私達の下の部屋、405号室にやってきた。さっきは少しびっくりしたけれど…気を取り直して、キリッとかっこよく挨拶する!

隣にいる蛮骨へ目をやると、彼は405号室の表札を凝視していた。…なんだか、もやもやした感じの顔で。どうしたんだろうと思って見つめると、彼は私の視線に気づいて苦笑いをした。


「悪い、知り合いの名字と同じだからちょっと気になって」
「そうなの?…うーん、そんなに珍しい名字じゃないから偶然じゃないかなぁ」
「ああ…だがもしあいつだったら、犬夜叉の事を含めると…」


彼は顎に手をやって目をつむり、めんどくせぇかも…、と呟いた。蛮骨がめんどくさがるなんてよっぽどの相手だわ。誰だろう?
二人して405号室の前で考え込んでいると突然荒々しくそのドアが開いて、人が出てきた。


「あれ?ば、蛮骨の兄貴!?」
「やっぱりお前か、蛇骨…」
「なんだよその残念そうな反応はー!ひでぇなー!」
「残念じゃねぇけど、…これからの生活が不安だ…」
「なになに?もしかして兄貴、このマンションに住んでんの?」
「そ。お前の上の部屋に、昨日引っ越してきた」


ドアから現れた女の人と親しそうに話す蛮骨。うーん、どうやらまた知り合いの人みたい。それよりも「兄貴」って…一体何者!?
蛇骨さんが嬉しそうに「ご近所さんじゃん!」と言うと、蛮骨は軽くため息をついて頭に片手をあてた。


「まあ弟分が近所なのは嬉しいけどな、…どうせお前、犬夜叉を追っかけてきたんだろ」
「当たりー!実は俺、先週引っ越してきたんだ!犬夜叉の隣を確保できなかったのが残念だけど」
「相変わらずだなー」
「え…え…、ちょっと待って、二人はどういう関係…?」


犬夜叉さんは結婚しているのに、この女の人は彼を狙っているの!?
二人の話についていけなくて、つい私は会話を遮り問い掛けてしまった。それが気に食わなかったのか、蛇骨さんは私を鋭く睨みつけた。こ、怖い!


「なんだお前、俺に馴れ馴れしく話し掛けんな!」
「ぎゃー!ごめんなさい!」
「おい待て蛇骨、こいつは俺のかわいい嫁さんだ。そんな風に怒鳴りつけるのは許さねぇぞ」
「あ…兄貴の!?それはすまねぇ、んじゃあんたは姉貴だな」


私に慌てて謝ってくる蛇骨さんに、こちらこそ話を遮ってすみません、と頭を下げた。それで、彼女の言葉を思い返した。ん?姉貴?


「やめてください、私はそんな偉い人間ではないので!」
「えー?駄目?んじゃ姐御で!」
「もっと駄目です!」
「んじゃ結菜姉。これからよろしくな!」
「だから違…、…、こちらこそよろしくお願いします」
「話はまとまったみてぇだから帰るかー。じゃあな蛇骨」
「おー!」


蛮骨がまた勝手に別れを告げて立ち去ろうとするから、私は忙しなく手土産のタオルセットを渡して一礼し、蛇骨さん宅を後にした。


…あ、結局どんな関係なのか聞いていなかった!
階段の途中で改めて尋ねてみると「そんなことを気にしていたのかー」と言って蛮骨は優しく笑った。いや、普通は気になるからね!


「あいつは職場の後輩で弟分。ついでに犬夜叉に片思い中」
「へぇ、そうなんだ…。言葉遣いはちょっと男前だったけど綺麗な人だよね〜」
「…もしかしてお前、あいつを女だと思ってんのか?」
「うん」


蛮骨の問いに対し大きく頷くと、彼は盛大に吹き出して腹を抱えて笑いはじめた。
な、なんで笑われているの私…。わけがわからなくてきょとんとしていると、彼は目尻から出た涙を指で拭いこっちを見て一言「あいつは男だよ」と私に告げた。なるほど。だから弟分、なのね!


眩暈がしました。



To be continued.


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