「靖友ってさぁ」
「オー」
「噛み癖あんの?」

私の声に、教科書をぱらぱらと捲っていた靖友の右手が止まる。机に置かれた教科書から目を離して、私の方を見た。そんな靖友の左手には、つい先ほどまで飲まれていた紙パックのお茶が握られている。

「何だァ?いきなり」

怪訝そうな声を出して、靖友は私に聞いた。
高校三年生、二学期の中間テスト期間。部活を引退した私と靖友がすることと言えば、受験勉強。勉強しなければいけないと分かっていつつも自分一人ではどうもやる気が出ない私達は、二人で集まって勉強をすることにした。学校の図書館ではずっと黙っていなければいけないし、自習室はすぐに満席になるので席を取るのが難しい。そして靖友が生活している男子寮にはそれ相応の理由が無い限り女子は立ち入りが出来ないので、私の家で勉強することになった。
そうして家に着くまでに買った飲み物や食べ物をつまみながら勉強している靖友をぼんやり眺めていたら、靖友の噛み癖に気付いたのだ。

「だってほら、それ」

言いながら、靖友が持っている紙パックのお茶を指差した。
その紙パックには当然の如くストローが差し込まれていて、その先端は少し潰れて細長い楕円形になっている。普通に咥えるのではなく、ストローを噛んだときになる形だ。
靖友はストローをちらりと見て、「ホントだ」と小さく呟いた。

「今気付いた?」
「気にしたこと無かったしナ」
「完全に無意識の癖なんだね」
「そうだなァ」

数学のテキストに目を落としながら私が言うと、靖友は欠伸交じりの声で答える。数式を目で追ってはみるけれど、どうにも頭に入ってこない。靖友が持っているお茶のストローに目が行くくらいなのだから、きっと私の頭はもう勉強を受け付けなくなっている。
はぁ、とため息をつきながら伸びをすると、靖友がごそごそとコンビニの袋を漁っているのが見えた。何をしているのかと考えていると、靖友は袋の中から、先ほど買ったポテチを取り出した。味は私の好きなのり塩である。

「なまえもどうせ疲れてんダロ。ちょっと休憩しねェ?」

のり塩ポテチをちらつかせながら、にやりと靖友は笑う。悪い笑い方をするなぁと思いながらも、私も同じように笑って頷いた。ちょっと休憩の「ちょっと」とは一体どのくらいの長さなのか。それは聞くだけ野暮というやつだ。
ポテチの袋を、俗に言う「パーティー開け」にする。そこから二枚ほど手に取って口の中に放り込むと、私好みの味がする。

「靖友、よく分かってんじゃん」
「ストローみてェなどうでもいいもんばっか見てるってことは集中出来てねェ証拠ダロ」
「まぁね、ご名答だよ」

そんな軽口を叩きながら、私と靖友はそれぞれポテチを食べたり飲み物を飲んだりして過ごす。ちなみに私が飲んでいるのは紙パックのいちごミルク。結構お気に入りなのだがコンビニや自販機でなかなか見つからないため、時々見つけると迷わずこれを買ってしまう。ついでに言うと、ストローは噛んでいない。

「しょっぱいの食べてたら甘いのも欲しくなってきた」
「オー、じゃあこっちのチョコのやつも開けるか?」
「うん、開けてー」

もう完全に勉強する気が無くなってしまった私達は、そのままお菓子パーティーへと移行する。もちろんお菓子を食べ終われば勉強を再開させるつもりは十分にあるのだけれど、かなりたくさんのお菓子を買ってきたためそれがいつになるのかは皆目見当もつかない。まぁ今日一日くらい良いか、と甘い考えがよぎる。
実際明日以降一緒に勉強する予定は無いし、靖友は福富くん達と一緒に勉強をするだろうから明日からはこんなに大っぴらな休憩は取れないだろう。かくいう私も、明日は頭の良い友達に勉強を教えてもらうつもりだ。だからきっと、こんなに自由には出来ないと思う。
チョコレートを染み込ませたお菓子の袋も開けて、それを口に入れる。先ほどまでポテチを食べていた舌にとっては良い刺激だ。でれでれに甘いいちごミルクを飲んでいても、チョコの甘さはまた違う感覚なので飽きない。

「美味しい」
「ダナ」

さくさくとチョコのお菓子を食べて、そしてまたぱりぱりとポテチを食べる。
ふと見ると、靖友はどちらのお菓子もよく咀嚼して食べていた。これは噛み癖とは関係あるのだろうか、でも食べ物を食べる時によく噛むのは健康に良いことなので私が言うことは何もない。
お菓子をそれなりに食べた靖友は、口直しに紙パックのお茶を飲んだ。ちらりとそれを見ると、やはりストローは細長い楕円形に歪んでいる。

「靖友」
「ア?」
「また噛んでる」

教科書やお菓子を広げているテーブルから少し身を乗り出して、靖友が咥えているストローをそっと掴む。そしてストローを靖友の口から抜いて見せると、彼は少しだけ目を見開いてホントだと呟いた。

「無意識だナ」
「小さい頃からずっと、の癖っぽいね」
「あァ、多分」
「子どもっぽいって言われることもあるから直した方が良いかもよ」
「へいへい」

直す気があるのか無いのか、靖友はどうでも良さそうに返事をした。それにむっとしつつ、細長い楕円形になってしまったストローの口を指で整える。
「とりあえず、ストロー噛まないように意識してみ」と言いながら彼の口にストローを持っていくと、何が気に食わなかったのかストローを持っていた指ごと甘噛みされた。

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