「あれから十日…舞様、もう式神を簡単に呼び出せるようになりましたね」
「うん、ばっちり!」
「では次は持久力を鍛えましょう。式神を長い間維持できなければ無意味。敵にやられますからね」
「わかった。どんな事をするの?」
「とりあえず式神を呼び出してください。話はそれからです」


式神か…昨日時祢を呼び出して殴ってやったら、主がもっと強くなれば俺も頑張ります!すみません許して!…と言って泣いていたな。嘘泣きってすぐわかったけど。

私は大きく息を吐いて心を落ち着かせてから札を取り出した。そしていつものように構える。


「隱窘鑿匳齔…時祢!」


そう唱えると、ボン、という音が鳴ると共に時祢が現われた。奴は私と目が合うと驚いた顔をして、頭を瞬時にガードした。


「…また俺を呼び出しやがって…もう殴らないでくださいよ!」
「ちょっと、今小声で文句言わなかった?」
「そ、そんなわけないですよ」
「ふーん…じゃあ今から修行頑張れ。弥勒様、式神呼んだよー」


嫌そうな表情を見せた時祢をスルーして、私は弥勒様に修行の内容を教えてもらうことにした。


「では、あの岩を式神に持ち上げさせてください」
「あの岩…?うわ!」


弥勒様の指す方を見ると、そこには私の身長の二倍くらいの大きな丸い岩があった。草原のど真ん中にあるから不自然だと思っていたけど!まさか修業に使うとは…時祢大丈夫かな。

横に立つ時祢は、岩から目を離さずじっとしている。表情は真剣そのもの、…よかった。私は胸を撫で下ろした。


「じゃあ頑張ろうか!」
「そうですね、あなたの怪力ならきっと出来ますよ!」
「待て、あんたがやるんだよ!しかも私に怪力なんか無いから!」
「あ、今日はおつかいを頼まれていたんだった…ってわけで失礼しま」
「させるか!」


…やっぱりこいつが真面目に修行するなんてありえなかった。逃げようとする時祢の首をがっちりと締め付け、引きずりながら私は岩に近寄った。そして岩の前に立たせる。


「ほら、頑張りなさい!やらないならぼこぼこに…」
「喜んで修行させていただきます」


私の脅しに負けた時祢はぐるぐると両腕を回して屈伸をした後、岩に片腕を突き刺した。そしてその腕を上に向け見事持ち上げることに成功した。…めっちゃ得意げだし。


「主、出来ましたよ」
「さ…さすが私の下僕ね!弥勒様、次は何をすれば…」
「そのままでいてください」


………。

…ハッ!今一瞬無心状態になっちゃったよ。私は首を左右に振り、弥勒様の清々しい笑顔を凝視した。彼は私を見つめ返してにやりと笑う。


「ふっ…舞様、やっと私に惚れてくれましたか…」
「そうじゃなくて」
「照れているんですか?」
「違う」


嬉しそうに肩を抱き寄せてきた弥勒様の手の甲を力一杯つねった。そして修行の内容を知りたいということを伝えると、残念です、と言って彼は渋々私から離れた。


「このまま負荷をかけ続けて、手っ取り早く力を消耗していくんですよ。術者にもじわじわと疲れが出てくると思います」
「なるほど…どれくらい岩を持ち上げ続けるの?」
「夕方までにしましょう」
「わかった」


今はだいたい何時くらいだろう。さっきお昼を食べたばかりだから、多分あと四、五時間くらい日が沈むまでかかるのかな。


「よし時祢、頑張ろう!」
「はい」


私は時祢の前で座禅を組んで集中することにした。うん、なんか出来る気がしてきたよ!


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