追憶に身を委ねる聖夜



 

………………



『じゃあ、晩御飯はお願いしますね』

「任せといて。ゆっくりしてきなよ」

『………はいっ』



佐助さんに見送られ、私は家から一歩を踏み出した。息が白い


これから向かうのはタケちゃんの家。毎年12月23日はタケちゃんと前田…そして兄さんと一緒にクリスマスパーティーをしていたんだ

だからみんなには悪いけど、今日は一日…留守にさせてもらう



『あ−…寒いなぁ』



昨年よりもその前よりも、ずっと寒いクリスマス。それはもちろん隣に誰もいないから

兄さんと歩いたタケちゃん家までの道のりは、いつもと違う特別なデートだったから



『周りはカップルばっかりで…クリスマスのフライングだけどね…はぁ』




誇らしかったんだ。クリスマスの時期に、兄さんの隣を歩けることが。何より幸せだったんだ、彼を独り占めできることが


失ってしまった隣には、もう誰も入れないのかもしれない。けど…





「雪子!」

『っ……え、タケちゃ…』

「メリークリスマス、雪子!」

『前田っ!!?』



ふと顔を上げれば目の前に現れた見知った顔

私が気付いた瞬間、揃ってふんわり笑いかけてきた。前田とタケちゃん…私たち兄妹の幼馴染み



『なんで…今からタケちゃん家行くとこだったのに!』

「行き違いにならくて良かったよ!迎えに来たんだ」

『え……』

「僕は車を出そうとしたんだけど…彼が歩いて行くってきかなくてね」

「だって、どうせならクリスマスのイルミネーション見ていきたいだろ!?行こうよ雪子!」

『ちょ、前田!』



私の荷物を奪って先頭を歩きだした前田。それに肩をすくめたタケちゃんも、すぐに後ろをついて行く



『………』

「雪子、早く行くよ。何をして…」

『…あり、がと』

「っ………」

『迎えに…来てくれて、ありがとう』




今年、隣に兄さんはいないから。来年も再来年もいないから

だから寂しくないように迎えに来てくれたんだ。顔を見合わせた彼らは、同時にクスクスと笑いだす



「ふふ、僕に素直な雪子は気味が悪いね」

『…タケちゃん、私の素直を返せバカヤロー』

「あはは!雪子は素直で優しいよな、うん、お礼はいらないよ」

『前田も子供扱いすんな!』



ちょっとの照れを隠すように、二人の間に割り込んで歩き出す

小さい頃から恒例のクリスマスパーティー…それは貴方を失ってからも変わらない。けど、1つだけ違うのは




『あ、タケちゃん。頼んでたケーキって予約できた?』

「ん?ああ、もちろん。苺を多めにしといたよ、サービスさ」

『………うんっ』

「けど…あんな大きなケーキ、一人で食べきれるのかい?」

『あはは、今年は心配しないでよ!』




目をつむれば思い浮かべる彼らの顔

一緒に過ごせる人がいる、私のクリスマスには幸せな予感しか見えなかった





「…食べきれる、か」

「気を落とすなってタケちゃん!雪子だって…彼氏くらい、できるさ」

「そうだね…明日は三成君とクリスマスデートか」

「あれ?佐助さんとイチャイチャするんじゃないのかい?」

「………………」

「………………」

「…佐助…とは誰だい?雪子の恋人の名は三成くんじゃ…」

「え、三成、て誰のこと?彼氏さんの名前って佐助じゃ…」

「………は?」

「………へ?」




1223.


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