ちらちらと、光が揺れる。
派手な光を放つ花火はもう既に全て役目を終えて、水が張ったバケツの下の方に沈んでいた。
縁側に座って、私は小さくて儚げな光を放っている線香花火を右手で持ちながらそれを見つめる。隣に座る青八木も、同じように手に持っている線香花火をぼんやりと見ていた。

「青八木」

何の気なしに名前を呼ぶ。その衝撃で、ぽたりと赤い丸いものが私の持っていた線香花火から落ちる。それを見て、無口な青八木は掠れた声であ、と呟いた。

「落ちちゃった」
「ん」

私が言うと、青八木はまだ火を点けていない線香花火をこちらに差し出してくる。それをありがとうと言いながら受け取って、燃えている蝋燭から火を移す。そうすると、またちらちらと今にも消えそうな光が点いた。
あまり体を動かさないように気を付けながら青八木の方をちらりと見ると、彼の線香花火はそれなりに燃えていて、私の持っているものより大きな光を放っていた。
線香花火は、それを持っている人の性格が出ると思う。
少し大雑把なところのある私の線香花火はすぐに落ちて消えてしまうけれど、物静かで慎重な性格の青八木の線香花火はなかなか落ちずに最後まで燃えている。
花火を始めたタイミングは一緒なのに、バケツに投げ入れた線香花火の数は二対一で私の方が多いと思う。

「みょうじ」

珍しく、青八木が私の名前を呼ぶ。ん、と言いながらも、私は線香花火から目を離さない。今しがた火を点けたばかりなのに、すぐに落ちてしまっては堪らない。

「何?」
「さっき、何を言おうとしてたんだ」

あんまり抑揚のない声で、普段発するより少しだけ長い台詞を彼は言う。何をって、と首を傾げると、青八木は「俺の名前呼んだから」と呟いた。
そこで、そういえばさっき青八木に声をかけたなぁ、と思い出す。それほど重要な事でもなかったし言わなくても何も問題がない事だったので、本当についさっきのことだったのに頭からふ、と抜け落ちていた。ああ、と声を挙げると、それに呼応するかのように私の持っている線香花火が少し揺れた。落ちてしまうかと一瞬ひやりとしたが、何とか持ちこたえたらしく先ほどと同じように儚げに輝いた。

「あんま大事な事でもないんだけど」
「そうか」
「うん」

私の声を聞いて、青八木は少し体を動かして縁側に座りなおす。そしてその衝撃で、ぽたりと線香花火が落ちた。青八木のが落ちるなんて珍しいなと思いながら横目でそれを見ていると、彼は照れ臭そうにほんの少しだけ笑う。表情が乏しいから、本当に少しだけ、そう見えた。
青八木はさっき私にそうしたように、傍らから残りの線香花火をひとつ手に取る。そして火を点けて、落とさないように気を付けているのかもう一度ゆっくりと座りなおした。

「線香花火してるとさ、夏が終わる気がするよねって言おうとした」

座りなおした青八木に、けれど彼に目線は向けないまま言った。
ちょっとでも動くと、大雑把な私の持つ花火はすぐに消えてしまう気がしたからだった。

「なんか儚げでさ、これ全部やり終えると夏休みが終わって明日から学校だなぁって感じがするんだよね」
「……まだ六月」
「まぁ、そうなんだけど」

私の言葉に、青八木は冷静にツッコんでくる。青八木の言うことは事実で、カレンダーの上ではまだ6という数字が居座っていた。けれど昼間はかなり蒸し暑いし、夏に咲く植物だってちらほら見かけ始める時期だから、細かいことには言及しないでほしい。
縁側の隅っこに置かれている古典的な形の蚊取り線香を見て、こんなところも夏だな、と思う。

「夏みたいなもんでしょ、もう」
「まぁ」
「ほらね」

短い言葉で、私と青八木は話す。
足りないように見えるけれど、私と青八木はそんな会話で充分だった。

「青八木」
「ん」
「今年の夏は、どうよ」

私が聞く。青八木はぴくりと動いたけれど、今度は線香花火を落とさなかった。

「今年の、夏」
「うん」

青八木は数回瞬きをする。
確か去年青八木と花火をしたときは、その瞬きは片目だけしか見えなかった。今年は髪が少し伸びて、両目がきちんと見えるようになった。そんな彼を見て、変わったな、と思う。

「大丈夫」

いつもよりはっきりとした声で、けれどいつも通り最低限の言葉で彼は言う。
私も同じように、「そっか」と最低限の言葉で返した。
私の線香花火が、最後まで落ちずに燃えていた。

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