女の子祭り | ナノ



『ごめんねー、浅井先輩は社長に捕まったから遅れるっぽいよ』

「ううん、いいの…きっと市と、ケーキを食べたくないんだわ…」

『いや、だから後で来るってば。ほらほら、バイキングなんだからたくさん食べよう』

「…………」

『…………』




私は携帯を取り出し、周りもドン引きな勢いでメールを打つ。浅井先輩、早く来てくださいコノヤロー


可愛い町のケーキ屋さん。テラスで私と彼女は遅れてくる浅井先輩を待っていた

今日は先輩とその奥さん…市さんの付き合い始めた記念日らしい



「きっと…市との記念日なんて、忘れてるの…そうよ、きっとそう」

『だから来るって!ほら、そのプレゼントを渡すんでしょ?』

「…………」



市さんが大事に抱えている袋。それは先輩に贈るネクタイが入っていた

彼女が私に相談してきて、一緒に考えに考えたプレゼント。ありきたりな物だけど気持ちがいっぱい詰まってる



「…受け取って、もらえる?」

『市さんがくれるなら先輩は何でも嬉しいと思うけど』

「…でも…市より大事なものが、きっとたくさん…たくさんあるの」

『(職場の机に奥さんの写真飾ってるんだけどなっ!!?)』

「でもそれを言うと、市を叱って…だから、何も聞けなくて…」

『うーん…』



先輩は短気なのか照れ屋なのか。とりあえず、こんな可愛い奥さんを悩ませるなんて万死!

冷めていく紅茶を眺めるけど…未婚な私に夫婦間の問題解決は難しい




『そうだなぁ…濃姫さんにも相談するとか、思い切って社長に…』

「…………」

『……市さん?』

「あの人…ナキのお友達?」

『…………は?』



細くて白い指が私の背後を指した。お友達?思わず聞き返すと小さく頷く

いったい誰だ。そう思って振り向けば、ほぼ同時にヒッという独特の笑い声をいただいた





『佐吉くんっ!!!』

「待て、佐吉よりも先にわれに気付いたであろう。何故に呼ばぬ」

『何事も子供優先なんで。どうしたの?こんな所に来て』

「ぎょうぶと共にナキを迎えに来た!」

「会社まで向かう途中、ここでぬしを見かけたのでな」

『入れ違いにならなくてよかったですね。まぁ、とりあえず二人も入りましょ』



植え込みの向こうから話しかけてくる彼ら。私は一度店を出て、佐吉くんと刑部さんを迎えに行く

テラスまでは段差もあるから。刑部さんを支えて一歩ずつ、だ



『つか、急に来ないでくださいよ。会社だったら部長がうるさいし』

「…すまない」

『あ、佐吉くんが言い出しっぺ?なら大丈夫、問題なし、むしろありがとう!』

「ヒヒヒッ、相も変わらず大人に厳しく子どもに甘いわ。ちとわれらにも優しさを向けぬか」

『あはー、刑部さんも甘やかして欲しいです?』

「………ふむ、」

『?』

「………止めておこう、われに優しいナキは気持ち悪い」

『突き飛ばすぞコノヤロー』

「ヒヒヒッ!ああ、今日はすこぶる足が痛い、病人を倒すほど冷徹な女であったか」

『嘘つくな!絶対に調子いいでしょっ』

「…………」

『……あ゛』




ケーキ屋で喧嘩を始めた私たちを周りが、そして市さんがじっと見る

やばい、かなり恥ずかしいぞ。刑部さんも視線に気づいて黙ってしまった…空気が重い




『…み、見苦しいとこ見せてすんません』

「…………」

『……市さん?』

「………いいな」

『………は?』
「………は?」



刑部さんと私の声がかぶる。それさえも羨ましいと言いたげに彼女は俯いた




「市たちは、喧嘩なんかしたことないの…外でそうやって、腕を絡めたりもしてくれない」

『市さん…』

「市もね、もっともっと…一緒に居たいから…」




ぽた、と落ちた涙が手元の袋に滲んでいく

急に泣き出した彼女に佐吉くんが戸惑い出す。泣くな!そう言ったら余計に泣き出す市さん



「佐吉、ちと黙っておれ、よいな?」

「う゛…わ、わかった」

『市さん市さん、別に市さんと先輩はこんな風になる必要ないと思うよ』

「ぬしがナキのようになってみよ。せんぱいとやらがあまりにも不憫よ、フビン」

『…刑部さん?』

「ヒヒヒッ!それぞれに別の魅力があるという意味よ、つねるでない」



刑部さんの腕をぐりぐりやってたら、やっぱり羨ましそうな視線

喧嘩するほど仲が良い…とは言うけれど。市さんと先輩は喧嘩なんかなくても仲良し夫婦だと思う




『…私は、お互い大事に思い合ってる二人が羨ましい』

「…市たち?」

『うんうん、一度言ってみたら?私の目を見て話して欲しい、て』

「っ……い、いや…」

『なんで?』

「…市、恥ずかしい…から」

『・・・・・』



隣の刑部さんを見上げる。彼も私と同じことを考えたらしい、微妙にシンクロ

佐吉くんだけは意味が解らず首を傾げていた




『…私の心配は取り越し苦労ですねたぶん』

「ヒッ…おそらく」

『なんて初々しい新婚さんなんだ!そして浅井先輩バカヤロー』



取り出した携帯を開き、アドレス帳から先輩の番号を探す

そしてコール




『もしもし先輩ですか?』

「あ、ああナキ。市と一緒か?そろそろ兄者の用も済むからと伝え…」

『可愛い息子が迎えに来たんで。奥さん放置で帰ります』

「………は?」

『心配なら早く来てラブラブしてあげてください、じゃ、お疲れさまでーす』

「お、おいっ!!待てナキ―…」



プツッ……




『…てわけで市さん、もうすぐ先輩来るからね』

「ナキ!市を置いてかないで…それに、…!」

『浅井先輩の姿が見えたら逃げるけどね。ギリギリまでここに居るから』

「ナキ…」

『…あはー、不安にならなくても大丈夫』




二人は今でも十分仲良し、みんなが羨むくらい

なのに満足できないのは、それくらい愛し合ってるってこと



『欲深くていいよ市さん、そんなに思ってもらえて先輩は幸福者だよ』

「ほんと?」

『うん。直接手を繋ぐのが恥ずかしいなら、早く子どもつくればいいのに』



私は側に立つ佐吉くんの手を引っ張る。急だから驚いたらしい、空いている手は咄嗟に刑部さんへ伸びた

それを彼が受け止めれば子どもを挟んだ男女…ほら、親子みたい



『ね?』

「…うん、それも市、羨ましい」

『プレゼントと一緒に子ども欲しいって言っちゃいなよ、先輩ならフリーズしてしばらく動かないかも』

「やれナキ、あの男がせんぱいではないか?」

「すごい勢いで走ってくるぞ」

「市ーーっ!!!!」

『うわやっば、さっさと逃げるよ二人とも!』




明日は先輩の説教だなー…もしくは礼を言われるか

すべては市さんの頑張りしだい。頑張ってね奥さん!





20130303.






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