今日の手嶋は、ちょっとおかしい。
部活中しきりに時計を見たり、帰る時には「今日貸すCD家に忘れちまったから、うちに取りに来てくれないか?」と言ったり。普通ならCDを忘れたら、次の日に持ってくると言うのに。
そう思いながらも俺はこくんと頷いた。手嶋はほっとしたような表情になり、そそくさと足を早める。

「ちょっとそのCDどこにしまったか忘れちまったから、先に帰って探しとく。青八木はゆっくり来たら良いからな」

そう言って、手嶋は早足で俺の前から去っていく。
目的地が一緒なのに、何故別々に帰る必要があるのだろうか。
そんな疑問が湧いたが、それを手嶋に聞くほど俺は饒舌ではなかった。それに、CD探すのにかなり時間がかかるくらい手嶋の部屋は片付いていないんだな、と自分で納得してしまった。

ぴゅう、と風が吹く。
突然の寒気に、首元に巻いたマフラーを掴んで口元に引き寄せた。
もう二月も下旬だ。あと何日で三月なんだろう。日にち感覚が無くなった頭で、ぼんやりとそんな事を考えた。



何も考えずに歩いていると、案外早く手嶋の家に着いた。歩いているうちに下がってきたマフラーをまた口元まで引き寄せながら、インターホンを押す。ばたばたと階段を降りてくる音が、外からでも聞こえる。たぶん手嶋の足音だろう。あと「え、もう?早くね!?」と言ってるのも聞こえる。手嶋本音だだ漏れじゃないか。リアクションから考えて、CDまだ見つかってないのかな。
その直後、がちゃりと玄関が開いて手嶋が顔を覗かせる。少しバツの悪そうな顔をして、「ちょっと待っててくれ、悪いな」と俺を部屋へと促した。
台所から聞こえる料理する音を聞きながら、階段をぱたぱたと音を立てて二人して歩く。作戦会議をする時はいつも手嶋の家の手嶋の部屋でしていたから、階段を上がって何番目のドアが手嶋の部屋のドアなのかは覚えてしまった。予想通り、手嶋は二番目のドアに手をかける。玄関を開ける時よりも軽い音を立てながら開くドアの向こうには、想像していたよりずっと片付いている部屋が見えた。

「CD探すって言ってたから、もっと汚いのかと、思ってた」

思った事をそのまま口に出すと、手嶋は「それはひどいなぁ」と笑った。その反応を見る限り、どうやら俺が来る前に片付けたのではなく元々片付いていたようだ。そして、先ほどまで机の上に置いてあった何かを俺に差し出した。

「これ、言ってたCDな」

見ると、昨日手嶋が言っていたアルバム名が印刷されてあるCDだった。
見つかったのか、良かったな。
心の中でそう思う。けれど口には出さない。口角を少しあげて手嶋に向かって頷くと、思っていた事は伝わったようで、手嶋もはにかんだ。
受け取ったCDをカバンに入れると、「まぁ座っとけよ」と手嶋に促された。
おかしいな、CDはもう受け取ったのだから、もう帰ってもいいんじゃないだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのか、それとも手嶋が目ざといだけなのか。どちらにせよ手嶋は俺の心境が分かったらしく、あー、とかえーと、とかよくわからない声を出した。いつも余裕のある手嶋とは、ちょっと違う。

「あと五分くらいそこで待っててくれ」

手嶋は少し焦った顔をして、俺が引き止める間も無くひらひら手を振って部屋から出ていった。
なんか今日の手嶋、おかしい。
あと、今思えば階段を上がっている時に聞こえた台所からのがちゃがちゃした音も、おかしい。手嶋家には何回か来たが、今日ほど大きな音を立ててクッキングしているのは聞いたことがなかった。
座椅子に座りながら、そんな事を考える。でも俺には手嶋がおかしい理由とか台所の音とかの理由が分からなくて、まぁいいか、と考えるのを放棄した。



手嶋は五分待ってくれと言ったが、もう十分ほど経った。
まだ手嶋帰ってこないなぁ、と思いながら座椅子の背もたれにもたれる。
それでもぼぉっとしながら待っていると、一階から「できた!!」と女の子の声が聞こえた。
……なんで手嶋の家で、女の子の声がするんだろう。手嶋って姉や妹、いたっけ。
ぐるぐると頭の中で考えていると、ばたばたと階段を駆け上がる二つの足音が聞こえた。そして勢い良く、ドアが開いた。

「青八木くん!ハッピーバースデー!!」
「青八木誕生日おめでとう!」

部屋に飛び込んできたのは、手嶋と、みょうじだった。
突然のことに目を見開く。みょうじの手には、「誕生日おめでとう」とチョコレートのペンで書かれたホールケーキがあった。
え、なんで、なんで。
そう思いながらあわてて携帯のディスプレイで確認する。表示されている日付は、俺の誕生日だった。

「誕生日……忘れてた」

俺が小さく呟くと、二人は笑った。

「嘘!青八木くん自分の誕生日忘れちゃだめだよ!」
「次から、気をつける」

みょうじは「うんうん、気をつけなよ!」となぜか得意げに言って、テーブルの上にケーキを置いた。
話を聞くと、どうやらみょうじと手嶋は一週間前から俺の誕生日に何をするか話し合っていたらしい。そして一昨日に、ケーキを作ってサプライズしようということに決まったらしかった。今思えば、今週二人はずっとそわそわしていた気がする。それでも気付かなかった自分の鈍さと、誰かに誕生日を祝ってもらえた嬉しさで、顔が綻んだ。

「青八木くんめっちゃ笑ってるー!」
「とりあえずサプライズは成功、だな」

手嶋とみょうじも、笑う。
俺は饒舌ではない。でも、これはしっかりと声に出して言おう。
そう思って、いつもより大きな、はっきりとした声で、俺は二人に「ありがとう」と言った。



(青八木Happy birthday! 2.24)

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