開く。

「……暇だし遅いから、家まで送る」
「え、それは悪いよ」
「……暇だから」

暇だと二回も言われてしまえば、断りづらくなってしまう。折角のクリスマスなのに送ってもらって構わないのかと念を押してみると、青八木くんはまた「家帰ってもする事ないし」と付け加えた。そうして押しに負けた形になって、私と青八木くんは私の家までの無駄にイルミネーションのきらきらした道を通ることになる。
恋人はいないけれどこんなクリスマスもありかな、と箱に入ったブッシュドノエルと隣を歩く青八木くんを見て思った。

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