今日は蛮骨の弟分が私達の家へやって来る日です。緊張するな。
ピンポーン…とインターホンが鳴り響き、蛮骨は駆け足で玄関へ向かった。私も急いでその後を追い、彼がドアを開くのを待つ。
ドアノブに手を掛けて押すと、その向こうに三人の男の人が立っているのが見えた。


「よく来たな、お前ら!」
「げへへへ、大兄貴、久しぶり〜」
「おじゃましまーす!」
「おう、上がれ上がれ!」


快活な蛇骨さんの声が響き渡り、蛮骨は嬉しそうに笑って手招きをした。ぞろぞろと彼らは玄関を通り、蛮骨の導きでリビングへ入って行く。私は彼らに笑顔で挨拶をした。


「げへへへ…よお、可愛い奥さんだなぁ…人妻…げへへへ…」
「…え!?」


三人の最後尾にいた背の低い人が私を見上げて薄気味悪く笑っている。…な、なんだか怖い…思わずぎこちない笑顔を返しちゃった。彼は軽く会釈をすると、嘗め回すような目を私に向けて満足そうに微笑んだ。


「初めまして、俺は霧骨。よろしく」
「…あ、はい!よろしくお願いします。私は藤堂結菜です」
「げへへへ…いい身体だな…」
「!?」


え、何、変態!?
どう対応したらいいのかわからなくて私がおどおどしていると、霧骨さんの表情は恍惚としたものから恐怖へと変わった。その視線は私の背後。不思議に思って振り返ると、禍々しいオーラを放つ蛮骨が立っていた。…笑っているのに笑っていない。


「…おい、霧骨。結菜をこれ以上変な目で見たら…」
「わわわ、悪かったよ大兄貴!冗談だぜ、冗談!当然だろ!」


蛮骨の脅しに慌てて釈明をした霧骨さんは、忙しなく蛇骨さんを盾にして隠れてしまった。…蛮骨に助けられた…。私はひっそりと胸を撫で下ろし、ドアを閉めた。
蛮骨はリビングに入った彼らに椅子へ腰掛けるよう促した。皆が楽しそうに話している間に、私はお茶とお茶請けをキッチンへ取りに行く。そしてそれらをお盆に乗せてから一人一人の前に置いていくと、スキンヘッドの男性に「どうも」と礼を返された。


「ええと、煉骨さん…ですよね。お久しぶりです」
「先日はタオルセットをありがとうございました、結菜さん」
「いえいえそんな!」


律儀な人だなぁと思いつつ私は「ごゆっくりどうぞ」と三人へ一言かけてからリビングを離れ、キッチンで料理をし始めた。久しぶりの再会だもんね、楽しく話してくれたら嬉しいな。





蛮骨のフォローもあって、なんとか私は三人に上手く料理を振る舞えたし、楽しく会話をしながら食事することができた。特に蛇骨さんと霧骨さんのやり取りがおもしろい。ずっと笑っていた気がする。



食事をし終わり、私は食器を洗い、蛮骨達はリビングでくつろいでいた。すると突然蛇骨さんの「蛮骨の兄貴!」と呼び掛ける声が聞こえてきた。何かな、と思って私はリビングの方に目を向ける。蛮骨も不思議そうな表情をしていた。
そして蛇骨さんは霧骨さん、煉骨さんと目を合わせてからニカッと笑顔を見せた。


「今日はありがとな!すっげー楽しかったぜ!」
「げへへへ…これ、俺達弟分から」
「大したもん入ってねーけど、今日来られなかったほかの奴らとも一緒に考えて買ったんだ」


蛇骨さん、霧骨さん、煉骨さんはそう言って、紙袋を渡してくれた。無言のまま蛮骨はその中身を取り出した。


「お…お前ら…」


蛮骨はそう呟いて動きを止めた。不思議に思った私は濡れた手をタオルで拭きながら彼のそばへ駆け寄った。彼の背後から紙袋の中身を覗き込むと、そこにはお菓子の詰め合わせや洗剤セット、マグカップ、食器…様々なものが入っていた。
そして何より目を引いたのは、蛮骨の手に持たれた色紙。
「結婚・新居引っ越しおめでとう」と真ん中に書かれ、その周りには蛇骨さん達からお祝いのメッセージが記されていた。


「な…なんだよこれは」
「え!引っ越しおめでとうってやっぱ意味わかんねーかな!?無事引っ越しが終わって良かった、って意味なんだけど…」
「そうじゃねぇ!…忙しいのにこんなにたくさん用意してくれたのか」
「げへへへ…そりゃ、俺達は兄貴のことを慕って生きてきたんだ、全員で祝いたいだろ」


煉骨さんは無言で頷いた。…あ、駄目だ、今までに親交の無かった私ですら感動して泣きそう。蛮骨を見れば、ふるふると肩を震わせながら右腕で両目をこすっていた。


「お前ら、ありがとな!俺の自慢の…最高の弟分達だ!」


そう言って笑みをこぼす蛮骨に対して、蛇骨さん達は照れ臭そうに笑っていた。



To be continued.


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