※もし孫市がトリップしてたら
『ねぇさーん!今日は、女の子が主役なんで、ねぇさんにも無礼講れすか?』
「…誰だ、雪子に甘酒を飲ませた奴は…」
「・・・・・」
「………」
ドカッ!!
大好き大好きと連呼しながら、サヤカの腕に自分のそれを絡める雪子
誰の仕業だ、アイツの質問に伊達が視線を反らした。その次の瞬間には額に空瓶が直撃する。さすがの片倉も咎めはしねぇ
今日は雛祭りっていう女の祭。飾りなんかはしないものの、酒やら料理やらで祝っていた…が、しかし
主役の一人である雪子が甘酒を飲まされたからたいへんだ
「あれほど酒は口にするなと私は言ったはずだ」
『…ごめんなさい』
「祭なんだろ?雪子だって舐めるくらい飲んでもいいじゃねぇか」
「元親、私を諭す暇があるなら水くらい用意したらどうだ」
「………おう」
落ち込む雪子に責めてはいない、と声をかけるサヤカはずいぶん穏やかだった
雪子も雪子で嬉しそうに笑う。で、アイツに飛び付く。“しっと…”と呟いた伊達がまた何か投げられていた
『だって、今日は、孫市のねぇさんのお祝いでもあるから…私もお祝い…』
「ああ、その気持ちは嬉しい。だから追加で飲もうとするな」
『うぅ…』
「水よりこっちの方がいいだろ」
「悪いな元親。ほら、雪子」
『んー…』
じゅーすってやつをサヤカに渡せば、雪子の口元で湯飲みを傾けた
それを受けとるわけじゃなく、サヤカの手に自分の手を添えた雪子。素直にコクコクと喉を鳴らして飲んでいく
「…酔った女の子が飲み物飲んでるのって、何かいいね」
「猿飛…それはオレじゃなく、孫市に聞こえるように言えよ」
「やだよ俺様死にたくない。だいたい、飲ませてる側も何かやらし…」
「聞こえているぞカラスめ」
「うわっ!!?」
空いた湯飲みが今度は猿飛に直撃する!
隣の真田は「さすが雑賀殿…!」と、その腕に感心していた。いや、感心するとこじゃねぇだろ
『…おかわり』
「飲みすぎるな。ほら、あられだ。口を開けろ」
『むぐっ』
雪子の頬に手を添えて口を開けろと促すサヤカ
素直にそろそろと開いた口に小さな霰を放り込む。カリッと噛めば香ばしい味が広がったんだろう、雪子の顔がへにゃりと弛んだ
『………んっ』
「どうだ?」
『…おいしい。ねぇさんも、あーん?』
「ふっ…雪子が食べさせてくれるか?ほら、来い」
『うんっ!』
「………なぁ、」
「言うな長曾我部、分かってる」
俺の言葉の続きを伊達が制した。分かってる、その続きは言うな、と
普通なら女同士で微笑ましい光景
なのに雪子の頬の赤みが酒以外のものに見えるのは何故だ
「ふふっ、雪子は桃のように愛らしいな」
『えー、孫市ねぇさんは、桃みたいに綺麗です!』
「そう言うところが愛らしいんだ」
『やぅっ!くすぐったいですよ、ねぇさんっ』
「〜〜っ!!!」
「落ち着け毛利っ!!ありゃ女同士だ、やましくねぇ、堪えろっ!!」
「放さぬか長曾我部っ!!これ以上は見るに堪えんっ!!」
「気持ちは分かる!いちいちあの二人にヤキモキするのも分かるがやめろっ!!」
「分かるなら我を行かせよっ!!」
「テメェも―…!」
サヤカに殺られるぞ!
そう告げようとした瞬間には、すでに俺たち目掛けて何かが放たれた後だった
20130303.