アラーム音で目が覚めた私はゆっくり身体を起こし、天井に向かって軽く伸びをした。そしてダブルベッドから降りてカーテンを開け、深呼吸。小鳥が囀る声と朝日に包まれてとても気持ちいい。
「結菜…眩しい…」
「おはよう蛮骨、朝だよ!」
「…んー、…はよ」
小さく弱々しい声でそう言うと、蛮骨は一度も目を開けないまま布団を被ってしまった。ごにょごにょと何やら呟いているみたいだけれど、はっきりとは聞き取れない。うーん、寝ぼけているのかな。
「まだ眠たい?」
「ん…」
「朝ごはんは和食でいい?」
「ん…」
全く同じ相槌ばかり(私の質問を理解しているかはわからないけれど)を返す蛮骨。身体を動かす気配は全くない。…そういえば昨夜は、仕事の確認に追われて忙しそうだったな。無理に起こすのは可哀相だと思い、朝ごはんを作ってからまた声を掛けることにした。
料理を作り、配膳も済ませた私は妙な達成感に浸っていた。蛮骨好みの味付けで、和食!サンドイッチとかトーストとか洋食のほうが楽だけど旦那さんのために頑張って作っちゃった。喜んでくれるといいなぁ。
もう七時だし朝ごはんも出来たから、そろそろ蛮骨を起こそうかな。私はエプロンを外しながら寝室へ向かった。
寝室へ入ってみると、相変わらず蛮骨は布団に包まって寝ていた。…なんだか猫みたい。ダブルベッドの上で丸まっているからか蛮骨が小さく見える。
「蛮骨ー」
「…、…ん?」
「朝ごはん出来たよ」
「んー」
「遅刻しちゃうよー」
「んー」
「10秒以内に起きないと、くすぐるよー」
「んー」
「10、9、3、2、1」
「わ!やめろ!あはははは!」
蛮骨の脇腹をくすぐると、彼はけたけた笑いながら身をよじらせた。さっきまで丸まって微動だにしなかった身体が、忙しなく上下左右に揺れている。そろそろいいかな、と思って私が手を止めると、蛮骨は息を切らせながらこちらを見た。
「…結菜、おはよ」
「目は覚めた?」
「おう…、ってかお前、10秒以内って言ったくせに全部数えてねぇし」
「え!わかった?」
「ちゃんと聞こえているぞ!」
「そうなんだ…」
…寝ぼけつつも、耳はこちらに向けてくれていたのね。ちょっと感動。
蛮骨はのっそりと起き上がり、私の頭に軽くぽんと手を乗せてから寝室を出ていった。…まだ眠そうだったな。そう思いながら、私は寝室を出て居間へと向かった。
「やっぱ顔を洗うとさっぱりするなー!」
「だよね。しゃきっとするし」
「お、朝飯は和食か」
「うん。好きでしょ?」
「勿論!ありがとな!」
そう言って蛮骨は機嫌良さそうに椅子へ座った。
…満面の笑みでお礼を言われて、すごく嬉しい。頑張って作った甲斐があるなぁと思いながら、私も食卓についた。
「忘れ物ない?」
「おう」
蛮骨は靴べらを使って革靴を履き、玄関の鏡を見てネクタイを正した。様になっているなぁ。なんて惚れ惚れしながら鞄を渡すと、また笑顔でお礼を言われた。そういうところ、すごく好き。
「じゃ、行ってくる」
「うん。お仕事頑張ってね」
「…あ」
蛮骨は何か思い出したような顔をすると、私の右手を掴んできた。…え?何だかよくわからなくて蛮骨を見つめると、瞬間、腰を引き寄せられて軽く口づけられた。
「そういえば今日、まだしてなかったよな」
そう不敵に笑い、蛮骨は私の髪をするりと撫でてからドアノブに手をかけた。その音で我に返った私は、慌てて蛮骨に声を掛ける。
「い…行ってらっしゃい!」
To be continued.