放課後、コンビニでアイスを買う。コンビニから出てすぐに袋をぺりぺりと剥いで、ゴミはゴミ箱へ放り込む。そしてひと気の少ないコンビニの駐輪場でもぐもぐと買ったばかりのアイスを食べる。
これが私の至福の時間。
いつも買うアイスは違う。先週は表面をチョコでコーティングしたバニラの棒アイス、先々週はシューアイス。そして今週はモナカのバニラアイス。毎日食べたら太るから、一週間に一度だけ。花の金曜日、略してはなきんのお楽しみ。
学校近くのコンビニでこんなことをしていたら他の生徒に見られてしまう。恥ずかしいことをしているわけじゃないけれど、駐輪場でアイスを食べるのはなんだか行儀が悪いことは分かっている。だから学校から離れた、どちらかといえば自宅近くのコンビニで毎週アイスを買う。
決まって金曜日、決まってアイス。
たぶんコンビニ店員にはあだ名を付けられてるんじゃないかな、と思う。特徴的な客にはすぐあだ名を付けるのがコンビニ業界あるあるらしい。私はコンビニに勤めていたことがないので分からないけど、コンビニバイトをしている友達はそう言っていたからきっとそうなのだろうと思う。
ほんのり薄暗い空の下、モナカを両手で持って頬張っていると、遠くで何かが光るのが見えた。なんだろうと思いつつも深く追求することはなくバニラアイスの冷たさを味わっていると、その光はこちらに向かってきているようだった。モナカの残りが半分くらいになって、やっと光の方にまともに目を向けると、その光が何なのかぼんやりと分かる。薄暗いからはっきりとは見えないが、どうやらその光はこちらに向かってくる自転車から発されているらしい。あぁ自転車のライトか、と納得して、私はまたモナカを一口頬張った。

「あれ、みょうじじゃん」

もそもそ咀嚼している間に、その自転車は私のすぐ横に止まる。自転車から降りた人間をよくよく見ると、同じクラスの手嶋ということが分かった。なんで私のすぐ横に止まるのだろうと疑問に思ったが、私が駐輪場でアイスを食べていたことを思い出し、納得した。

「手嶋だ」
「そうだけど。何食ってんの?」
「モナカのアイス。手嶋なんか買いに来た?」
「スポドリ買いに来たんだよ。でもみょうじが食ってんの見たらアイス食いたくなってきた」
「買えばいんじゃない?」
「そうだな」

テンポの良い会話をして、手嶋はコンビニに入っていった。そしてまた私はモナカを一口齧る。こんな行儀の悪いことをしているのがクラスメイトにバレてしまったけど、まぁ一人くらいなら大丈夫だろう。あと手嶋だし、私がコンビニ前でアイスを貪っているだなんて噂はたてたりしないと思う。
私がそんな事を考えている間に、自動ドアが開いてビニール袋を下げた手嶋が出てきた。透明な袋を見やると有名なメーカーの名前が入っているスポーツドリンクと、あと一つ何か入っている。何だろう、と思って手嶋の持つビニール袋に手を突っ込んでそれを引っ張り出した。意外にも、手嶋はそれを注意しない。

「お、ガリガリ君」
「安かったから買った」
「ソーダ味」
「コンポタは嫌だったからな」

私の手からガリガリ君を取って、袋を剥いでゴミを捨てる手嶋。ここで食べるのかと聞くと、良いだろ?と返された。複数人でコンビニ前にいるとたむろしているように思われるから基本的には避けたいのだが、ここは人通りも少ないし、とりたててコンビニ前で騒ぐ訳でもなく人の迷惑にならない程度のボリュームで会話をしながらアイスを食べるだけだから大丈夫だろうという結論に至った。だから良いよと頷くと、手嶋は返事代わりにガリガリ君を齧った。

「コンポタ前食べたよ」
「へぇ。どうだった?」
「私には合わなかったかな。でも手嶋にはお勧めしておくよ」
「自分に合わないもんを人に勧めんなよ」

手嶋の真っ当な正論を聞き流しながら、私は残り少なくなったモナカをちびちびと食べる。
ガリガリ君コンポタ味を食べて微妙な顔をする手嶋を見てみたいなぁと思う。けれど意外と手嶋の好みの味だったらどうしよう。それはそれでむかつくかもしれない。

「やっぱコンポタ味よりシチュー味のが冒険かな」
「なんだそれ」
「なんか新発売の味だってこないだどっかで聞いたよ」
「ガリガリ君のメーカー冒険し過ぎだろ」
「あ、あとナポリタン味ってのも」
「うわぁ……」

新味の説明を手嶋にすると、手嶋はなんとも言えない顔をしてこちらを見てくる。それは若干私を蔑んでいるようにも見えた。別にシチュー味やナポリタン味を考え出したのは私じゃないのに、失礼な話である。全くもう、と思いながら残り少ないモナカを食べようとすると、不意に横から手嶋の顔が近づいてきた。なんだなんだと思っている間に、手嶋は私の手の中にあったモナカを半分ほど齧っていってしまったのだ。

「……ああああっ!何すんの、残り少ないのに!」
「ナポリタン味の衝撃を払拭するためにみょうじのモナカを犠牲にした」
「手嶋食べてるのソーダ味じゃん……!」

絶望感を表情で表しながらそう言うと、手嶋はおかしそうに笑う。私はこれ以上モナカを奪われないように残りを口に放り込んで、それからポカポカと手嶋の脇腹辺りを叩く。だが私の攻撃は一切効いていないようで、手嶋はまたおかしそうに笑うのだった。

「たかがアイスに何怒ってんだよ」
「たかがじゃない、されど!これは強奪だよ!手嶋のガリガリ君と等価交換しないと私の怒りは治まらないよ!」
「んじゃ等価交換ってことで」

私が近所迷惑にならない程度にわぁわぁと喚くと、手嶋は案外普通にガリガリ君を差し出してくる。それならナポリタン味の衝撃をこのソーダ味で払拭すれば良かったんじゃないのかと思ったけれど、過ぎたことはもう仕方ない。差し出されたガリガリ君を一口齧ると、バニラアイスとはまた違った、少し懐かしくて爽やかな味がした。ゆっくりと咀嚼している私を見て、手嶋はおどけたように私に聞いてくる。

「みょうじさーん、コンポタ味と比べて如何ですか?」

ごくん、と口の中で溶け切ったソーダ味を飲み込んで、私は手嶋を見る。手嶋の何か企んでいるような、ちょっと大人びた表情はちょっぴり鼻につく。なんだよ、普段は紅茶を飲むのが好きなお洒落な趣味をお持ちの癖に、アイスはガリガリ君を選ぶだなんて。
私はそんな手嶋に対抗して、自分ができ得る限りの皮肉っぽい表情をしてこう言ってやった。

「ま、コンポタよりはましなんじゃない?」

私の言葉を聞くと、手嶋は「そりゃ当たり前だろ」と笑ってもう一度ガリガリ君にかぶりついた。

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