「はぁ……」

ぶるぶると震えたスマートフォンの画面をちらりと見やると、緑色の通知が届いていた。相手は友達の友達であり、性別は男。ため息をこらえることすらせずに一気に吐き出し、そして通知を開くことなく画面を下してスマートフォンを机に置いた。
めんどくさいなぁ、と思いながら机に突っ伏す。こんなことならノリでLINEの交換とかしなきゃ良かった。ツイッターのアカウントとか教えなきゃ良かった。でももう今となっては後の祭りというやつで、どうすることもできない。
後悔の気持ちを抱えていると、また机に置かれたものが震える。どうせまた同じ人からだろうと無視をしていると、ちょんちょん、と控えめに肩を叩かれた。

「……スマホ、通知きてる」

声がした方を見ると、青八木が私の方を遠慮がちに見ていた。私は軽く首を横に振り、「いいの」と呟く。

「未読無視してんの。……あとで見る」

私の声音がいつもと違ったのか、私の返事を聞くと青八木は少し首を傾げた。そして「未読、無視」と復唱する。

「嫌いな相手なのか」
「んー、嫌いではないんだけど……」

語尾を濁してみる。けれど青八木は案外鋭い感性の持ち主で、「じゃあなんで昼休み中ため息ばっかついてるんだ」と彼にしては長めの台詞を口にする。
そんなにため息ばかりだったかな、と自分の言動を振り返ってみると、確かに通知が来る度に鬱屈とした気持ちを吐き出すためにため息をついていたような気がしないでもない。表情に出やすいんだな、と少しだけ自嘲する。

「青八木。今暇?」
「暇」
「ちょっと私の話聞いておくれ」

青八木の方に向き直り、私は言う。青八木も青八木で相当暇を持て余しているのか、割と真面目な顔をして頷いた。

「こないだね、友達と遊んでたら友達の男友達に会ったんだ」
「うん」
「暫く三人で話してて、その男の子が私のLINEのIDとツイッターのアカウント聞いてきたの。そんで深く考えずに教えちゃって」
「うん」
「それからほぼ毎日おはようってLINE来たり、遊びに誘ってきたり、風邪ひいたってツイッターで言ったらお見舞いに行くって言われたり」
「うん」
「でもそんなに仲良くないし、はっきり言って面倒なんだよね」
「うん」
「どうしよう」
「そうだな」

矢継ぎ早に青八木に話し、青八木はテンポ良く相槌を打ちながら淡々とそれを聞いていた。
私はスマホを手に取り、ロック画面で来ている通知を確認する。やはり想像した通り、来ている通知は全てその男の子からだった。登校してから四回もLINEを送ってきているあたり、この人も相当暇なのか、または私を相当気に入っているかのどちらかだと思う。
またため息をつきそうになったが、あまりし過ぎるのも良くないなと思い、ぐ、とこらえる。そんな私と私のスマホを青八木は交互にちらちらと見た。そしてすっと、こちらに手のひらを差し出してきた。

「……ん?どした」

かくん、と首を傾けながら青八木に聞く。青八木は二回ほど瞬きをして、小さいけれどはっきりとした声を出す。

「みょうじのスマホ」
「うん」
「貸して」

手をもう一度、こちらに寄せてくる。なんだなんだとは思いつつ、自分の白いスマホを青八木の手にぽふんと乗せた。すると青八木は躊躇なく通知を開いて、LINEの画面にしてしまう。人のLINEを躊躇なく見るあたりどうなのだろうと思わなくもなかったが、見られても私は困らないし青八木だから良いか、と結論づけた。

「ちょっと設定変える」
「LINEの?」
「ん、ツイッターも。……悪いようにはしない」

自分のスマホとタイプが違うのか、少し手元がおぼつかない感じの青八木。悪いようにはしないなら、まぁ少しくらい設定を変えられても構わないか。青八木に対して甘い考えかもしれないが、ぼんやりとそんな事を思う。
二分ほど青八木は私のスマホをいじり、そして最後にホーム画面に戻して返してきた。

「どこ変えた?」

まずはLINEの画面を開きながら、私は青八木に問う。すると青八木はLINEの「トーク」の部分をタップする。一番上にあるのは、私が悩まされている男子の名前。青八木はそれをも指で叩く。すると私とその男子との会話が画面に映し出されたのだが、一番下に映っていた私の発言は、打ち込んだ覚えがないものだった。

『ごめんなさい、君が苦手です』

こうは思っているけれど、さすがにこんなに真っ直ぐ伝えた記憶はない。となると、これは青八木が書いたものなのか。青八木の方を見ると、少し申し訳なさそうな顔をしながらこちらの様子を伺っているようだった。

「これ、青八木が書いたの?」

聞くと、青八木はこくん、と小さく頷く。

「勝手に書いて、ごめん。あと、ブロックもした」
「ブロックもか」
「うん」

ぼそりと、ツイッターも、と青八木は言う。
勝手にブロックしたことと落ち着きのある青八木とはなかなか結びつかず、そのギャップに少し顔を綻ばせる。青八木も案外、感情のままに行動してしまうところがあるんだな。
それに私は、ブロックしたくてもなかなか踏ん切りが付かずにだらだらと会話を続けてしまったのだ。それを青八木が断ち切ってくれたのだから、それは有難い事のような気がしてきた。

「私はなかなか気を遣っちゃってブロック出来なかったから、してくれて助かったよ。ありがと青八木」
「……いや。勝手に触ってすまなかった」
「良いって良いって。変なしがらみ断ち切れたんだから、青八木にスマホ見られたことくらいどうだって構わないよ」

ぱたぱたと手を振りながらそう言うと、青八木はほっと息をつく。なら良かった、と言いたげだ。

「みょうじに変な虫が付くとか、やだったから」

ぼそぼそ、と、今度は小さくて更に聞き取りにくい声を出す。
それに心臓が少しだけ揺れながらも、私は聞こえないふりをした。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -