「うん…やっぱりこの時代は空気がきれい!」


ぐっと伸びをしながら深呼吸。産業とかが発達していないと、こんなに違うもんなのか。


「あんな所にうさぎが!」


都会では滅多に見ることができない野生のうさぎを見つけて、私は夢中になって追いかけた。
…本当に夢中だったんです。


「…ここ、どこだ…」


そのせいで道に迷った。しかし私は、逆に迷子という状況を楽しんでみようかと思い、知らない道をどんどん歩いて行った。…そして森の奥へ奥へと進むにつれ、あることに気付く。


「もしかして私…危険?」


妖怪が普通に出没するこの世界で、妖怪を倒す能力のない女が一人で歩いてたら…間違いなく喰われる!焦って、自分が歩いてきた道を引き返した…けれど、こんな所を通ってきたっけ?…ん?


「ま、いっか」


気にせずそのまま森の中を歩いていくと、近くで怪しい物音がする。なななな何だ!?悪霊退散!悪霊退散!どきどきしながら物音のした方に行ってみる。


「あ、こんにちは」
「悪霊たいさ、…あ、どーも」


草むらから出て来た小さな女の子に挨拶をされ、つい返してしまった。その子は黒髪で、オレンジのアクセントがついている着物をまとっていた。両手には、たくさんの茸や魚を持っている。楓ばあちゃんの村の子?

藁にもすがる思いで村のことを尋ねてみたけれど、女の子は首を傾げた。うーん、やっぱり違ったか。


「りぃいーーーぃん!」
「…なんだ今度は」


遠くの方から、おっさんみたいな声が聞こえた。その声はこちらにどんどん近付いてくる。


「あ、邪見さまっ!」
「じゃんけん?」


女の子が手を振る方を見ると、小さな緑色の…恐らく妖怪だと思われるやつが走って来た。ものすごく息を切らせて。


「ぜーはー…り、りん!突然いなくなるな!ぜーはー…」
「ごめんなさい」
「全く、お前という奴は…ぜーはーぜーはー」
「小さいのに偉そうな態度…」
「なんだと人間の小娘!」
「小娘!?初対面なのに失礼な!」
「そっちが先に言ったんだろ!」


見知らぬちっちゃいおっさんは私の独り言を聞き逃さず、怒りをむき出しにしている。私はとにかく負けず嫌いで、悪口を言われたら悪口を返し続けた。


「二人とも喧嘩しないで…、あっ殺生丸様ー!」
「せせせせ殺生丸様!」
「邪見…、何をしている」


殺生丸と呼ばれる男が、ちっちゃいおっさんの後ろにいつの間にか立っていた。銀髪の長い髪がさらさらとそよ風になびき、とても綺麗。


「…行くぞ」
「は、ははは、はい!」
「はーい!」


妖怪は怯えつつ返事をし、女の子は片手をまっすぐ挙げて鼻歌を歌いながら殺生丸という男の人についていく。呆然とそれを見ていると、おっさんがこちらを振り返り悔しそうな表情で私を指さした。


「小娘め、今回は見逃してやるわ!」
「…あんたなんか人間の私でも倒せそうだわ」
「なんだと!?」
「邪見…早くしろ」
「すすみません殺生丸様!」


私を睨みつけ、慌てておっさんは殺生丸を追っていった。




ふと空を見ると、いつの間にか、日が沈みかけていることに気付いた。どうしよう。さっきの奴もきっと妖怪だったんだろうな…もしも人間を食べる妖怪が出てきたら…。

あの恐ろしい妖怪の姿を想像すると鳥肌が立った。なんで私はこんなに方向音痴なのに一人で森に来たんだ!
恐怖を振り払うために当てもなく走り続けた。


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