「犬夜叉ー。バレンタインのお返しをした方がいいと思うわよ」
「仕返し?」
「違う違う。贈り物を貰ったら何かお返しをするでしょう」
「しねぇ」
「…しなさい。」



ばれんたいんとやらの礼をしろしろしろとかごめがしつこく言いやがるから、俺はあいつのために何かをやる事にした。…まあ、普通の団子は美味かったし。
だが、何も思い浮かばねぇ。贈り物を求めてふらふら歩いていると、村の女達の手を握って何か囁いていやがる弥勒と目が合った。そういえば弥勒は何を返すんだ?ふと気になって俺は足を止めた。…あいつの背後に立っている珊瑚の表情には触れねぇぞ。


「おい弥勒、ばれんたいんとやらの礼を考えたか?」
「勿論です」
「何にしたんだよ」
「花束と愛の言葉を贈ります」
「……。」
「ふーん、ちなみに何て言うの?」
「『愛しています。私の子を産んでく…』…ん?今のは犬夜叉の声ではな、い…」
「今日もいい天気だね法師様」
「さ、珊瑚?!待て、早まるな、これは誤解であって犬夜叉の策略…!」
「黙れー!」


こいつに聞いた俺が馬鹿だった。変態野郎の血飛沫が飛び散る光景を見てから、何も言わずにその場を去った。






時間をかけて色々と考えてみたが、駄目だ。女がどんな物を好きだとかどんな物で喜ぶのかとか、俺には全くわからねぇ。…あいつなら尚更、つーか女なのかどうかも疑わしい。
かごめには「私にはいいから。ちゃんと自分で考えなさいね!」って言われちまったから聞けねぇし、弥勒はあんな事を言いやがるし、珊瑚は…、…色々と忙しいようだし。

…まだ時間はある。とりあえず楓ばばあの家に戻ってまた考えるか。
踵を返して前を見ると、今一番会いたくねぇ女が立っているのが目に入った。なんとか身を隠そうとしたが、それより先にあいつが俺に気付いて駆け寄ってきた。


「犬夜叉だ!珍しいね、あんたが村を歩き回っているなんて」
「……。」
「何でそんな顔をして…、あっ、ごめん、お便所に行く途中だったのか!近くに叢があるから間に合わないならあそこで…」
「てめぇいい加減にしろよ」
「あれ、違った?」


わざとらしく笑うこいつの頭を平手で叩いてから、俺は歩き出した。泣きまねをしているのが見えても無視してやったら、慌てた様子で追いかけてきやがった。


「ツッコミがいないボケは単なる駄目人間だよ!?放置しないでください!」
「意味わからねぇ事を言うな!」
「…本当にどうしたの?なんだか悩んでいるように見えるけど」
「う」
「何かあった?」


こ、こいつ…いつもなら茶化して終わるくせに、珍しく心配そうに尋ねてくるとは…明日は大雨だな!?濡れるからめんどくせぇのに!そんな事を考えていると、突然袖を掴まれた。…拗ねた顔でこっちを見るな。


「今、なんか失礼な事を考えていたでしょ?ま、言いたくないなら無理に聞くけどさー」
「聞くのかよ!」
「話したらすっきりするぞ!」
「……。」


急かすようにぐいぐい袖を引っ張られ、押し黙っている事がなんだかめんどくさくなった。仕方なく、俺は事情を話すことにした。


「実は…、お前への礼を何にするか迷っている」
「…お礼?何の?」
「ばれんたいんとやらの」
「え?うそ!?…あはは!」
「なっ…、なんで笑われなきゃいけねぇんだよ!」
「あはは!ごめん、犬夜叉が私のために悩んでくれていたのかと思うと…ちょっと嬉しくて」


そしてこいつは、ありがとう、と呟くと朗らかに笑い、俺の手を握ってきた。…その台詞と行動のせいで顔が熱くなる。


「犬夜叉、私のことそんなに好きなんだねー」
「ばばば馬鹿野郎!違う!かごめがうるせぇから仕方なく…!」
「だったら『お返し』と託けてそこら辺の小石を私に投げつけてもよかったんじゃないの?」
「それは…やるか迷った」
「おい」
「…で、礼は何がいい?」
「んー?気持ちだけで十分!」


こいつはそう言って俺の頭を撫でて、また笑顔を見せた。…たまにはこういうのも悪くねぇ、かもな。


end.



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