朝のニュースで、昨夜はふたご座流星群が見られる日だった事を知った。流星群にひどく興味を持っている訳ではなかったし、知っていたとしても一番流星が見られたのは私が普段熟睡している時間らしかったので、特に見れなかった事に対して残念に思ったりはしなかった。そして学校に行ってぼんやりと授業を受けている間に、流星群の事は忘れてしまっていた。
それでもふとした会話の中で流星群の話題が上ったのは、彼とはそれ以外の話題はもうし尽くしてしまっていたからだと思う。
そういえばさ、と言うと一くんはこちらを見て首を小さく傾げた。

「昨日ふたご座流星群の日だったみたいだけど、一くん見た?」

私の問いかけに、彼はふるふると首を横に振る。そうか、一くんも見ていないのか。まぁ彼は運動部だから夜にはへとへとになってすぐ眠ってしまうだろうし、流星群なんて見る時間も無かったんだろう。
一くんは、あまり口数が多い方ではない。だから私はこうやって、彼の少ない反応から彼の背景を汲み取る事が多くなった。別にそれが不満かと聞かれれば、そうではない。一くんとの間のこの空気は、私にとって案外心地よかった。
そっかぁ、と言って、流星群についての会話はそこで終わる。それから暫くは無言の時間だ。一くんと私は、お互い無理して話すことはしない。何か話したくなったとき、どちらともなくお喋りするのだ。まぁ大抵話しかけるのは私で、口数が多いのも私だけれど。
机に寝そべりながら、目を閉じる。昨夜は流星群も見ずにしっかりと寝たから眠くないはずなのに、ふわぁ、と欠伸が出た。欠伸によって生理的な涙がうっすらを目の端に浮かんだが、誰かの指で拭われた。たぶん一くんの指だろうなぁ。そう思いながら細く目を開けると、やはり目の前にあったのは一くんの顔だった。

「ふたごで、思い出した」

珍しく、一くんの方から声をかけてきた。よいしょと机から体を起こして、彼の方へ向き直る。

「何を?」

さっき一くんがしたように、今度は私が首を傾げる。一くんは私にしか聞こえないくらいの小さな声で、なんだっけ、と呟いた。

「ふたごは、前世で結ばれなかった恋人の生まれ変わり、って話」
「そうなの?それ初めて聞いた」

一くんの口から出てきたちょっとメルヘンな、でも切ない言葉は、私の知らない内容だった。私が目をぱちくりさせていると、一くんはたどたどしくも言葉を紡ぎ続ける。

「前世では離れ離れになったから、次はずっと一緒にいられるように、って意味って、聞いた」
「へぇ。それって素敵だねぇ」
「だな」

私が頷くと、一くんも頷いた。
素敵な話だ。そう思った。私も来世まで続く恋愛とか、そういうのをしてみたい。
私も一くんとふたごが良いなぁと恥ずかしげもなく言うと、意外にも一くんは難しそうな顔をしていた。あれ、私一くんとは結構良い感じの仲だと思ってたんだけど、もしかしてそう思っていたのは私の方だけだったんだろうか。そんなことを思いながらもやもやしていると、一くんは「俺も、なまえとふたごがいい、けど」と言い淀んでいた。けど、けどなんなんだ。

「けど?」

一くんを目を見て、私は聞く。
一くんはちょっとの間言いにくそうにしていたが、十数秒視線をうろうろさせた後、けど、と繰り返した。

「けど、ふたごになったら、なまえと結婚出来ない」

かーっと顔を赤くさせながらそう言った一くん。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい赤くなっていて、そんなに顔を赤らめるならどうして言おうと決心したんだ、と思ってしまった。そう言う私も私で、顔がほんのり赤くなっているのが自分でも分かる。とにかく一くんの言葉に何か返さなきゃ、と口を開く。けれど、ふと頭に浮かんだ返事は言うには少々恥ずかしいもので、結局私の口をついて出たのは「え、えっと」という意味を為さない言葉だった。それでも、あの恥ずかしい台詞を言ってのけた一くんに何か返さなくてはいけない。

「は、はじめくん」
「ん」
「じゃあ、えっと、頑張って、今の世界で結婚までこぎつけましょう」
「……うん」

ぷしゅう、と顔から音が出そうなほど顔が熱くなるのが分かる。でもそれは一くんも同じようで、ゆでダコが二人ならお互いそんなに恥ずかしくないかも、と脳みその中で冷静な判断が出来るなけなしの部分でそう考えながら、一くんとの恋愛事は来世までお預けにならないように頑張ろう、と脳みその中で熱っぽい思考しか出来ない大部分でそう考えた。

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