「私があんなに必死にならなくても、帰る方法はあったんだ…ちくしょう…」


珊瑚という女の人の言葉を聞いた私は部屋の端に座り込み、色々と呟き始める。その様子を見てさっきの二人は小さな声で何やら話していた。


「…ねぇ法師様、なんだかあの子の雰囲気が急に変わったよね?」
「二重人格というものだな」
「法師様には言われたくないと思うよ」
「……。」





「楓ばあちゃん呼んで来たよー。あ、弥勒様と珊瑚ちゃん!妖怪退治から帰って来たの?」


かごめちゃんが楓という人を連れて帰ってきた。彼女の後ろには、六十代くらいで白髪の巫女さんが弓を杖代わりにして立っていた。
なんだか妖怪みたい…と失礼なことを心の中で呟く私に、おばあさんが話しかけた。


「式を操る者らしいな?わしは楓という巫女だ」
「こんにちは、私は舞です」
「色々話を聞きながら、手当てでもしようか…どこを怪我したんだい?」
「こことここが痛いです」


私は腕と脇腹付近をおさえた。さっき着替えたばかりの着物がその部分だけ赤く汚れてしまっている。…悲惨だな。


「そうか、では先程摘んできた薬草で手当て…の前に、法師殿」
「なんでしょう?」


弥勒という人はとぼけた顔で楓さんに返事した。私に迫ってきた時と同じ、素敵なゼロ円スマイルを見せる。


「舞ちゃんの怪我を手当てするの。弥勒様は邪魔なのよ、わかる?」
「しかし、舞様の生肌を拝めるいい機会なので…」
「出ていけアホー!」


な、生肌…?彼は珊瑚さんにぼこぼこに殴られた後、結局家からつまみ出された。




そして私は楓さんの治療を受けながら、この世界へきた経緯などを細かく説明した。


「うむ…その声の主によってこの世界に連れてこられたのか」
「木箱の所で聞こえた声と、妖怪に襲われた時に聞こえた声は違うものでした」
「…おそらく妖怪に襲われた時に聞こえた声は、お主の力を司る者であろう」
「私の力?」
「舞、お主には霊力がある。だから式神を操れた」
「霊力…うーん」


急に言われてもピンと来ない。今まで自分とは全く関係のなかった物。漫画とかテレビとかでよく聞く単語が自分に備わっていると聞いても、…頭が破裂しそう。


「焦ることはないさ。少しずつわかっていけばいいんだよ」
「…そう…ですね」


珊瑚さんの言葉を聞いて、つい私は眉を曇らせてしまった。私は早く帰りたい…ゆっくりなんてしていられない。


「よし。これでいいだろう」
「ありがとうございます」


手当てを終わらせた楓さんに、肩を軽く叩かれる。服を着ながら私は一言礼を言った。


「なかなか深い傷だから、しばらく安静にしていたほうがいいだろう」
「はい。…そういえばかごめちゃんって、どうやってこの世界に来たの?」
「骨喰いの井戸っていう所からよ」
「自由に行き来できるの?」
「うん、まあできるんだけど…」


やっと見つけた希望!私は目を輝かせた。だけどかごめちゃんはそんな私の顔を直視せず苦笑いする。


「何!?」
「その…」
「言って、気になるからっ」
「…私と犬夜叉しかその骨喰いの井戸を通ることができないの」


…は、い?


「かごめちゃんと、犬夜叉だけ…犬だけ…犬…犬…」
「で、でもね舞ちゃん!行ってみないとわからないから、怪我が治ったら行ってみましょ」
「うん…」


治ったら、なんて言っていられない。私は…早く私の世界に帰る!


To be continued.

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