「私さぁ、告白されたんだよ」

話すネタが無くなってきたので自分の身に降りかかった出来事を何の気なしに話すと、目の前で私のお菓子を貪っている新開は目をぱちくりと開けてこちらを凝視していた。そして数秒後、いかにも驚いたというように、わざとかと聞きたくなるほど瞬きをする。私が新しいお菓子のパッケージを開けてもその状態が続いていたので、軽く頭を叩くと、痛いなと言いながら私の手元からお菓子を一つ奪った。そしてそれを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。

「おめさんに告白する奴もいるんだな、驚いちまった」

私からお菓子を奪う手を休めず、新開は話す。失礼だなと思って睨み付けると、怖い怖い、と笑われた。

「そういう顔するからモテないんだぞ」
「新開はいつも余計な事しか言わないね」
「そうでもないと思うけどな」

私が少し嫌味っぽいことを言っても、新開は飄々とした態度でそれを交わす。一、二年ほど新開の友人をやっている私だが、彼はよく分からない人間だというイメージが根底にあった。
まだ口にお菓子が入っているのに新しいお菓子に手を伸ばす新開は、いつもと同じ少し低い声で、私に問う。

「誰に告白されたんだ?」
「え、それ言わないといけない?」
「気になるからな」

気になると言いつつ、新開はまた私の物であるはずのお菓子の袋をぺりぺりと開ける。本当に気になっているのかと疑問に思うほどの態度だ。気になっているのは私に告白してきた人ではなく、私のお菓子の方ではないのだろうか。
そんな事を思いながらも「あの人」と遠くにいるクラスメイトを遠慮がちに指差すと、新開もとりあえずは私の指先を辿る。しかし「へぇ」と言うと、彼の意識はもうお菓子の方に向いていた。

「……どーでも良いんじゃん」

呆れながら私も一口サイズのお菓子を口に放り込むと、新開は「そんなことないぞ」と笑った。嘘つけ。
既に私が買ってきた三種のお菓子はどれもパッケージが開けられており、その5分の3は新開に食べられているようだった。はああ、と新開を見ながらわざとらしくため息をついてみるものの、それを気にするような彼ではない。いつもいつも平然と私のお菓子を掻っ攫い、たまに飲み物まで掻っ攫うような人間だ。そんな事実に、また深いため息をつきそうになった。

「で、どう返事したんだ?」
「どうでも良さそうなのに何で聞くかな。断ったよ」
「へー。俺はなかなかイケメンだと思うぜ、あいつ」
「だってあんま話したことないしよくわかんないし」

もぐもぐとお互いお菓子を頬張りながら、私達は話す。
話すネタがこれくらいしかないのでこの話題について盛り上がるのは大いに構わないのだが、自分が告白されたことについて話すのはなんとなくむず痒い。
そんな事を考えていると、新開が私の手の中にあったお茶のペットボトルをひょいと取り上げる。

「ちょっと、勝手に取るな」

顔をしかめて新開の方を見たが、新開は全く気にしていないようで明後日の方向を見ながらペットボトルの蓋をくるくると開ける。そしていつも通り、何の迷いもなく口を付けて飲む。最初は注意していたのだが、これが日常茶飯となった今では注意するのも面倒になってしまった。無遠慮にごくごくとお茶を飲む新開を眺めながら、私の物はだいたい新開に取られていくなぁ、とぼんやり思った。そこそこ中身が入っていたはずのお茶が半分になった頃、新開はやっと私にペットボトルを返した。お菓子とかお茶とか、私の物は新開に横取りされることが多い気がする。というか、私が私の物を食べたり飲んだりするより新開が私の物を食べたり飲んだりする量の方が多いんじゃないだろうか。そもそも新開はいつもパワーバーとかいうやつをよく食べてるんだから、私のお菓子を食べる必要なんかないんじゃないだろうか。
お菓子を貪り続ける新開を怪訝な顔で見つめていると、視線に気付いたのか新開がお菓子から私に目を向ける。何だ?とでも聞きたそうな顔をしたので、私はつい思っていたことを口に出す。そして最終的に、「なんで私のお菓子に手を出すの」と少し攻撃的な口ぶりで言ってしまった。けれど新開はやっぱり通常営業で、いつもの飄々とした感じで私に言う。

「俺のもんだって分からせるためにだよ」

その言葉が予想外なもので、一瞬きょとんとする。けれど新開の言葉の意味を自分なりに理解すると、じわじわと苛立ってきた。
これ、私のお菓子だし。新開のじゃないし。分からせるも何も、新開のじゃないし……!!
そんな風にぷんぷんしている私を見て、新開は面白そうに笑う。そして私はそれを見て、またぷんぷんと頬を膨らませるのだった。

新開の言う「俺のもん」が私のお菓子やお茶でないことや、新開がわざと私に告白してきた人に見せびらかすように私のお茶を飲んだことなどは、私は知る由もないのである。

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