「儀式…死者蘇生の…?なんでそんな…こと…」
「…やはり知っていたか。まあいい、どのみち贄になるのだから話してやる」


菫さんの表情は冷めたものから不気味な笑顔に変わり、恐ろしさが増した。そして私の真横にしゃがんできたかと思うと、髪を根元から鷲掴まれた。激痛が走る。そのまま私の頭は持ち上げられ、菫さんと見つめ合う状態になった。


「痛っ、…離し…て」
「私には愛する人がいた」


…突然語り出した!
そんな素っ気ないことを思いつつも、これ以上乱暴にされたら困るから彼女の話に耳を傾けることにした。それに、相変わらず耳鳴りもつらい。


「優しく美しいあの人は妖怪…、ふふ、妖怪退治を行い清らかであるべき巫女が、禁断の愛を育んでしまったというわけだ」


妖怪…!?
驚いた私は視線を菫さんへ移し、じっと見つめた。どうして妖怪と…?犬夜叉や七宝ちゃんのような優しい妖怪がいるから、妖怪を差別するつもりはない。だけど私は、菫さんが妖怪と結ばれたということが少し意外に思えた。冷徹で怖いイメージしかなかったけれど、種族を越えた愛を築いたなんて、…これは私の偏見か…。
菫さんは長い睫毛を伏せ、儚げな表情で話を続けた。


「そして子を授かったのだが、…一族が半妖を許すはずなかった。私の子は殺されたよ」
「!?」
「私はあの子を取り戻したい。もう一度抱きしめたい」
「…それで…禁忌の術を…」
「そうだ。まあ、一族への復讐も含んでいるが、な」
「?」
「我が一族の者を、贄に使っている。私の生まれ変わりであるお前で完成だ」
「…!」


菫さんは再び不気味に微笑んで、いとも簡単に式神を召喚させた。それは、私がいつか戦った、炎を纏う大きな式神。そいつは「久しぶりだな」と見下したような目で私に挨拶し、私の衿元をくわえて自身の背に放り投げた。式神の背に叩きつけられ、私は思わず短いうめき声をあげてしまった。


「ど…どこへ行くの…」
「知ってどうする?どのみち死ぬというのに。仲間達から離れたことがお前の失点だったな」
「私は…!」


子どもを殺されてしまったなんて酷い。菫さんの苦しみは、未熟な私には想像出来ないほどのものだとわかるし、自分の子どもを奪った人達を憎んで当然。
だけど…綺麗事だけれど…、復讐心に囚われて他人を殺すなんて駄目でしょう。それに一族の中には全く無関係な人達もいるだろうし、特に子孫の私には何の罪も無い。殺されてたまるか。私は、現代に生きて帰る!

心の中でそう強く決意した瞬間、私のポケットからまばゆい光りが放たれた。…これは…覚えがある。力を振り絞ってポケットからお守りを取り出し、私は札を構えた。




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