次の日。引っ越しの荷物をだいたい片付け終わったから、私達夫婦はご近所さんへ挨拶をしに出掛けた。
まずは、隣の504号室。
ピンポーン。
インターホンをゆっくりと押し、返事がくるのを待った。
「はい」
「…!はじめまして、昨日505号室に引っ越してきた藤堂です。ご挨拶に伺いました」
「あ、はーい!ちょっとお待ちください」
インターホンから朗らかな声が。すぐ後にドアが開き、中からエプロンを纏った女の人が現れた。あ、あ、挨拶しなきゃ!昨日一生懸命練習したから頑張らなきゃ!
「こんにちは!先程申し」
「…かごめ?」
「え、ば、蛮骨じゃない!」
「奇遇だなー、久しぶり」
「そうね!六年振りくらいかしら」
吃りながら挨拶しようとする私の言葉を遮り、蛮骨は女の人と懐かしそうに会話を始めた。状況についていけない私は、呆然とその光景を見つめる。
「あ!結菜、すまねぇ。こいつは俺の高校時代の同級生だ」
「同級生!?」
「そうなんですよ〜。ちなみにそちらの方は蛮骨の奥さん?」
「おう、結菜っていうんだ」
「よろしくお願いします、結菜さん。私の名前は日暮かごめです」
「こちらこそよろしくお願いします!」
にこにこ笑顔のかごめさんは、「可愛いお嫁さんをもらっちゃったわねー!」と言って、蛮骨の肩をばしばしと叩いている。な、なるほど、同級生か…。元カノか何かかと思ってちょっとびびってしまった!
「かごめ、もしかしてまだあの馬鹿と付き合っているのか?」
「あ…うん、それが実は…」
「おい!なんでてめぇがここにいるんだよ!」
突然怒鳴り声にも似たようなものが聞こえてきて、私は反射的に目を閉じた。
直後に目を開けてみると、かごめさんの後ろには黒い長髪の男の人が立っていて、蛮骨もその人もひどく驚いていた。え、何、また知り合い?二人を順に見て私はそう尋ねた。
「…こいつも高校の同級生で、名前は犬夜叉。喧嘩相手だ」
「け、喧嘩!?」
「二人とも常に睨み合ってたわよね〜、短気で馬鹿だから」
「おいかごめ、それは蛮骨だけだぞ」
「待て、もしかしてお前ら、夫婦かよ?」
「まあな」
犬夜叉さんはかごめさんを自分の方に引き寄せて、頬を染めた。あ。絶対に照れている、この人!かごめさんは余裕みたいだけど。
「ま、別にどうでもいいや。隣に引っ越してきたから適当によろしくな。行くぞ、結菜」
蛮骨はそう言い、手土産のタオルセットを犬夜叉さんに押し付けてさっさと立ち去ってしまった。
私は慌てて二人に一礼をし、蛮骨の後を追った。駆け寄って彼の横に立つと、目が合った。
「…俺、あんまり犬夜叉に会いたくなかった」
「なんで?」
「昔、喧嘩で負けたんだよ。…あー、戦いたくなってきた」
「ちょっと、もう大人なんだからそれは駄目だよー」
「だから会いたくねぇの」
「あ、そっか…あははっ、蛮骨って負けず嫌いだもんねぇ」
「負けたままじゃいられないのが男ってもんだろ」
「えー?」
「なんだその反応は」
そんなことを話しながら、私達はゆるく手を繋いで階段を下りていく。
次は私達の部屋の下、405号室へご挨拶に行きます。
To be continued.