「明日ってお仕事休み?」
「そうだけど…あ、久しぶりにどこか出掛けるか?最近忙しかったけど落ち着いたし」
「う…、ごめん、明日は親友と会う約束があって…、留守番をお願いしてもいい?」
そう言って結菜はぎゅっと目をつむり、手の平を胸の前で合わせて「お願い」のポーズをした。…なんだ、そんなことか。一緒に出掛けられないのは残念だが、当然俺は「わかった」と返した。すると結菜の表情はぱっと明るくなり、俺の手を握ってきた。
「ごめんね、ありがとう!」
「ま、息抜きは大切だろ。楽しんでこいよ」
「蛮骨…愛してる!」
笑顔いっぱいの結菜に抱きしめられ、思わず俺の口元もほころんだ。
*********
「この髪型、変じゃない?」
「おー可愛い」
「ありがとう!じゃあお留守番よろしくね!」
「気をつけろよー」
「はい、いってきます!」
慌ただしく結菜は出掛けていき、さっきまでと違って部屋が静かになった。…暇。俺はおもむろにリモコンを掴んだが、ふと、いいことを思いついた。
家事をやろう。いつも結菜にやってもらってばかりだからなー。…あいつの喜ぶ顔を見たいし。よし!
まずは洗面所へ向かった。
洗濯籠の衣服を適当に洗濯機へ放り込んで、棚から洗剤を取り出した。…洗剤は多い方がいいだろ。俺は箱半分の洗剤をぶち込み、適当にボタンを押した。泡がたくさん出るのを見てから、俺はリビングへ戻った。
次は掃除。
掃除機を引っ張り出し、俺は順調に部屋を綺麗にしていった。
…あー、少し疲れたな。袖で汗を拭っていると、丁度洗面所から軽快な音が聞こえてきた。
気分良く洗面所へ向かい洗濯機を覗いたら、中から泡が大量に溢れ出した。な…なんでだ。結菜がやった時には洗剤のいい匂いが香るが…、今回は洗濯機の調子が悪いらしい。蓋を閉めて適当にボタンを連打し、リビングへ戻った。
腹が減った。結菜が作り置きをしてくれたカレーを食おう。
冷蔵庫を開けると、ラップのしてある器の上にメモが置いてあった。「あたためてね」と書いてある。
電子レンジのボタンを適当に押し、俺はテレビを見て待つことにした。
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ちょっと早めに親友と別れたので、私は蛮骨へのお土産のケーキを持って、夕方になる前に自宅に到着した。鍵をかばんの中から取り出して扉を開けると、廊下の向こうから叫び声が聞こえてきた。…蛮骨?不安を感じた私は廊下を慌ただしく駆け抜け、リビングのドアノブに手をかける。だけど、びくともしない。
「蛮骨!何があったの?」
「入ってくるな!」
「…え?」
様子がおかしい…と言うよりも怪しい。蛮骨をおびき寄せるために、仕方なく私は奥の手を使うことにした。
「う…!苦しい!助けてー!」
「どうした、結菜!…あれ?」
バーン、という音が鳴ったんじゃないかと思うほど勢いよく開いたドア。…と同時に、強烈な異臭が漂ってきた。私は素早く立ち上がり、「結菜に騙された!」と言って慌てる蛮骨を押し退けてリビングへ入った。
…そこには壮絶な光景が。黒焦げのカレー、泡だらけの衣類、大量にある卵の殻、ひっくり返ったごみ箱、……。
「な…何これー!」
「あははは…いやー、たまには家事をやろうと思ったんだが…やっぱ俺、結菜がいねぇと駄目だわ。悪かった!」
そう言って、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。…うーん…、悪気はなさそうだし、好意でやろうとして失敗したみたいだし…、…それに、私は腹が立つどころか少し呆れてしまった。
ため息を一つ吐き、蛮骨の肩を数回叩いて顔を上げるよう促した。
「…今度、家事のやり方教えてあげるよ」
「許してくれるのか?」
「気持ちは嬉しいからね。ありがと。だけど、今から一緒に片付けようね」
「おう!」
蛮骨は嬉しそうに笑うと、腕まくりをしてガッツポーズをした。…私がいないと駄目、か…。ごみ箱を元に戻しつつ先程言われた台詞を思い出す。
「…私も同じだけどね」
「ん?何か言ったか?」
「ううん!さ、片付け頑張ろ!」
To be continued.